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第一部
遅れを取るのは
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マシュー・カーターは正義感の強い男だ。但し、想像力には偏りがある。
サンドラの夢の中で、彼は一番に彼女を害する女性に近づき、ウィリアムに彼女を紹介する。諸悪の根源はその女に違いないが彼もそれをアシストする人物として、王妃はできれば彼だけでも脱落させたい、と策を練っていたのだが。
「やられたわね……」
おそらく、彼方側が動いた結果だと、王妃は睨んでいるが、それにウィリアムが気づけるかどうかはまだわからない。何しろ、マシューに全面の信頼を置いていた息子は、最初に彼が脱落しそうと聞いて動揺している真っ最中。ましてや、相談に選んだのがデズモンド公爵家なのだから。
意図してかはわからないが、これでルイスの意識もこちらに向けられるのならば、マシューの醜聞もまあまあの成果と言えよう。
王妃の手元には、ルーナ・ウォルトから渡された書簡がある。禁書とは別に前王妃に宛てた、彼女の姉からのものだ。
誰か他の者が読むことを考えてか、書簡は全て別の言語で記されていた。王妃は以前その言語を見たことがあり、そこで読み方のレクチャーを受けた為、何とか読めるが元よりこちらでは文の構造がそもそも違うそれは文字として認識されないようで、書簡とは思われなかっただろうことは安易に想像できた。
だからこそ未だにこれらが残されていたのだろう。
書簡にはやはり姉こそが王妃の啓示を受けたものである旨が書いてあった。夢を見て、恐れをなし、妹にその役目を押し付けた。妹オーロラは、姉の夢をただの夢だと一蹴し、自身は姉から奪った場所でのうのうと暮らした。
姉は書簡の中で何度も彼女に忠告している。ただ最後の方は封も開けられていないから、それらは纏めて無視されたのだと推測できた。
姉は配役を変えた。そのおかげでオーロラ自身が罰を受けることはなかった。彼女が若くして亡くなったのは単に彼女の行いの悪さによるもので、自業自得だ。
王妃は書簡を読んでこの姉に会いたい気持ちが増した。どうやら姉は隠れるように社交界から姿を消している。修道院にいるようなことを書いてあるものがあり、今もそこにいるのなら、と調べてはみたのだが、手がかりは掴めなかった。
「やはり、彼女の手を借りるしかないのね。」
ルーナ・ウォルトの涼しい顔を思い出して王妃は苦笑する。してやられた感情は中々根強く心の中に居座り続けている。
彼女とは、決して相容れない結末になる筈なのに、経過は同じところを通らざるを得ないのだから、全くおかしなことになっている。
昨日の敵は今日の友。明日にはまた敵に戻るとしても、前に進むには必要な協力者だ。
「配役は早急に変えましょう。何なら彼女をサンドラの代わりにすれば良いわ。」
男爵家に貼り付けたままの、部下を呼び戻し、新たな策を練る。今度こそ遅れを取る前に。
サンドラの夢の中で、彼は一番に彼女を害する女性に近づき、ウィリアムに彼女を紹介する。諸悪の根源はその女に違いないが彼もそれをアシストする人物として、王妃はできれば彼だけでも脱落させたい、と策を練っていたのだが。
「やられたわね……」
おそらく、彼方側が動いた結果だと、王妃は睨んでいるが、それにウィリアムが気づけるかどうかはまだわからない。何しろ、マシューに全面の信頼を置いていた息子は、最初に彼が脱落しそうと聞いて動揺している真っ最中。ましてや、相談に選んだのがデズモンド公爵家なのだから。
意図してかはわからないが、これでルイスの意識もこちらに向けられるのならば、マシューの醜聞もまあまあの成果と言えよう。
王妃の手元には、ルーナ・ウォルトから渡された書簡がある。禁書とは別に前王妃に宛てた、彼女の姉からのものだ。
誰か他の者が読むことを考えてか、書簡は全て別の言語で記されていた。王妃は以前その言語を見たことがあり、そこで読み方のレクチャーを受けた為、何とか読めるが元よりこちらでは文の構造がそもそも違うそれは文字として認識されないようで、書簡とは思われなかっただろうことは安易に想像できた。
だからこそ未だにこれらが残されていたのだろう。
書簡にはやはり姉こそが王妃の啓示を受けたものである旨が書いてあった。夢を見て、恐れをなし、妹にその役目を押し付けた。妹オーロラは、姉の夢をただの夢だと一蹴し、自身は姉から奪った場所でのうのうと暮らした。
姉は書簡の中で何度も彼女に忠告している。ただ最後の方は封も開けられていないから、それらは纏めて無視されたのだと推測できた。
姉は配役を変えた。そのおかげでオーロラ自身が罰を受けることはなかった。彼女が若くして亡くなったのは単に彼女の行いの悪さによるもので、自業自得だ。
王妃は書簡を読んでこの姉に会いたい気持ちが増した。どうやら姉は隠れるように社交界から姿を消している。修道院にいるようなことを書いてあるものがあり、今もそこにいるのなら、と調べてはみたのだが、手がかりは掴めなかった。
「やはり、彼女の手を借りるしかないのね。」
ルーナ・ウォルトの涼しい顔を思い出して王妃は苦笑する。してやられた感情は中々根強く心の中に居座り続けている。
彼女とは、決して相容れない結末になる筈なのに、経過は同じところを通らざるを得ないのだから、全くおかしなことになっている。
昨日の敵は今日の友。明日にはまた敵に戻るとしても、前に進むには必要な協力者だ。
「配役は早急に変えましょう。何なら彼女をサンドラの代わりにすれば良いわ。」
男爵家に貼り付けたままの、部下を呼び戻し、新たな策を練る。今度こそ遅れを取る前に。
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