王妃様は悪役令嬢の味方です

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第三部

未亡人

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オルセー侯爵領の外れに、夫に先立たれた未亡人が住んでいる。と言っても夫は早くに亡くなったらしく、その姿を見た者はいなかった。広い屋敷に侍従と二人きりで暮らす未亡人は、滅多に外には出ず、訪ねてくる人もいなかったが、好奇心旺盛な隣人達によると、元は貴族令嬢と言っても遜色ないほど、美しかったと言う。

そんな彼女の元に最近、来客があると言う。ただその来客もどうやら訳ありのようで姿を隠している。


「姿を隠しているけど、凄い美人だったらしいよ。あの未亡人とよく似ていたらしいから姉妹なんじゃないか。」
「暴力亭主から逃げてきたんじゃないか。」
「いや、あれは完全なるお忍びさ。逢引きじゃないのか。」

平民達は暇なのかあーでもない、こーでもないと話しているが、実際には周りの護衛やら侍女に阻まれて女の顔など、見えていなかった。

「パトリシア様、お待ちしておりました。」

迎えるは、亡きエリザベスによく似た女性。傍らには女性に付き従う男。あの日、エリザベスが殺されなければ彼女は貴族籍を抜けてこの邸で愛する男と、暮らして行くはずだった。

「婚約破棄されたら、すぐに戻ってくるわね。」
そう言って出かけたきり、エリザベスがこの邸に帰ってくることはなかった。

彼女の訃報がここにいる者達の全てを狂わせた。


「今度は念入りに配役を変えたから、人が死ぬようなことはない筈よ。ヒロインには役を与える前に引いてもらったわ。新しいヒロインは、とっておきよ。彼女なら皆喜んで協力するに違いないわ。

シャーロットが陛下については、任されてくれるみたいだから、心配しなくていいわ。予定通り、体調不良で儚くなられる手筈よ。」

「こちらも特に問題はありません。ウォルト家にも予定通り伝えてあります。」

「学園に入ってからが勝負だけど、入ってしまえばきっとあっという間に勝負が決まるわ。気を引き締めていきましょう。」

中途半端に配役を変えた事で、シャーロットが生き残りエリザベスが死んだ前回。教訓に基づき、今回は全てを一から変えて行った。

ヒロインも悪役令嬢も、王太子も、全てが配役と異なれば、どうなるのか。悪役はより相応しい者に。悪が必ず滅びるのならば、ちゃんとした悪をそこに配置しなければ。

前回のエリザベスの死に関わった家の中で今ものうのうと生き延びているリンド伯爵家はもうすぐ滅びる。

パトリシアはその伯爵位の使い方を、シーロットに一任されている。手札として、交渉に役立てていいらしい。

「あの子の気も晴れると良いけれど。」

パトリシアは、シャーロットの若い頃の何の憂いもない笑顔を思い出す。エリザベスが亡くなって、王妃になってから見なくなったその笑顔は、サンドラの登場によって少しずつ復活しているように見えた。

今回を乗り切れば、今までの憂いは消えるのか。エリザベスの弔いになるのかは、よくわからない。ただの自己満足かもしれない。

でも悪役が滅びるのが正しいのなら、今の世界は歪んでいる。






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