見えるものしか見ないから

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伯爵令嬢の弔いに

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見たかった景色が実際に見れるようになって既に数年経つ。邪魔なものはいつのまにか片付いていた。シンシアはレオの少し冷たくみえる横顔を独り占めしている幸せに身を委ねる。

彼の横に立てるなら、あの時に妃教育を頑張ったことは決して無駄ではなかった。


あの後、ミカエルは事故で亡くなったと発表された。辺境から逃げ出した際に、誤って崖から転落したそうだ。崖下を通りがかった隣国の商人が、遺体を見つけたことで、彼の死が公になった。

崖下に落ちた時には意識はなかったそうだから、最後は苦しまずに亡くなったのだろうが、シンシアには違和感だけが残った。

遺体の身元を特定したのは、ミカエルの懐中時計。それはシンシアとの婚約が整った際にシンシアの父から二人に贈られたものだ。

「あんな古い時計、もう処分したかと思っていたのに。」

シンシアからアリスに婚約者を変えた際に、ミカエルはシンシアに纏わるものを全て手放したと聞いていた。

何よりミカエルがあの時計を使っているところをシンシアは見たことがなかった。

遺体は崖から落ちたことと、亡くなった時から日が経っていることもあり、損傷は激しかった。一部白骨化していたその遺体をミカエルと断定したのはその時計のおかげだった。

伯爵令嬢アリスの遺体と、ミカエルの遺体は結婚前にも関わらず同じ場所に葬られた。亡くなった後も真実の愛で結ばれるべきだと。

あれが互いに別の人物であることなんて、あるのか、シンシアにはわからない。


ミカエルはどこかで生きていて、平民として幸せに暮らしているのかもしれない。それでも別に構わない。


最後まで好きにはなれなかったミカエルだけれど、だからといって死んで欲しいと願ったことはない。要は、自分の知らないところで、幸せになってくれるなら、それが一番望ましい。




アリスだってそうだ。彼女が幸せであろうとなかろうと、もうシンシアにはそれを知ることはない。レオとシンシア、二人の人生に彼らが再び交わることはない。


レオンは王太子に、シンシアは王太子妃になった今だからこそ、自分は決して万能ではないことがわかる。

だが、アリスの過労死のおかげで、側妃を希望するご令嬢すら居なくなってしまった。ある意味究極の虫除けになったのだが、喜んでばかりではいられない。


王妃が居ない今、王太子妃に課せられた執務はとんでもなく多くなっている。

それでも、あの頃よりはずっとマシだとシンシアは昔を振り返る。

愛する夫がいて、頼りになる部下がいて、愛する人に囲まれている今が一番良い。シンシアは目の前に映る景色しか目に入らない。見える範囲のものしか守れない。

だからこそ、できるだけ前を向いて、周りを見渡して見える部分を増やしていくのだ。今度こそ全てが見えるように。あの日、間違えたのはミカエルだけではなく、シンシアも同じだった。

誰かの犠牲で成り立つ世界はお終い。それが伯爵令嬢アリスの弔いになるのだから。




終わり

読んでいただきありがとうございました!          mios
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