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懐かしい記憶

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「素敵な髪飾りですわね。」

特に裕福ではない子爵家において、高位貴族のご令嬢のように、毎回違うドレスを着るとか毎回違うアクセサリーを使う、など到底できるものではない。

茶会は選りすぐりのところだけに顔を出し、更にはリメイクなどで誤魔化すのが定石だ。リメイクと言っても、目線を変えるだけで、全く別の雰囲気にすることができるし、一着のドレスを何度も楽しめるのだから、これは高位貴族にはできない楽しみ方の一つだ。

その中にあって、はじめての茶会で父から贈られた大切な髪飾りを人に無理矢理奪われたらどうするだろうか。

エリーヌは、幼い頃の自分が純粋無垢でなくなったあの初めての茶会に想いを馳せる。

手にとって見たい、と言う声に導かれ、奪われた挙句無惨に壊された父からの贈り物。彼女曰く、手に取って見たら勝手に壊れただけ。安物を買い与えられて、可哀想。そうして、笑った彼女の名をずっと胸に刻んでいた。

目の前で血の気を失っているのは、身体が成長しても、精神は幼いままだった、憎き伯爵令嬢。

彼女は病弱を理由に、社交をしていなかったが、それが嘘だとあの日茶会に出ていた者は知っている。

彼女の罪を暴露したのは彼女の兄で、彼は妹とは違い正しい人だった。父にも私にも丁寧に謝罪を繰り返し、身分差から言えばいくらでも誤魔化せるのに、そうしなかった。そのことで、彼は父親からは叱られたそうだが、彼の誠意ある対応のおかげで、没落せずに済んだのだから、感謝するべきだ。

あの茶会の後、社交に締め出された彼女と、エリーヌが会うことは叶わなかった。だから、第一王子エリオスを通して、再び会えたことに感謝した。正直、ハズレの王子がしたことで良いことはそれしかない。

憎きオーブリー嬢は、こちらのことを全く覚えていなかったけれど。





彼女がどうやら、側妃に与えられる宝石を盗んでいる、と言う情報は、ミランダ嬢から与えられた。

「エリーヌ様が言っていたから、気になって見ていたの。流石、盗みのプロね。鮮やかに目の前から持っていくのだもの。

吸い込まれるように、彼女の手の中に入っていったわ。」

そうは言っても大事な物は通常なら、厳重に保管してあり一令嬢が気軽に持っていける訳もない。

仕掛け人の自分達でも、笑ってしまう雑さに彼女は気がついた様子もない。

あれは、いくらでも奪えるように、こちらからお膳立てしたものだ。

彼と婚姻前に、例え彼から与えられたものだとしても、所有権は国にある。それを王太子ではないただの王子が誰かに与える権限などないのだから、今の段階では国から盗んだといわれてもしかたがない。

そして、今回は第一王子の知らぬところで、この窃盗は行われたのだから、誰からも庇ってもらえないのは、自業自得だ。


彼女が国に支払う罰金とは別に慰謝料はどのくらいになるのだろう。


今のエリーヌの、髪飾りは壊されたあの髪飾りから作られた新しい物。アリーチェが抱える商会で作られた試作品の一つ。落としても壊れない柔らかさと、軽さを追求した物で、下位貴族を中心に売れている。

所謂洗礼と言う、高位貴族からの虐めに対応したものだ。オーブリー嬢だけでなく、高位貴族の中にはその身分だけを振り翳す馬鹿が現れるものだ。

第一王子ですら、そうなんだから、仕方ないとも、言える。

王家の者を手本に見て、貴族は育つものだ。それなら、自分の手本となる人がベアトリスで良かったと思う。

彼女が罪を犯した証拠は既に提出済みだ。あとは、ヘンドリック様に任せよう。

あの、オーブリー嬢の青白い顔を見れただけでも、エリーヌの願いは果たされた。

「しがらみは解けたわね。」

ミランダと、エリーヌは顔を見合わせて、低く笑った。


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