睡魔さんには抗えない

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睡魔さんとの出会い

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「そんな便利な魔道具、何の対価も無しに使えるの?」
「……対価なら王家で用意するってこと。実は昔からこの手の実験は王家で繰り返されて来たの。魔を使役する上で、一番害のないのが睡魔だったというのもあって。……どれだけ法を整えていても、貴女の家みたいな劣悪な職場は出て来てしまうから。私を助けると思って、データを取らせて欲しいのよ。」

セリーヌはクリスティナに良いように言い含められていると感じたが、頭が回っていない為に、了承してしまった。


クリスティナはその指輪の他に随分とキラキラした宝石みたいなものが付いている指輪をこれまた大層な箱にしまい、コレは妹さんに、と告げた。

クリスティナは妹に会ったことはないはずだが、彼女のことを良く知っているようだ。

古い指輪でも、姉が王女から貰ったとなれば、勝手に持っていこうとするに違いない。ただの指輪なら良くても、睡魔が閉じ込められているならば、何があるかもわからない。だから、コレは妹が興味を引く用のダミーの指輪だ。

「残念なことに、それは本当にただのおもちゃの指輪よ。教育が始まる前の幼児にしか好かれない宝石みたいな石がついていて、とても可愛らしいでしょう?」

王女様の嫌味をそのまま伝えたとしても、妹はその意味を理解できるかはわからない。だけど一つだけわかるのは、妹はこの指輪を欲しがるだろう、ということ。

丁寧に礼を言い、大切に抱え、帰ると、妹はセリーヌから包みを奪うと、何の躊躇いもなく、キラキラした指輪を身につける。

母も、それがおもちゃの指輪だとは気がつかないらしい。

まあ、別にそれは良い。セリーヌはクリスティナに言われた睡魔の使役について、ずっと考えていた。

昔、学生の頃に読んだ本には魔を使役する際には何らかの対価が必要だと書いてあった。セリーヌに負担を掛けさせないようにクリスティナが手配してくれたことは純粋に嬉しいことだけど。

本当に……使っていいのかしら。

いいんじゃないか。心配なら一度使ってみて怖ければやめればいい。

でも、もし王家に何かがあれば……

……あの王女様はそこまで見越した上で君に指輪を渡したんだと思うけど。だって、君と同じで抜け目ないんでしょ。あの王女。

確かに。彼女がわざわざ私にくれたのだから、そういうことよね。

そうそう。一度は使ってみないと、危険かどうかは判断できないよ。

「………誰?」

先程からセリーヌの思考に応答してくれる誰かは、最後に指輪にキスしてくれればわかる、と言った。

言われた通りに、キスをすると、目の前に見たこともないほど美しい男が現れた。ただし、上半身だけ。

「貴方が、睡魔なの?」

「まあ、そうだね。君たちの世界でいうと、睡魔ってことになるね。」

睡魔は綺麗な顔でケラケラと笑っている。こんなところを妹に見られたら何を言われるか、わからない。ふと周りを見渡したセリーヌに、睡魔はパチリと指を鳴らした。

「君が気にするなら、こんなこともできるよ。」

途端、バタバタと何かが倒れる音がして、すぐさま周りが静かになる。

「これで誰にも邪魔はされなくなった。」

睡魔に誘われて部屋の外、つまりは音のした方に目をやると、使用人達が倒れている。ギョッとして駆け寄ると、どうやら眠っているみたい。

「君が眠る時は少しだけ時間を戻すことで時間に空間を作るから、そこで好きなだけ眠れば良い。ただ今日は説明だけ先にしようと思うから、今はこうさせて貰った。説明が終われば彼らは自動的に起きるから心配はいらないよ。」

「それで、対価は何?なのですか?」

「それは王家との約束だから、話せないんだ。」

睡魔の口元に鎖が現れて、口を開けないようになっている。

「話すと痛い目に遭うことがわかっているからね。そんなことはしないよ。」

クリスティナからは聞けなくても睡魔なら、と思っていたが当てが外れた。でもこれではっきりしたのはやはり何かしらの対価は必要なのだ。それが何かはわからないが、その犠牲に見合うだけの能力をセリーヌは見せつけなければならない。

睡魔はニヤリと笑うと、「覚悟は決まったみたいだね。」と言った。




それからのセリーヌは睡魔を感じることはなくなった。ほぼフル稼働で人間を辞めたように傍目には一睡もせずに働いている。セリーヌが元気になった代わりに両親や妹がぼーっとすることが多くなった。セリーヌはそのことに対して思うことはあったが、うるさくない彼らは非常に有り難くそのままにしておいた。

(少し薄情?でも睡魔の対価を彼らが払っているとしたら良いのじゃないかしら。彼らだって伯爵家の役に立てるのだから。)


最初は上半身だけしかなかった睡魔は今ではずっと人の形を保ってセリーヌの側にいる。睡魔に助けられているせいか、こうしていると徐々に、相手が油断ならない魔であることを忘れ、心を許せるようになっていた。何せ、睡魔は美しいのだ。その辺の男性など霞んで見えるほどに。

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