親が決めた婚約者ですから

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まずはそこから

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アルマ嬢の態度はリチャードが知っている姿とは異なる。大して交流もなかった彼女の何を知っているのかと言われるとそれまでだが、多分彼女はリチャードには本来の姿を見せる気はなかったのだろう。

アルマ嬢から目を逸らすと、辺境伯の次男アーサー殿と隣国の王女オーブリー殿が仲良さげに話しているのが目についた。

「あの、お聞きしても?」
「ええ。私達が仲良いのが不思議?」
「はい。私が聞いた話では、アーサー殿は王女様とのご婚姻を拒んだと聞いておりましたから。」
王女は、アルマ嬢と目配せをして、にっこりと笑う。
「良かったわ。貴方の耳に入ったと言うことは、王都にまでその噂は届いたと言うことね。」
リチャードの混乱など見向きもせずに三人はこれからのことを話し始めた。リチャードは話についていくことなどできずにただ話を聞くことに集中した。

どうやら、彼らの口ぶりから察するに、この流れは彼らが流した噂であるようだ。

「貴方って宰相閣下のご子息なら、私達の政敵が誰かはご存知?」
私達というのは、隣国ではなく辺境伯の方であろうと予想し、頷いた。

辺境伯当主と王弟殿下の確執は有名だ。
「王弟殿下、ですよね。」

「ええ、なら、隣国王家と此方の筆頭公爵家が手を結んだ今、王弟殿下はどう動くのが予想される?ちなみにディアナ・ラウドは隣国の王家、もしくは王弟殿下との繋がりを匂わせている。どちらもあり得る話だし、勿論彼女の狂言の可能性もあることとする。どう?」

「隣国の王家とは貴女の実家という意味で宜しいですか?」

「ええ、勿論。私自身は話したことはないけれど、兄の公爵令嬢に対する執着は相当のものだったようだから、ハニトラを仕掛けて、国を乱し、愛する女性を手に入れることはしそうなのよね。」

王女とばかり話しているが、アルマ嬢をチラリと盗み見ると、少しずつ嫌な気持ちを抑えてくれるような表情になっていった。

「話の途中で申し訳ありませんが、一つ聞いても?」

「ええ。アルマに?」
「はい。アルマ嬢はご令嬢にどのような態度をして問題を解決したのですか?」
アルマ嬢はまたもや怒りを思い出したようにリチャードを睨みつけた。

ただリチャードは彼女のこの態度が本当に嫌われてとられたことではないことがわかってきた。


アルマ嬢からは、此方を探るような感じがしても此方を蔑んだり、馬鹿にしたりするような雰囲気はなかった。

「貴方を共通の敵にしただけよ。女性の誘いを断るのに婚約者とお父上の力を借りるおぼっちゃまの子守りをするより、素敵な殿方との縁談をまとめる方が遥かに楽しいわよ、そう言っただけ。」


リチャードはその言い分から自分の驕り高ぶった心を反省した。デニス伯爵令嬢は多分この婚約について、何も喜んでいないことが理解できたからだ。彼女にとって、リチャードとの婚約は面倒を押し付けられたようなもの。

リチャードは自分の価値すら示さずに、彼女に勝手に試練を与えている気分になっていたが、実際に与えられていたのは自分だった。

恥ずかしさで小さくなったリチャードをアルマ嬢が許してくれるかどうかは、この後の行動次第だろう。
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