7 / 68
第一部
試験の開示
しおりを挟む
第一王子の側近候補が増えるのは意外だったが、選ばれた人物においては何ら不思議なことはない。最初に決定だと噂された彼らさえ居なければ、十分選ばれたといえる人選だ。
しかし、何故今なのか。疑問は浮かぶ。アメリア・イェルツ侯爵令嬢は、控室で王妃を待つ間、理由を考えていた。侯爵令嬢と言えど、王宮にはあまり来たこともなければ、王妃様に直々に招待されることもない。婚約者であるレイモンドならいざ知らず、慣れない王宮に緊張はピークに達していた。
王妃の茶会に招かれたのは、アメリアの他にご令嬢が幾人か。何方も見覚えがあるのは、揃いも揃って婚約者が第一王子の側近候補だから。
そのことに気がついたのは、アメリアだけではなかった。
王妃様は突然の来客があったか何かで少し遅れて登場した。王妃様は婚姻なされてからずっと陛下の分まで公務をなされていると専らの噂で、陛下には実権など全くないらしい。アメリアは両親からその辺りの詳しい事情について聞いていたが、王宮で働いていた家族などがいた場合、それは禁句として口に出すことすらも止められていたこともあり、その事実を知らない者も多い。
アメリアの婚約者レイモンド・オルドガーは、王宮魔術士の父を持ち、自分も才能に溢れているおかげで誰よりも早く第一王子の側近候補に名が挙がったのだが、女性蔑視の思考が強く、王妃様に対しても複雑な感情を持っている。彼の普段の言動などから推測するに、彼は王妃様に起きたことを知らされていない。知らされたところで、悪いのは王妃様が分を弁えなかったせいだと、言いそうなものだけれど。
アメリアとレイモンドの婚約は政略で、家の為だから仕方がないとは言え、歩み寄りは勘弁だし、婚姻後は仮面夫婦になるのだろうな、と漠然と察していた。
「貴女達の中に今の婚約者を愛している者はいるかしら。」
まだ学園にも通っていない子供に愛などとわかるわけもない。皆一様に放心している。
「貴女達の婚約者にある試験を施しているの。勿論貴女達にも試験は用意しているのだけど。彼らの試験は、貴女達の協力が必要不可欠になるのよ。本音で教えて貰えない?」
皆互いを見ながらどう口にしていいか躊躇っている。
ロウワ伯爵家のジゼル様は、はっきりと否を口にした。アメリアから見ると二人はとても仲良く見えたのだが違うらしい。
「私達の婚約は政略で決められたものです。幼い頃から一緒にいるため、家族としての情はありますが、愛となるとよくわかりません。私は彼のように優柔不断な人はタイプではありませんので、そう言った意味で言えば特別な感情はないかと思います。」
それをいうならアメリアとて同じ。結果、その場にいた全員が、特に婚約者を愛していない、と回答した。
王妃様はどこか安心した様子で本来の目的を口にする。
「良かったわ。ならば貴女方に審査官をお願いしても大丈夫ね。忖度なく彼らをビシバシ判定して欲しいのよ。」
「それは新しく候補になった方達にもされるのですか?」
「いいえ、彼らはまた別の試験を用意しているから。」
「具体的に私達は何をすれば良いのですか?」
「彼らの行動を見るだけでいいわ。特に何もしなくて結構よ。彼らがこちらから与えた試験に自ら気がついて行動を改めれば及第点。裏の私にまで辿り着ければ合格。ただそれまでに機密漏洩やら、貴女方から見て彼らがやらかしたと思ったら、そこで彼らは脱落ね。合格したら彼らは王太子の側近に任命します。
審査官は主に貴女方にお任せするけれど他にも何人か仕込んでいるから不正は許されないわよ。
婚約者の為に忖度した時点で貴女達の試験も脱落になるから、覚えておいて。
試験が終われば婚約を今後どうするかの相談には乗るわ。頑張ってね。」
暫くして、新しく選ばれた側近候補の面々が現れる。顔見知りというほどではないが、存在ぐらいは知っている。それぐらい縁は薄い。
彼らは、審査の補佐をしてくれるという。婚約者にはされたこともない丁寧なお辞儀に少し恥ずかしさを覚えながらも、頭の中で今ある情報を整理する。
王妃様はアメリアの疑問に応えるように宣言する。
「もし誰かに聞かれたら、私が全てを思い出したようだ、と言うのよ。それだけで分かる人にはわかるから。」
しかし、何故今なのか。疑問は浮かぶ。アメリア・イェルツ侯爵令嬢は、控室で王妃を待つ間、理由を考えていた。侯爵令嬢と言えど、王宮にはあまり来たこともなければ、王妃様に直々に招待されることもない。婚約者であるレイモンドならいざ知らず、慣れない王宮に緊張はピークに達していた。
