王妃様は悪役令嬢の味方です

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第一部

現状と余計なもの

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ロザリア・カレル侯爵令嬢は、王妃様の問いに、他の人から暫し遅れて返事を返した。婚約者を愛していない、と言う答えは現実とは少々異なる。ロザリアは、婚約者であるキール・ダレルを慕っていた。例え、毎回仏頂面で話をしようとしなくとも、たまに約束をすっぽかされたしていても、ロザリアは男らしいキールのことをとても好きだった。

「貴女のことを好きで照れているのよ。」と、キールの母である公爵夫人は良く話していたし、そうなら嬉しいと、ずっと慕っていたと言うのに。

キールが公爵家に最近入った侍女見習いに婚約者について話しているのを聞くまでは。

彼はその侍女見習いに暇を見ては話しかけ、楽しそうに話していると聞いていた。彼女は控えめでありながらも主人に仕える姿勢を崩さないようにしていたが、歳が近いこともあり、気安く話せるようになっていた。

キールは、公爵令息でありながら、貴族令嬢を嫌っていた。薄々気がついていたが、アメリアだけは違うと何故か思い込んでいたのだ。

「愚かなのは私も同じだったわ。」

アメリアは王妃様に呼ばれたあの席で、もしかしたら、あの見習い侍女は王妃様の手の者かもしれない、と考えた。

例えそうであったとしても今のキールではそのことに思い至ることはないに違いない。ここで自分がそのことを彼に話したとしても、嫌いな婚約者の言うことなんて聞く気もないことは明らかだ。

それならどう足掻いたところで彼は脱落してしまう。なら、今までの自分の行いは、本当に無に帰してしまうではないか。


アメリアは既に諦めた思考で、願わくば彼女がただの侍女見習いで王妃様と何の関係もありませんように、と祈った。









「婚約者に関することでお話があると伺いました。」

隣国へ渡っていた為、先の茶会には間に合わなかったもう一人のご令嬢、ルーナ・ウォルト公爵令嬢は、疲れを見せることもなく完璧な装いで王妃の元に現れた。

「貴女には少し聞きたいことがあったものだから。疲れているところごめんなさいね。」

ウォルト公爵家は、陛下の祖母の生家である。歴史のある古い家であるが、公爵領が隣国に接しており、隣国の第二王子の派閥の家と婚約関係にある。

我が国では伯爵位を持つ、ルーカス・デリックなる人物だ。年はまだ若く、切れ者と噂されているがまだまだ自身の能力の使い所をわかっていない様子が見受けられる。

隣国の第二王子と、我が国の第一王子ウィリアムは仲が良く、側近候補と共にデリック伯爵も側に侍る姿が散見されている。

類は友を呼ぶ、と言ったところで、彼らは互いに間違えたとしても、それ自体を諌めるどころか、気づくこともせずに同調しそうだと、王妃は考えた。

「貴女にも、選択肢というものを与えてあげたいの。国の為を思うなら、今試験のタイミングで理解してもらうのが一番手っ取り早いから。」

ルーナ・ウォルトは王妃の回りくどい言葉に特に突っかかることもなく、出されたお茶を味わうと、王妃の目の前にある書籍を差し出した。

「こちらを。王妃様のお探しのものです。」

パラパラとページを捲り、王妃は短く頷いた。

「貴女には正式にお願いするつもりでいたのだけれど。随分仕事が早いのね。もしかして既に?」

「ええ、ベイリー様は待たされるのがお嫌いなようです。」

ルーナ嬢が持ち出した本には、王妃が知りたかったあの日の真実がある人物の目線で書かれている。

これを王家ではなく、ウォルト公爵家に隠したところに、浅はかさが浮き出ている。

これだから、あの人達は嫌いなのよ。

王妃ははしたないと思いつつも舌打ちをしそうになった。王家にあっては禁書扱いになる本が公爵家に隠されていたことに作為的なものを感じ、主導は絶対にあの人だと思い至る。

昔から余計なことしかしない、義母。王妃を守ることもせずに、国を傾けかけた前王妃その人だ。彼女の罪は何もしなかったこと。本来しなければならなかったことをしなかった。そしてその咎を自身ではなく、王妃に負わせようとした。
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