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第六部
駒としての覚悟
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サンドラを巡る攻防?はその後も続く。レオナとサンドラの会話に、二人が入り込む状況はそれからも続いたが、レオナはともかく、サンドラは二人を受け入れていた。
「ウィリアムという守りが居なくなったから、二人とも私を見張っているのだと思うわ。私というか、オルヴィスがどう動くか。牽制の意味も込めて。何よりルイスは多分何も聞かされていないから不安なんじゃないかしら。」
サバエリエ様よりデズモンド様の方が容赦がなく見えたのは、彼が王妃様に何も知らされなかった所為だとサンドラは言う。
レオナはサンドラの言葉に首を傾げ、無言の抗議をするが、サンドラには伝わらなかった。
あれは元々の性質だと、レオナはサンドラの考えを否定する。だが、それを言うことはない。サンドラからすれば、彼は昔からの友人で、見知った相手。対してレオナは最近知り合っただけの相手。何よりサンドラにとっての真実はそうなのだ。公爵家同士の交流に、彼の性質が顕になることはない。
レオナが気がついたのは己の身分の所為であり、その身分でサンドラのそばにいる所為だ。
「どうして王妃様は何も知らせずに、お決めになられたのでしょうか。」
レオナが思考に落ちていると、サンドラに質問する声がする。やはり、と目を向けるとそこには真っ赤な髪をたなびかせたサバエリエ様がいた。珍しく今日は一人だ。
いつもは、きちんと後ろで結われている髪をたなびかせている為に、彼の迫力がアップしているのはそこそこに、彼はいつものように、気づけばそこにいた。こちらの視線の意味を理解したのか、彼が不在な理由を聞いてもいないのに、教えてくれる。
「前は王妃様は私達に何をしてもらいたいか、ちゃんと口になさっていた。だから、そこから仮説を立て、どうにか王妃様の意思を追えていたのだが、ウィリアムとウォルト嬢の婚約で、思考に行き詰まってしまった。サンドラは、きっと何かを知っているはずだと、ウィリアムのいない君達に護衛を兼ねて、様子を見ていたのだけど、ルイスはどうやら待ちきれなかったようだ。」
「王妃様に会いに?」
「いや、ウィリアムに会いに行った。ウィリアムが王太子に近いことは間違い無いのだし、王妃様が望んだのであれば、少しの間でも彼が王位に就くことは決定されているからね。奴のプライド上、叔母に直接聞くと言う選択肢はないんだよ。俺からすると、回りくどい気がするけれど。」
「何だかルイスらしいけれど、だからこそ王妃様は彼に何も言わなくなったのね。」
サバエリエ様は、きょとんとしていたが、レオナの考えもサンドラと同じだ。王妃様は自身の考えではなくて、状況を整理して考える時間を二人に与えた。多分、彼らにとってはこれからの王妃様の考えは容認できぬこともあるのだろう。その時にどう動くのか、きっと彼らは試されている。
ウィリアム様のように、ちゃんと駒になり、国に忠誠を誓えるのか否か。レオナはこの場に入り込んだ異質であるが、自分にも何らかの試練があるのも承知していた。でなければ、説明がつかない。あの日お会いして、話したのはきっと気まぐれでも何でもなく、仕込みであった筈なのだ。
レオナは小さく身震いした。武者震いという奴だ。ただ、デズモンド様とは違い、考えることはしない。レオナは多分ただの駒だ。元より考えたところで、何もわからない。頭の出来が違うのだから、彼の思考にも、王妃様の思考にもたどり着けるはずもない。
自分に割り当てられている役はどうあれ、難しくなければ良いな、と願う。サンドラの側にいることを許された身でありながらそれは贅沢な悩みであるとは百も承知だ。
「王妃様はちゃんと教えて下さるわ。彼に駒になりきる覚悟さえ芽生えたら、ね。」
