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噂④側妃の交友関係
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「噂って面白いのね。」
クラリスはこれまで然程噂を利用してこなかった。貴族達の娯楽といった要素が強く、暇な人が信じるもの、としか思っていなかった。
「貴族は、情報が命だから、噂はある意味においては、誰もが関わるものなのね。」
アントニオから派遣されたノーグという男は、クラリスの補佐兼教育係として、冤罪について一緒に考えてくれている。
「火のないところに煙は立たぬ、と言いますでしょう?噂をされるということは少なからずそういった動きがあるのだと錯覚させるのです。今回はあの男爵令嬢の素行といった下地がありましたからね。それに、男爵令嬢でありながら、お嬢様を蹴落とし、妃になろうとしている。
あの噂はご令嬢達の茶会でのみ、隣国でしか流行りませんでしたから、男性にしか良い顔をして来なかった彼女の知らないところで進んでしまいましたからね。
王子アレクセイは、隣国での醜聞を気にして、名乗りをあげた全員に慰謝料を用意するつもりのようだ、なんて。アレクセイ様を持ち上げておいて、皮肉で返すとは、面白いやり方でしたね。」
ノーグのいうように、下地は此方から手を下さなくてもバッチリだった。今回、隣国にいる、クラリスの友人の公爵令嬢に声をかけたところ、嬉々として、協力を受け入れてくれた。
「どうやら、隣国ではそこらの下位貴族より立場が上の平民だったようなの。男爵様の手腕はその頃からね。だから、婚約破棄に彼女が関わっていても、簡単に声を上げられなかった。友人は、自分の周りで起きていく婚約解消やら破棄やらに何度か力を貸そうとしたのだけれど、どうにも出来なかった後悔があって、だから、協力してくれたのだと思うわ。」
「公爵令嬢が助けられない相手とは、裏社会とかに通じているのか、と勘繰ってしまいますね。」
「実際、それに近いことはしていたみたいよ。……でも、それにしても腑に落ちないのよね。公爵家が太刀打ちできない相手って言うのが。」
ノーグも、クラリスもそれが誰を意味するのかわかっている。大方、後ろには甘い汁を啜っていた王家かそれに近い奴等がいたのだろう。だから、たかだか平民相手に手が出せなかった。だが、それはこうなってしまった以上、最悪の醜聞になる。隣国の貴族が、我が国で訴訟を起こしたという意味を彼らが気づいていないはずもない。
だとしたら、「その後ろ盾は、側妃様のお友達」と言う私達の噂に飛びついてくれるのではなかろうか。
国際問題になる前に、アントニオが決着をつけてくれるはずだ、とノーグは言う。
「今までちゃんと仕事をして来なかったのですから、少しは働いてもらいませんと。」
ノーグは側近として、アントニオには少し厳しくなるらしい。今回ノーグを貸してくれたのは、彼が適任だと判断したのと他に、少し彼と離れてホッとしたかったのもあるのかもしれない。
「目を離すとすぐに食べすぎるのですから。毒だって、いつ致死量を盛られるかわからないんですよ?まあ、最近は貴女に巻き込まれたおかげで、食事より楽しいものが出来たみたいですが。」
ノーグは、複雑な表情で続けた。
「アレクセイ様には大した交友関係はありませんが、問題なのは側妃様の交友関係です。彼女自身は恐るるに足りませんが、周りのハイエナ連中には今後気を付けていかねばなりません。そろそろ、噂の元に辿られる頃でしょうから。」
クラリスは楽しくて忘れていた。王家や大臣達が甘い汁を啜っているのは、我が国も同じ。側妃様を巻き込むことで、彼らの領域を侵すことになるのだ。
「ならば、彼ら諸共、沈んでもらうしかないでしょう。」
必要悪ならまだしも、不必要悪を野放しにしている意味はない。その為の悪になら、喜んでなりましょう。
クラリスはこれまで然程噂を利用してこなかった。貴族達の娯楽といった要素が強く、暇な人が信じるもの、としか思っていなかった。
「貴族は、情報が命だから、噂はある意味においては、誰もが関わるものなのね。」
アントニオから派遣されたノーグという男は、クラリスの補佐兼教育係として、冤罪について一緒に考えてくれている。
「火のないところに煙は立たぬ、と言いますでしょう?噂をされるということは少なからずそういった動きがあるのだと錯覚させるのです。今回はあの男爵令嬢の素行といった下地がありましたからね。それに、男爵令嬢でありながら、お嬢様を蹴落とし、妃になろうとしている。
あの噂はご令嬢達の茶会でのみ、隣国でしか流行りませんでしたから、男性にしか良い顔をして来なかった彼女の知らないところで進んでしまいましたからね。
王子アレクセイは、隣国での醜聞を気にして、名乗りをあげた全員に慰謝料を用意するつもりのようだ、なんて。アレクセイ様を持ち上げておいて、皮肉で返すとは、面白いやり方でしたね。」
ノーグのいうように、下地は此方から手を下さなくてもバッチリだった。今回、隣国にいる、クラリスの友人の公爵令嬢に声をかけたところ、嬉々として、協力を受け入れてくれた。
「どうやら、隣国ではそこらの下位貴族より立場が上の平民だったようなの。男爵様の手腕はその頃からね。だから、婚約破棄に彼女が関わっていても、簡単に声を上げられなかった。友人は、自分の周りで起きていく婚約解消やら破棄やらに何度か力を貸そうとしたのだけれど、どうにも出来なかった後悔があって、だから、協力してくれたのだと思うわ。」
「公爵令嬢が助けられない相手とは、裏社会とかに通じているのか、と勘繰ってしまいますね。」
「実際、それに近いことはしていたみたいよ。……でも、それにしても腑に落ちないのよね。公爵家が太刀打ちできない相手って言うのが。」
ノーグも、クラリスもそれが誰を意味するのかわかっている。大方、後ろには甘い汁を啜っていた王家かそれに近い奴等がいたのだろう。だから、たかだか平民相手に手が出せなかった。だが、それはこうなってしまった以上、最悪の醜聞になる。隣国の貴族が、我が国で訴訟を起こしたという意味を彼らが気づいていないはずもない。
だとしたら、「その後ろ盾は、側妃様のお友達」と言う私達の噂に飛びついてくれるのではなかろうか。
国際問題になる前に、アントニオが決着をつけてくれるはずだ、とノーグは言う。
「今までちゃんと仕事をして来なかったのですから、少しは働いてもらいませんと。」
ノーグは側近として、アントニオには少し厳しくなるらしい。今回ノーグを貸してくれたのは、彼が適任だと判断したのと他に、少し彼と離れてホッとしたかったのもあるのかもしれない。
「目を離すとすぐに食べすぎるのですから。毒だって、いつ致死量を盛られるかわからないんですよ?まあ、最近は貴女に巻き込まれたおかげで、食事より楽しいものが出来たみたいですが。」
ノーグは、複雑な表情で続けた。
「アレクセイ様には大した交友関係はありませんが、問題なのは側妃様の交友関係です。彼女自身は恐るるに足りませんが、周りのハイエナ連中には今後気を付けていかねばなりません。そろそろ、噂の元に辿られる頃でしょうから。」
クラリスは楽しくて忘れていた。王家や大臣達が甘い汁を啜っているのは、我が国も同じ。側妃様を巻き込むことで、彼らの領域を侵すことになるのだ。
「ならば、彼ら諸共、沈んでもらうしかないでしょう。」
必要悪ならまだしも、不必要悪を野放しにしている意味はない。その為の悪になら、喜んでなりましょう。
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