王妃様は悪役令嬢の味方です

mios

文字の大きさ
上 下
49 / 68
第四部

婚約の後押し

しおりを挟む
王太子ではないと言っても王族としての仕事はある。戦力外通告された父とは違い、ウィリアムには沢山の仕事があった。学生だから、と免除などされずに当然のように運ばれてくる書類を片っ端から片付けてゆく。以前なら王妃教育を終えたサンドラが手伝ってくれたものも、今では一人で終えねばならない。とはいえ、前よりは数段に少なくなった仕事の山に、それらの書類が自分ではなく、王妃に回っていると思えば、辛いだの大変だのと、文句を言うのも躊躇われる。

ルイスやシュナイダーも次期当主として同じように仕事がある。だから、自分の方が先んじてるなんて余裕も全くない。


ウィリアムの執務室は普段は人は来ないのだが、最近良く人が訪れる。彼女は王妃が可愛がっているご令嬢でプランツ侯爵家のご令嬢だ。

あのマシュー・カーターの婚約者であり、今はゴードン・クレイド子爵令息と婚約間近と言われている。彼女がどうしてこの場にいるかと言うと、王妃から彼女に話を聞くように言われているからだ。

他の前側近候補達の婚約者だった人は軒並み新しく候補になった人物と婚約を結び直している。王妃のお膳立てがあれば婚約解消後もすんなりと、次の婚約に進めるようで新たな婚約の方が前のものよりご令嬢は喜んでいると報告もあり、皆がそうすると思っていたが、ここにきて、彼女だけはクレイド子爵令息との婚約を進めていなかった。

ゴードン・クレイドは、婚約者に対して淡白だったマシューと比べて、婚約者を大切にするタイプだとは思うのだが、子爵令息という身分によって、婚約は躊躇われているのだろうか。

「彼は多分他に意中の方がいらっしゃるんじゃないかしら?婚約という話が進まないのはその方を忘れられないからと、お聞きして……だから我が家も話を打診するのを躊躇ったのですわ。」

ゴードンに意中の人……あれ?

「ええと……彼の意中の人って、プランツ侯爵令嬢のことですよね。彼はこの度、王妃様の計画に乗る際、貴女との婚約を視野に入れその上で協力を願い出てくれたのですが。」

「ええ、それを聞いて私達はクレイド子爵家を調べました。既に王妃様や、公爵家が調べは済んでいると思っていましたが、念の為。私共もクレイド子爵家ならば、と思っていましたが、肝心のゴードン様が煮え切らないというか、婚約の話になると、はぐらかされてしまいまして、どうしていくのが正解なのか考えあぐねております。」

話を聞くと、プランツ侯爵令嬢は、クレイド子爵令息と婚約する気はあると言う。彼さえ首を縦に振るなら今すぐにでも。

ウィリアムはゴードンを呼んで話を聞くことにした。

「ええと、単刀直入にいうと、何故いまだに婚約していない?お前の念願の相手だろう?今いかないと後悔するぞ。」

ゴードンは、ウィリアムの話の最中にある書類を差し出した。

それはカーター侯爵家からの警告文であった。それは初めて見る内容で、クレイド子爵家に当てた侯爵家からの脅しの証拠である。

「これを書いてもらうのに、時間を要しまして、こちらのせいで中々プランツ侯爵令嬢に話を持っていけなかったのです。」

今までカーター侯爵家からの圧力で自由に動くことが出来なかったことを打ち明ける。書面にしてもらえたことで、その嫌がらせとやらもなくなったのだが。

「こちらにウィリアム様、王妃様の判さえあれば、証拠品としては十分ですよね。」

ウィリアムは一部受け取ると、書類から何かが失われた。

「気になさらなくて結構です。」

ゴードンはそういうが、何となく何らかの片棒を担がされた気がするのは何だ。ゴードンは書類に施されていた魔術を展開し、この上ない証拠品を作り上げる。

「これで、ようやく婚約に動けます。」

タイミングの良さに、ウィリアムは仕組まれた気がしてならない。マシューよりも苦手な部類かもしれないとウィリアムは思ったが、今後の付き合いの為にそれは言わないでおいた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】選ばれなかった王女は、手紙を残して消えることにした。

曽根原ツタ
恋愛
「お姉様、私はヴィンス様と愛し合っているの。だから邪魔者は――消えてくれない?」 「分かったわ」 「えっ……」 男が生まれない王家の第一王女ノルティマは、次の女王になるべく全てを犠牲にして教育を受けていた。 毎日奴隷のように働かされた挙句、将来王配として彼女を支えるはずだった婚約者ヴィンスは──妹と想いあっていた。 裏切りを知ったノルティマは、手紙を残して王宮を去ることに。 何もかも諦めて、崖から湖に飛び降りたとき──救いの手を差し伸べる男が現れて……? ★小説家になろう様で先行更新中

