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噂②男爵家の裏家業
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彼方側が今現在用意している冤罪リストとやらの写しを、アントニオは既に手に入れていた。先に流した噂のおかげで、第二王子アレクセイの動向を教えてくれる親切な者が増えたという。所謂手のひらを返した者達の言葉だから、信用はならないが、リストは確かに存在していて、誰の字か判断はつかないものの、明らかに誰を追い詰めようとするものかはっきり明記されている。
「悪役令嬢クラリスを断罪するためには」なんて、書いちゃってるから、これもまあ、こちらで利用出来る立派な証拠となる。
「いや、よく思いつくものだ。」
そう言って感心したようにリストを眺めているが、時折噴き出して笑いが止まらなくなったり、呆れてため息をつきそうになっている様子を見ると、碌なことが書いてないのは容易に想像できる。
リストはその後、クラリスの手元にやってきた。中には些細な、罪と言うほどのことでもないものもあった。こんな些細なことを、断罪する、などと言う人もおかしいし、何だかやってもいないことで、自分がとても小さい人間だと、思われているのも悔しい。
「これなんか、どうだ?」
アントニオが嬉々として、指し示した欄には、「公爵家の悪行」の文字。
「悪行?って何ですか?」
「んー?これによると、公爵家が主体でやっている孤児の職業訓練のことらしいな。」
「え?それのどこが悪行なんです?」
「奴等曰く、小さな子供に働かせるなんて、酷い!だそうだ。」
クラリスは絶句した。職業訓練をせずに放り出される方が、酷いことではないか。いや、そもそも孤児院にはずっといるわけではない、と言うことを知らないのだろうか。子供達が働くのは、孤児だけでなく、平民なら当たり前だと言うのに。
それに、貴族だって、似たようなものだ。家の為に、令嬢令息として相応しい働きをすることは、生きていくのに必要なことではないのだろうか。それとも、男爵令嬢が育った隣国では、子供が働く為に勉強したりはしないのだろうか。
「トリア男爵令嬢は、隣国で育ったのでしたわよね。」
「彼女は平民だったが、裕福で甘やかされた立場にいた為に、働いたことなどは勿論ない。
だが、男爵家の護衛の中には孤児院出身の者はいる。彼にも幼い頃から働いて可哀想と発言していることから、多分根っからの花畑思考なのだろう。深い考えなどはない。」
「ああ、話が通じないタイプね。なら、此方側は、男爵家の裏稼業で押しますか。」
「そうだな。前男爵の頃には少しあった借金が、今の当主になってからは綺麗さっぱりなくなった。多少強引なこともしたのだろう。」
クラリスはいとも簡単に冤罪をでっちあげようとする第一王子とその側近を、複雑な思いで見つめた。
リストにある「公爵家の悪行」には、他にも首を傾げるようなものがいくつか挙げられている。
「ちょっと詳しすぎるわね。」
公爵家の実情を知られすぎな気もする。裏切り者がいるのかもしれない。
「トリア男爵家は潰してもよいかしら。」
「どのみち、あの後継者ではそうなるだろうな。」
男爵令嬢はわかっていないみたいだが、クラリスを蹴落とすことが出来たとして、男爵令嬢では、王家に嫁ぐことはできない。
「なら、そうね。金策のため、ってことにしましょう。男爵は娘を思って、のことにしたら、同情は得られるんじゃないかしら。」
男爵令嬢が王子のお側にいる為には愛妾ぐらいが関の山だが、今のところこの国に愛妾制度はない。
先立つものは結局お金だ。莫大なお金が有れば、もしかしたら、男爵令嬢でも王子の妃になれるかもしれない。
二つ目の噂は、男爵家に言及しつつ、男爵令嬢の行いに注目させるように誘導した。
「どうやら、男爵令嬢は本気で妃になりたいらしい。」と言う風に。
「悪役令嬢クラリスを断罪するためには」なんて、書いちゃってるから、これもまあ、こちらで利用出来る立派な証拠となる。
「いや、よく思いつくものだ。」
そう言って感心したようにリストを眺めているが、時折噴き出して笑いが止まらなくなったり、呆れてため息をつきそうになっている様子を見ると、碌なことが書いてないのは容易に想像できる。
リストはその後、クラリスの手元にやってきた。中には些細な、罪と言うほどのことでもないものもあった。こんな些細なことを、断罪する、などと言う人もおかしいし、何だかやってもいないことで、自分がとても小さい人間だと、思われているのも悔しい。
「これなんか、どうだ?」
アントニオが嬉々として、指し示した欄には、「公爵家の悪行」の文字。
「悪行?って何ですか?」
「んー?これによると、公爵家が主体でやっている孤児の職業訓練のことらしいな。」
「え?それのどこが悪行なんです?」
「奴等曰く、小さな子供に働かせるなんて、酷い!だそうだ。」
クラリスは絶句した。職業訓練をせずに放り出される方が、酷いことではないか。いや、そもそも孤児院にはずっといるわけではない、と言うことを知らないのだろうか。子供達が働くのは、孤児だけでなく、平民なら当たり前だと言うのに。
それに、貴族だって、似たようなものだ。家の為に、令嬢令息として相応しい働きをすることは、生きていくのに必要なことではないのだろうか。それとも、男爵令嬢が育った隣国では、子供が働く為に勉強したりはしないのだろうか。
「トリア男爵令嬢は、隣国で育ったのでしたわよね。」
「彼女は平民だったが、裕福で甘やかされた立場にいた為に、働いたことなどは勿論ない。
だが、男爵家の護衛の中には孤児院出身の者はいる。彼にも幼い頃から働いて可哀想と発言していることから、多分根っからの花畑思考なのだろう。深い考えなどはない。」
「ああ、話が通じないタイプね。なら、此方側は、男爵家の裏稼業で押しますか。」
「そうだな。前男爵の頃には少しあった借金が、今の当主になってからは綺麗さっぱりなくなった。多少強引なこともしたのだろう。」
クラリスはいとも簡単に冤罪をでっちあげようとする第一王子とその側近を、複雑な思いで見つめた。
リストにある「公爵家の悪行」には、他にも首を傾げるようなものがいくつか挙げられている。
「ちょっと詳しすぎるわね。」
公爵家の実情を知られすぎな気もする。裏切り者がいるのかもしれない。
「トリア男爵家は潰してもよいかしら。」
「どのみち、あの後継者ではそうなるだろうな。」
男爵令嬢はわかっていないみたいだが、クラリスを蹴落とすことが出来たとして、男爵令嬢では、王家に嫁ぐことはできない。
「なら、そうね。金策のため、ってことにしましょう。男爵は娘を思って、のことにしたら、同情は得られるんじゃないかしら。」
男爵令嬢が王子のお側にいる為には愛妾ぐらいが関の山だが、今のところこの国に愛妾制度はない。
先立つものは結局お金だ。莫大なお金が有れば、もしかしたら、男爵令嬢でも王子の妃になれるかもしれない。
二つ目の噂は、男爵家に言及しつつ、男爵令嬢の行いに注目させるように誘導した。
「どうやら、男爵令嬢は本気で妃になりたいらしい。」と言う風に。
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