王妃様は悪役令嬢の味方です

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第二部

賜った物

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ユラン・ホールディンは、つまらない男だ。自身の実力に見合わない夢を見たこともなければ、無謀な賭けを楽しむこともない。だから今までは、彼女の魅力に気がついても、どこか引いた目で、遠い存在として、捉えていた。

王妃の試験で何を求められているか、わかっても、そんなにうまく事が運ぶか自信はなかったし、何より自分が彼女に惹かれることも理解していなかった。

今となっては、王妃様に感謝と同時に畏怖の念を抱かずにはいられない。何故なら、あの天才と呼ばれたレイモンド・オルドガーが身分を捨て、婚約者以外の女性との愛を貫こうとするなど、誰にも予測できなかったからだ。

レイモンド改めただのレイと言う平民は、元婚約者といえど、もうアメリアに会うことすら叶わない。それは優しい彼女が彼によってこれ以上傷つけられずに済むことになる。彼女は、試験官と言う立場から彼の裏切りを間近で見ることもあり、中々ハードな毎日を送っていた。

ユラン自身は嫡男であるから、伯爵家を継ぐために頑張っていたけれど、それに関しては彼女も同じ。嫡子同士の婚約は、ない訳ではないが、珍しいとされている。だから、アメリアほどの優秀な女性の隣にいる権利がまさか自分に与えられるとは、思ってもみなかった。

あの男が婚約者のアメリア嬢に甘えていることはすぐに理解した。彼女なら、彼がどれだけ彼女を蔑ろにしたとしても、立場を弁えて、彼に釣り合うために努力するとでも思っていたのだろうが、そうしなければならなかったのは己の方。

まだ学園にすら入っていない子供が、王宮の魔術士達よりも上の力を持つはずがない。彼は父親の、家の権力に身を委ねただけのただの我儘な子供だった。

彼の試験の相手になった子爵令嬢は、王妃様の元で侍女として働いている。元々デズモンド公爵家の分家の出身だから、王妃様からの報償を回したとて、ちっとも懐は痛まない。

アメリア嬢の次の婚約者に立候補するには、自分も何らかの試験を受ける必要があると思っていたのだが、そうはならなかった。イェルツ侯爵家から直々に申し込みが来たからには、諾の返事しか返す事ができない。ユランの母であるオリヴィアは、顔を真っ白にして、気絶寸前だったものの、ユランの表情を見るなり安堵したのか喜んでくれた。

「貴方の誠実なところに惹かれたの。私は婚約解消したばかりの傷物だけど、婚約してくださらない?」

ユランはこの時ほど自分の高い身長に感謝したことはない。もう少し背が低ければ、彼女の可愛らしい顔が近過ぎてノックアウトされていたに違いない。

それでも、既に手遅れだと悟ってはいる自分は諦めて彼女の手に落ちる。

「傷がついたのは、貴女ではありませんよ。貴女を守る権利を下さって、ありがとうございます。婚約の件、喜んでお受けいたします。」

跪いて手にキスをすると、わかりやすく真っ赤になるアメリアに、少しだけ悪戯心が騒ぎ出す。

実際婚姻に至るまでに自分はどれだけ彼女を照れさせることができるのか。ユランの心に人知れず火がついた瞬間だった。
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