距離を置きましょう? やったー喜んで! 物理的にですけど、良いですよね?

hazuki.mikado
恋愛
婚約者が私と距離を置きたいらしい。 待ってましたッ! 喜んで! なんなら物理的な距離でも良いですよ? 乗り気じゃない婚約をヒロインに押し付けて逃げる気満々の公爵令嬢は悪役令嬢でしかも転生者。  あれ? どうしてこうなった?  頑張って自身で断罪劇から逃げるつもりが自分の周りが強すぎてあっさり婚約は解消に?!  やった! 自由だと満喫するつもりが、隣りの家のお兄さんにあっさりつまずいて? でろでろに溺愛されちゃう中身アラサー女子のお話し。 更新は原則朝8時で頑張りますが、不定期になりがちです。ご了承ください(*- -)(*_ _)ペコリ 注! サブタイトルに※マークはセンシティブな内容が含まれますご注意ください。 ⚠取扱説明事項〜⚠ 異世界を舞台にしたファンタジー要素の強い恋愛絡みのお話ですので、史実を元にした身分制度や身分による常識等をこの作品に期待されてもご期待には全く沿えませんので予めご了承ください。成分不足の場合は他の作者様の作品での補給を強くオススメします。 作者は誤字脱字変換ミスと投稿ミスを繰り返すという老眼鏡とハズキルーペが手放せない(老)人です(~ ̄³ ̄)~マジでミスをやらかしますが生暖かく見守って頂けると有り難いです(_ _)お気に入り登録や動く栞、以前は無かった♡機能。そして有り難いことに動画の視聴。ついでに誤字脱字報告という皆様の愛(老人介護)がモチベアップの燃料です(人*´∀`)。 *゜+ 途中モチベダウンを起こし、低迷しましたので感想は完結目途が付き次第返信させていただきます。ご了承ください。 皆様の愛を真摯に受け止めております(_ _)←多分。 9/18 HOT女性1位獲得シマシタ。応援ありがとうございますッヽ⁠(⁠*゚⁠ー゚⁠*⁠)⁠ノ 文字数が10万文字突破してしまいました(汗) 短編→長編に変更します(_ _)短編詐欺です申し訳ありませんッ(´;ω;`)ウッ…

旦那様は離縁をお望みでしょうか

村上かおり
恋愛
 ルーベンス子爵家の三女、バーバラはアルトワイス伯爵家の次男であるリカルドと22歳の時に結婚した。  けれど最初の顔合わせの時から、リカルドは不機嫌丸出しで、王都に来てもバーバラを家に一人残して帰ってくる事もなかった。  バーバラは行き遅れと言われていた自分との政略結婚が気に入らないだろうと思いつつも、いずれはリカルドともいい関係を築けるのではないかと待ち続けていたが。

そんなに幼馴染の事が好きなら、婚約者なんていなくてもいいのですね?

新野乃花(大舟)
恋愛
レベック第一王子と婚約関係にあった、貴族令嬢シノン。その関係を手配したのはレベックの父であるユーゲント国王であり、二人の関係を心から嬉しく思っていた。しかしある日、レベックは幼馴染であるユミリアに浮気をし、シノンの事を婚約破棄の上で追放してしまう。事後報告する形であれば国王も怒りはしないだろうと甘く考えていたレベックであったものの、婚約破棄の事を知った国王は激しく憤りを見せ始め…。

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

愛していないと嘲笑されたので本気を出します

hana
恋愛
「悪いが、お前のことなんて愛していないんだ」そう言って嘲笑をしたのは、夫のブラック。彼は妻である私には微塵も興味がないようで、使用人のサニーと秘かに愛人関係にあった。ブラックの父親にも同じく嘲笑され、サニーから嫌がらせを受けた私は、ついに本気を出すことを決意する。

別に要りませんけど?

ユウキ
恋愛
「お前を愛することは無い!」 そう言ったのは、今日結婚して私の夫となったネイサンだ。夫婦の寝室、これから初夜をという時に投げつけられた言葉に、私は素直に返事をした。 「……別に要りませんけど?」 ※Rに触れる様な部分は有りませんが、情事を指す言葉が出ますので念のため。 ※なろうでも掲載中

【完結】27王女様の護衛は、私の彼だった。

華蓮
恋愛
ラビートは、アリエンスのことが好きで、結婚したら少しでも贅沢できるように出世いいしたかった。 王女の護衛になる事になり、出世できたことを喜んだ。 王女は、ラビートのことを気に入り、休みの日も呼び出すようになり、ラビートは、休みも王女の護衛になり、アリエンスといる時間が少なくなっていった。

処理中です...