王妃様は悪役令嬢の味方です

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第一部

試験の開示

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第一王子の側近候補が増えるのは意外だったが、選ばれた人物においては何ら不思議なことはない。最初に決定だと噂された彼らさえ居なければ、十分選ばれたといえる人選だ。

しかし、何故今なのか。疑問は浮かぶ。アメリア・イェルツ侯爵令嬢は、控室で王妃を待つ間、理由を考えていた。侯爵令嬢と言えど、王宮にはあまり来たこともなければ、王妃様に直々に招待されることもない。婚約者であるレイモンドならいざ知らず、慣れない王宮に緊張はピークに達していた。

王妃の茶会に招かれたのは、アメリアの他にご令嬢が幾人か。何方も見覚えがあるのは、揃いも揃って婚約者が第一王子の側近候補だから。

そのことに気がついたのは、アメリアだけではなかった。



王妃様は突然の来客があったか何かで少し遅れて登場した。王妃様は婚姻なされてからずっと陛下の分まで公務をなされていると専らの噂で、陛下には実権など全くないらしい。アメリアは両親からその辺りの詳しい事情について聞いていたが、王宮で働いていた家族などがいた場合、それは禁句として口に出すことすらも止められていたこともあり、その事実を知らない者も多い。

アメリアの婚約者レイモンド・オルドガーは、王宮魔術士の父を持ち、自分も才能に溢れているおかげで誰よりも早く第一王子の側近候補に名が挙がったのだが、女性蔑視の思考が強く、王妃様に対しても複雑な感情を持っている。彼の普段の言動などから推測するに、彼は王妃様に起きたことを知らされていない。知らされたところで、悪いのは王妃様が分を弁えなかったせいだと、言いそうなものだけれど。

アメリアとレイモンドの婚約は政略で、家の為だから仕方がないとは言え、歩み寄りは勘弁だし、婚姻後は仮面夫婦になるのだろうな、と漠然と察していた。

「貴女達の中に今の婚約者を愛している者はいるかしら。」

まだ学園にも通っていない子供に愛などとわかるわけもない。皆一様に放心している。

「貴女達の婚約者にある試験を施しているの。勿論貴女達にも試験は用意しているのだけど。彼らの試験は、貴女達の協力が必要不可欠になるのよ。本音で教えて貰えない?」

皆互いを見ながらどう口にしていいか躊躇っている。

ロウワ伯爵家のジゼル様は、はっきりと否を口にした。アメリアから見ると二人はとても仲良く見えたのだが違うらしい。

「私達の婚約は政略で決められたものです。幼い頃から一緒にいるため、家族としての情はありますが、愛となるとよくわかりません。私は彼のように優柔不断な人はタイプではありませんので、そう言った意味で言えば特別な感情はないかと思います。」

それをいうならアメリアとて同じ。結果、その場にいた全員が、特に婚約者を愛していない、と回答した。

王妃様はどこか安心した様子で本来の目的を口にする。

「良かったわ。ならば貴女方に審査官をお願いしても大丈夫ね。忖度なく彼らをビシバシ判定して欲しいのよ。」

「それは新しく候補になった方達にもされるのですか?」

「いいえ、彼らはまた別の試験を用意しているから。」

「具体的に私達は何をすれば良いのですか?」

「彼らの行動を見るだけでいいわ。特に何もしなくて結構よ。彼らがこちらから与えた試験に自ら気がついて行動を改めれば及第点。裏の私にまで辿り着ければ合格。ただそれまでに機密漏洩やら、貴女方から見て彼らがやらかしたと思ったら、そこで彼らは脱落ね。合格したら彼らは王太子の側近に任命します。

審査官は主に貴女方にお任せするけれど他にも何人か仕込んでいるから不正は許されないわよ。

婚約者の為に忖度した時点で貴女達の試験も脱落になるから、覚えておいて。

試験が終われば婚約を今後どうするかの相談には乗るわ。頑張ってね。」

暫くして、新しく選ばれた側近候補の面々が現れる。顔見知りというほどではないが、存在ぐらいは知っている。それぐらい縁は薄い。

彼らは、審査の補佐をしてくれるという。婚約者にはされたこともない丁寧なお辞儀に少し恥ずかしさを覚えながらも、頭の中で今ある情報を整理する。

王妃様はアメリアの疑問に応えるように宣言する。

「もし誰かに聞かれたら、私が全てを思い出したようだ、と言うのよ。それだけで分かる人にはわかるから。」
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