サンドラの言葉に、サバエリエ様は、何か思うことがあったのか急いで去っていった。残された私達には、また穏やかな空気が流れたがそれが前と同じものかは判断が付かなかった。
「ウィリアムという守りが居なくなったから、二人とも私を見張っているのだと思うわ。私というか、オルヴィスがどう動くか。牽制の意味も込めて。何よりルイスは多分何も聞かされていないから不安なんじゃないかしら。」
サバエリエ様よりデズモンド様の方が容赦がなく見えたのは、彼が王妃様に何も知らされなかった所為だとサンドラは言う。
レオナはサンドラの言葉に首を傾げ、無言の抗議をするが、サンドラには伝わらなかった。
あれは元々の性質だと、レオナはサンドラの考えを否定する。だが、それを言うことはない。サンドラからすれば、彼は昔からの友人で、見知った相手。対してレオナは最近知り合っただけの相手。何よりサンドラにとっての真実はそうなのだ。公爵家同士の交流に、彼の性質が顕になることはない。
レオナが気がついたのは己の身分の所為であり、その身分でサンドラのそばにいる所為だ。
「どうして王妃様は何も知らせずに、お決めになられたのでしょうか。」
レオナが思考に落ちていると、サンドラに質問する声がする。やはり、と目を向けるとそこには真っ赤な髪をたなびかせたサバエリエ様がいた。珍しく今日は一人だ。
いつもは、きちんと後ろで結われている髪をたなびかせている為に、彼の迫力がアップしているのはそこそこに、彼はいつものように、気づけばそこにいた。こちらの視線の意味を理解したのか、彼が不在な理由を聞いてもいないのに、教えてくれる。
「前は王妃様は私達に何をしてもらいたいか、ちゃんと口になさっていた。だから、そこから仮説を立て、どうにか王妃様の意思を追えていたのだが、ウィリアムとウォルト嬢の婚約で、思考に行き詰まってしまった。サンドラは、きっと何かを知っているはずだと、ウィリアムのいない君達に護衛を兼ねて、様子を見ていたのだけど、ルイスはどうやら待ちきれなかったようだ。」
「王妃様に会いに?」
「いや、ウィリアムに会いに行った。ウィリアムが王太子に近いことは間違い無いのだし、王妃様が望んだのであれば、少しの間でも彼が王位に就くことは決定されているからね。奴のプライド上、叔母に直接聞くと言う選択肢はないんだよ。俺からすると、回りくどい気がするけれど。」
「何だかルイスらしいけれど、だからこそ王妃様は彼に何も言わなくなったのね。」
サバエリエ様は、きょとんとしていたが、レオナの考えもサンドラと同じだ。王妃様は自身の考えではなくて、状況を整理して考える時間を二人に与えた。多分、彼らにとってはこれからの王妃様の考えは容認できぬこともあるのだろう。その時にどう動くのか、きっと彼らは試されている。
ウィリアム様のように、ちゃんと駒になり、国に忠誠を誓えるのか否か。レオナはこの場に入り込んだ異質であるが、自分にも何らかの試練があるのも承知していた。でなければ、説明がつかない。あの日お会いして、話したのはきっと気まぐれでも何でもなく、仕込みであった筈なのだ。
レオナは小さく身震いした。武者震いという奴だ。ただ、デズモンド様とは違い、考えることはしない。レオナは多分ただの駒だ。元より考えたところで、何もわからない。頭の出来が違うのだから、彼の思考にも、王妃様の思考にもたどり着けるはずもない。
自分に割り当てられている役はどうあれ、難しくなければ良いな、と願う。サンドラの側にいることを許された身でありながらそれは贅沢な悩みであるとは百も承知だ。
「王妃様はちゃんと教えて下さるわ。彼に駒になりきる覚悟さえ芽生えたら、ね。」
サンドラの言葉に、サバエリエ様は、何か思うことがあったのか急いで去っていった。残された私達には、また穏やかな空気が流れたがそれが前と同じものかは判断が付かなかった。
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