王妃の茶会に招かれたのは、アメリアの他にご令嬢が幾人か。何方も見覚えがあるのは、揃いも揃って婚約者が第一王子の側近候補だから。
そのことに気がついたのは、アメリアだけではなかった。
王妃様は突然の来客があったか何かで少し遅れて登場した。王妃様は婚姻なされてからずっと陛下の分まで公務をなされていると専らの噂で、陛下には実権など全くないらしい。アメリアは両親からその辺りの詳しい事情について聞いていたが、王宮で働いていた家族などがいた場合、それは禁句として口に出すことすらも止められていたこともあり、その事実を知らない者も多い。
アメリアの婚約者レイモンド・オルドガーは、王宮魔術士の父を持ち、自分も才能に溢れているおかげで誰よりも早く第一王子の側近候補に名が挙がったのだが、女性蔑視の思考が強く、王妃様に対しても複雑な感情を持っている。彼の普段の言動などから推測するに、彼は王妃様に起きたことを知らされていない。知らされたところで、悪いのは王妃様が分を弁えなかったせいだと、言いそうなものだけれど。
アメリアとレイモンドの婚約は政略で、家の為だから仕方がないとは言え、歩み寄りは勘弁だし、婚姻後は仮面夫婦になるのだろうな、と漠然と察していた。
「貴女達の中に今の婚約者を愛している者はいるかしら。」
まだ学園にも通っていない子供に愛などとわかるわけもない。皆一様に放心している。
「貴女達の婚約者にある試験を施しているの。勿論貴女達にも試験は用意しているのだけど。彼らの試験は、貴女達の協力が必要不可欠になるのよ。本音で教えて貰えない?」
皆互いを見ながらどう口にしていいか躊躇っている。
ロウワ伯爵家のジゼル様は、はっきりと否を口にした。アメリアから見ると二人はとても仲良く見えたのだが違うらしい。
「私達の婚約は政略で決められたものです。幼い頃から一緒にいるため、家族としての情はありますが、愛となるとよくわかりません。私は彼のように優柔不断な人はタイプではありませんので、そう言った意味で言えば特別な感情はないかと思います。」
それをいうならアメリアとて同じ。結果、その場にいた全員が、特に婚約者を愛していない、と回答した。
王妃様はどこか安心した様子で本来の目的を口にする。
「良かったわ。ならば貴女方に審査官をお願いしても大丈夫ね。忖度なく彼らをビシバシ判定して欲しいのよ。」
「それは新しく候補になった方達にもされるのですか?」
「いいえ、彼らはまた別の試験を用意しているから。」
「具体的に私達は何をすれば良いのですか?」
「彼らの行動を見るだけでいいわ。特に何もしなくて結構よ。彼らがこちらから与えた試験に自ら気がついて行動を改めれば及第点。裏の私にまで辿り着ければ合格。ただそれまでに機密漏洩やら、貴女方から見て彼らがやらかしたと思ったら、そこで彼らは脱落ね。合格したら彼らは王太子の側近に任命します。
審査官は主に貴女方にお任せするけれど他にも何人か仕込んでいるから不正は許されないわよ。
婚約者の為に忖度した時点で貴女達の試験も脱落になるから、覚えておいて。
試験が終われば婚約を今後どうするかの相談には乗るわ。頑張ってね。」
暫くして、新しく選ばれた側近候補の面々が現れる。顔見知りというほどではないが、存在ぐらいは知っている。それぐらい縁は薄い。
彼らは、審査の補佐をしてくれるという。婚約者にはされたこともない丁寧なお辞儀に少し恥ずかしさを覚えながらも、頭の中で今ある情報を整理する。
王妃様はアメリアの疑問に応えるように宣言する。
「もし誰かに聞かれたら、私が全てを思い出したようだ、と言うのよ。それだけで分かる人にはわかるから。」
1
お気に入りに追加
366
あなたにおすすめの小説
要らない、と申しましたが? 〜私を悪役令嬢にしたいならお好きにどうぞ?〜
あげは
恋愛
アリストラ国、侯爵令嬢。
フィオラ・ドロッセルが私の名前です。
王立学園に在籍する、十六歳でございます。
このお話についてですが、悪役令嬢なるものがいないこの時代、私の周りの方々は、どうやら私をそのポジションに据えたいらしいのです。
我が婚約者のクズ男といい、ピンクの小娘といい…、あの元クズインといい、本当に勘弁していただけるかしら?
と言うか、陛下!どう言う事ですの!
