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真相はどうあれ
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ハインツが祖国から脱出し、亡命したところで、命を狙われている以上、祖国の情勢を全く無視することはできない。寧ろ、亡命後の方が祖国について詳しくなったかもしれない。
主に情報の仕入れ先は、宰相家のアルフレッドと、義理の甥で、王妃の侍医である、ヘンドリックからだ。
彼らからの情報は正確で、偶に物騒でない話題も挟んでくれているため、ふと懐かしい気持ちになったりして、大いに慰められるものだった。
その話の中には、甥であるエリオスの数々の失態や、それに振り回される使用人達の姿があった。王宮の使用人全てが希望の場所で働けるわけもなく、また人数が多いのもあって、他家の貴族よりは質が良いとは言われていても個人の資質によることが多いのだが、それにしても、エリオスの周りには碌でもない使用人が多かった。
仕事を一手に引き受けた王妃の目の届かない隙に、王子を取り巻く使用人の人選が行われていたようだ。
そうして、彼は神童から暴君に様変わりしてしまった、とハインツは思っている。
覚えている限りでは、彼は自身の立場上、偉そうではあるが、嫌な奴ではなかった。
ベアトリス嬢を邪険に扱ったこともない。ただ両親の背中を見て真っ直ぐに育っただけだ。
彼はジョセフィーヌ嬢に、特定の誰かがいたことについては知っていた。処女でないことも、聞いていたと言うが、それが最低限の妃の資格だとは知らなかった。
彼らは、ジョセフィーヌ嬢がヘンドリックより、妃にそぐわない、と宣言されてから姿を消していた。
国を出たと言う報告はないし、出たとも思えない。彼らにつけていた筈の王家の影は、消えているし、今は全く姿を見ないことから、二人の安否が心配されていた。
「彼らが身を潜めるとしたら、せいぜい隣国のような気がします。」
そう話すのはクリス。彼ぐらいの力のあるものが、あの国にいたとは思えないし、少なくとも今のエリオスに力を貸して得られるものは少ない。
「隣国には、何がある?」
「隣国には、リディアの鉱山を狙う王族がいますね。」
「幾らエリオスでも、そのことについては知っている筈だ。のこのこと隣国に足を踏み入れるだろうか。」
エリオスは当然剣なんてものは、触れない。全て他力本願で、騎士に守ってもらう、心算だからだ。
「それにしても、二人ともいないのが、気になります。男爵令嬢諸共拐われたのには、意味があるのだろう。」
話を聞いていたアルフレッドに心あたりがあるようで、もしかしたら、とおずおずと声を出す。
「男爵令嬢を側妃にしたい、とエリオス様に言われるようになる前に、少し気になることをベアトリス様達から聞いた気がするのです。もしかしたら関係ないはないかもしれないのですが、少し気になってしまいまして。ただ、すっかり内容を忘れてしまった様で。うろ覚えのため、ベアトリス嬢に話を聞いても宜しいでしょうか。」
「構わない。彼女が良いのなら、それで。」
アルフレッドが、ベアトリスに聞いた話は、ある貴族の派閥についての相談事だ。
第一王子を立太子させるべく、動いてきた王家だったが、彼の王子としての資質を見るに心配があったのは、知っての通り。その心配の範疇かどうかははっきりしないが、第一王子派の一部の貴族が、隣国において、随分勝手な行いをしている、と隣国から苦情が来ていた。その一部の貴族の中には、ジョセフィーヌ嬢の父の名もあり、目をつけていたところだった。
果たして、正体を表したのか、否か。
一人のご令嬢の仮面を剥がしたらとんでもない事実が現れそうで、身体が震えた。
主に情報の仕入れ先は、宰相家のアルフレッドと、義理の甥で、王妃の侍医である、ヘンドリックからだ。
彼らからの情報は正確で、偶に物騒でない話題も挟んでくれているため、ふと懐かしい気持ちになったりして、大いに慰められるものだった。
その話の中には、甥であるエリオスの数々の失態や、それに振り回される使用人達の姿があった。王宮の使用人全てが希望の場所で働けるわけもなく、また人数が多いのもあって、他家の貴族よりは質が良いとは言われていても個人の資質によることが多いのだが、それにしても、エリオスの周りには碌でもない使用人が多かった。
仕事を一手に引き受けた王妃の目の届かない隙に、王子を取り巻く使用人の人選が行われていたようだ。
そうして、彼は神童から暴君に様変わりしてしまった、とハインツは思っている。
覚えている限りでは、彼は自身の立場上、偉そうではあるが、嫌な奴ではなかった。
ベアトリス嬢を邪険に扱ったこともない。ただ両親の背中を見て真っ直ぐに育っただけだ。
彼はジョセフィーヌ嬢に、特定の誰かがいたことについては知っていた。処女でないことも、聞いていたと言うが、それが最低限の妃の資格だとは知らなかった。
彼らは、ジョセフィーヌ嬢がヘンドリックより、妃にそぐわない、と宣言されてから姿を消していた。
国を出たと言う報告はないし、出たとも思えない。彼らにつけていた筈の王家の影は、消えているし、今は全く姿を見ないことから、二人の安否が心配されていた。
「彼らが身を潜めるとしたら、せいぜい隣国のような気がします。」
そう話すのはクリス。彼ぐらいの力のあるものが、あの国にいたとは思えないし、少なくとも今のエリオスに力を貸して得られるものは少ない。
「隣国には、何がある?」
「隣国には、リディアの鉱山を狙う王族がいますね。」
「幾らエリオスでも、そのことについては知っている筈だ。のこのこと隣国に足を踏み入れるだろうか。」
エリオスは当然剣なんてものは、触れない。全て他力本願で、騎士に守ってもらう、心算だからだ。
「それにしても、二人ともいないのが、気になります。男爵令嬢諸共拐われたのには、意味があるのだろう。」
話を聞いていたアルフレッドに心あたりがあるようで、もしかしたら、とおずおずと声を出す。
「男爵令嬢を側妃にしたい、とエリオス様に言われるようになる前に、少し気になることをベアトリス様達から聞いた気がするのです。もしかしたら関係ないはないかもしれないのですが、少し気になってしまいまして。ただ、すっかり内容を忘れてしまった様で。うろ覚えのため、ベアトリス嬢に話を聞いても宜しいでしょうか。」
「構わない。彼女が良いのなら、それで。」
アルフレッドが、ベアトリスに聞いた話は、ある貴族の派閥についての相談事だ。
第一王子を立太子させるべく、動いてきた王家だったが、彼の王子としての資質を見るに心配があったのは、知っての通り。その心配の範疇かどうかははっきりしないが、第一王子派の一部の貴族が、隣国において、随分勝手な行いをしている、と隣国から苦情が来ていた。その一部の貴族の中には、ジョセフィーヌ嬢の父の名もあり、目をつけていたところだった。
果たして、正体を表したのか、否か。
一人のご令嬢の仮面を剥がしたらとんでもない事実が現れそうで、身体が震えた。
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