ーーーーー
※結末は決めてますが、執筆中です。
※誤字脱字あるかと。
※話し言葉多め等、フランクに書いてます。
読みにくい場合は申し訳ないです。
※なるべく書き上げたいですが、、、(~_~;)
以上、許せましたらご覧ください笑
忘れられたら苦労しない
菅井群青
恋愛
結婚を考えていた彼氏に突然振られ、二年間引きずる女と同じく過去の恋に囚われている男が出会う。
似ている、私たち……
でもそれは全然違った……私なんかより彼の方が心を囚われたままだ。
別れた恋人を忘れられない女と、運命によって引き裂かれ突然亡くなった彼女の思い出の中で生きる男の物語
「……まだいいよ──会えたら……」
「え?」
あなたには忘れらない人が、いますか?──
くたばれ番
あいうえお
恋愛
17歳の少女「あかり」は突然異世界に召喚された上に、竜帝陛下の番認定されてしまう。
「元の世界に返して……!」あかりの悲痛な叫びは周りには届かない。
これはあかりが元の世界に帰ろうと精一杯頑張るお話。
────────────────────────
主人公は精神的に少し幼いところがございますが成長を楽しんでいただきたいです
不定期更新
私のことを追い出したいらしいので、お望み通り出て行って差し上げますわ
榎夜
恋愛
私の婚約も勉強も、常に邪魔をしてくるおバカさんたちにはもうウンザリですの!
私は私で好き勝手やらせてもらうので、そちらもどうぞ自滅してくださいませ。
婚約破棄のその先は
フジ
恋愛
好きで好きでたまらなかった人と婚約した。その人と釣り合うために勉強も社交界も頑張った。
でも、それももう限界。その人には私より大切な幼馴染がいるから。
ごめんなさい、一緒に湖にいこうって約束したのに。もうマリー様と3人で過ごすのは辛いの。
ごめんなさい、まだ貴方に借りた本が読めてないの。だってマリー様が好きだから貸してくれたのよね。
私はマリー様の友人以外で貴方に必要とされているのかしら?
貴方と会うときは必ずマリー様ともご一緒。マリー様は好きよ?でも、2人の時間はどこにあるの?それは我が儘って貴方は言うけど…
もう疲れたわ。ごめんなさい。
完結しました
ありがとうございます!
※番外編を少しずつ書いていきます。その人にまつわるエピソードなので長さが統一されていません。もし、この人の過去が気になる!というのがありましたら、感想にお書きください!なるべくその人の話を中心にかかせていただきます!
婚約「解消」ではなく「破棄」ですか? いいでしょう、お受けしますよ?
ピコっぴ
恋愛
7歳の時から婚姻契約にある我が婚約者は、どんな努力をしても私に全く関心を見せなかった。
13歳の時、寄り添った夫婦になる事を諦めた。夜会のエスコートすらしてくれなくなったから。
16歳の現在、シャンパンゴールドの人形のような可愛らしい令嬢を伴って夜会に現れ、婚約破棄すると宣う婚約者。
そちらが歩み寄ろうともせず、無視を決め込んだ挙句に、王命での婚姻契約を一方的に「破棄」ですか?
ただ素直に「解消」すればいいものを⋯⋯
婚約者との関係を諦めていた私はともかく、まわりが怒り心頭、許してはくれないようです。
恋愛らしい恋愛小説が上手く書けず、試行錯誤中なのですが、一話あたり短めにしてあるので、サクッと読めるはず? デス🙇
【完結済】平凡令嬢はぼんやり令息の世話をしたくない
天知 カナイ
恋愛
【完結済 全24話】ヘイデン侯爵の嫡男ロレアントは容姿端麗、頭脳明晰、魔法力に満ちた超優良物件だ。周りの貴族子女はこぞって彼に近づきたがる。だが、ロレアントの傍でいつも世話を焼いているのは、見た目も地味でとりたてて特長もないリオ―チェだ。ロレアントは全てにおいて秀でているが、少し生活能力が薄く、いつもぼんやりとしている。国都にあるタウンハウスが隣だった縁で幼馴染として育ったのだが、ロレアントの母が亡くなる時「ロレンはぼんやりしているから、リオが面倒見てあげてね」と頼んだので、律義にリオ―チェはそれを守り何くれとなくロレアントの世話をしていた。
だが、それが気にくわない人々はたくさんいて様々にリオ―チェに対し嫌がらせをしてくる。だんだんそれに疲れてきたリオーチェは‥。
もう惚れたりしないから
夢川渡
恋愛
恋をしたリーナは仲の良かった幼馴染に嫌がらせをしたり、想い人へ罪を犯してしまう。
恋は盲目
気づいたときにはもう遅かった____
監獄の中で眠りにつき、この世を去ったリーナが次に目覚めた場所は
リーナが恋に落ちたその場面だった。
「もう貴方に惚れたりしない」から
本編完結済
番外編更新中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる