7 / 8
一度死んだ子爵夫人
しおりを挟む
伯爵令嬢は死んで、子爵夫人になった。アリスは愛する夫に、万が一にもバレないように、と名前を変えさせられた。シアと言うのはシンシアと名前が似ているから嫌だったけれど、あの女が嫌いなミカエルにバレない為には似た名前が良いと、夫に良い含められ、シアと名乗るようにした。
髪は目立たないブラウンだったのに、銀髪が似合うと、染められる。変装するにも逆に目立つのでは?と思うが、夫は譲らない。
「君が可愛すぎて外に出したくない。」
そう言って彼は部屋の至るところに鍵をつける。少し過保護じゃない?と、窓に映る自分を見て驚いた。
アリスが何度手を伸ばしても、決して届かなかったシンシア嬢に、よく似た女。そこでようやく合点がいった。
アリスを望んでくれたはずの夫の瞳に映る誰か、は、シンシアだったのだ。
手入れの行き届いた銀髪も、落ち着いたメイクも、アクセサリーも、ドレスも全てが夫の選んだもの。アリスは褒められるままに、彼の望む女を演じていたけれど。
妃教育の最中、アリスに対峙する人達の目に浮かぶのは、いつもシンシアただ一人だった。アリスを前にして、もういない彼女の姿を追い求める彼らの目。
追っても追っても届かない、アリスとは異なる高貴な女性。夫は私がシアである内は、彼女に近づこうと努力する間は、きっと愛してくれるだろう。だけど、ただのアリスに戻った時、彼はどんな反応を見せるのだろう。
その答えは、案外早くに知ることができた。
日に日に元気のなくなっていくアリスに思うことはあったのだろう。彼の兄夫婦がアリスを逃す為に人を寄越してくれたのだ。
彼は孤児院出身の騎士見習いで、アリスに対して淡い恋心を抱いていた。夫の留守中に現れた彼はものの見事にアリスを外に出してくれたのだが。
気がつけばアリスは自室にいた。体を動かそうとしても、身体は動かない。なのに、夫の声だけは鮮明に聞こえてくる。
「やっぱり君はシアにはなれないんだね。だって元が違うから。じゃあ、彼女と同じにしてあげようか。ここだけの話さ、ミカエル王子と、シアが婚約を結んだ理由を知ってるかい?」
返事をしようにも、声が出せない。
「シアが私を選ばなくて、レオン王太子を選んだ理由を?」
はじめから、返事など求めていなかったように彼は饒舌になる。
「あれはね、魂の契約を結んでいるからさ。王家とシアの魂を契約で繋いでいるからだよ。破れば、シアの命に関わるから、私は本物のシアを諦めなくてはならなかったんだ。欲を言えば、君とシアを入れ替えたかったんだけどね。」
間近で見る彼の微笑みは、恐ろしく、美しかった。
「あの騎士見習いが欲しいならあげるよ。でも、ここから立ち去るのは許さない。君は私のシアなんだから。君の魂の契約は、私自身としているんだから。君は心中でもお望みなのかな。」
アリスは声を奪われていた為に、自身の意思は無視された。それでもシアの介護をする夫は幸せそうだ。
「シア、君は必ず幸せにしてあげる。君が私を愛さなくても君がそこにいるだけで、私は幸せなんだ。」
髪は目立たないブラウンだったのに、銀髪が似合うと、染められる。変装するにも逆に目立つのでは?と思うが、夫は譲らない。
「君が可愛すぎて外に出したくない。」
そう言って彼は部屋の至るところに鍵をつける。少し過保護じゃない?と、窓に映る自分を見て驚いた。
アリスが何度手を伸ばしても、決して届かなかったシンシア嬢に、よく似た女。そこでようやく合点がいった。
アリスを望んでくれたはずの夫の瞳に映る誰か、は、シンシアだったのだ。
手入れの行き届いた銀髪も、落ち着いたメイクも、アクセサリーも、ドレスも全てが夫の選んだもの。アリスは褒められるままに、彼の望む女を演じていたけれど。
妃教育の最中、アリスに対峙する人達の目に浮かぶのは、いつもシンシアただ一人だった。アリスを前にして、もういない彼女の姿を追い求める彼らの目。
追っても追っても届かない、アリスとは異なる高貴な女性。夫は私がシアである内は、彼女に近づこうと努力する間は、きっと愛してくれるだろう。だけど、ただのアリスに戻った時、彼はどんな反応を見せるのだろう。
その答えは、案外早くに知ることができた。
日に日に元気のなくなっていくアリスに思うことはあったのだろう。彼の兄夫婦がアリスを逃す為に人を寄越してくれたのだ。
彼は孤児院出身の騎士見習いで、アリスに対して淡い恋心を抱いていた。夫の留守中に現れた彼はものの見事にアリスを外に出してくれたのだが。
気がつけばアリスは自室にいた。体を動かそうとしても、身体は動かない。なのに、夫の声だけは鮮明に聞こえてくる。
「やっぱり君はシアにはなれないんだね。だって元が違うから。じゃあ、彼女と同じにしてあげようか。ここだけの話さ、ミカエル王子と、シアが婚約を結んだ理由を知ってるかい?」
返事をしようにも、声が出せない。
「シアが私を選ばなくて、レオン王太子を選んだ理由を?」
はじめから、返事など求めていなかったように彼は饒舌になる。
「あれはね、魂の契約を結んでいるからさ。王家とシアの魂を契約で繋いでいるからだよ。破れば、シアの命に関わるから、私は本物のシアを諦めなくてはならなかったんだ。欲を言えば、君とシアを入れ替えたかったんだけどね。」
間近で見る彼の微笑みは、恐ろしく、美しかった。
「あの騎士見習いが欲しいならあげるよ。でも、ここから立ち去るのは許さない。君は私のシアなんだから。君の魂の契約は、私自身としているんだから。君は心中でもお望みなのかな。」
アリスは声を奪われていた為に、自身の意思は無視された。それでもシアの介護をする夫は幸せそうだ。
「シア、君は必ず幸せにしてあげる。君が私を愛さなくても君がそこにいるだけで、私は幸せなんだ。」
52
お気に入りに追加
135
あなたにおすすめの小説
覚悟はありますか?
翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。
「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」
ご都合主義な創作作品です。
異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。
恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。
【完結】愛に裏切られた私と、愛を諦めなかった元夫
紫崎 藍華
恋愛
政略結婚だったにも関わらず、スティーヴンはイルマに浮気し、妻のミシェルを捨てた。
スティーヴンは政略結婚の重要性を理解できていなかった。
そのような男の愛が許されるはずないのだが、彼は愛を貫いた。
捨てられたミシェルも貴族という立場に翻弄されつつも、一つの答えを見出した。
一番悪いのは誰
jun
恋愛
結婚式翌日から屋敷に帰れなかったファビオ。
ようやく帰れたのは三か月後。
愛する妻のローラにやっと会えると早る気持ちを抑えて家路を急いだ。
出迎えないローラを探そうとすると、執事が言った、
「ローラ様は先日亡くなられました」と。
何故ローラは死んだのは、帰れなかったファビオのせいなのか、それとも・・・
皇太女の暇つぶし
Ruhuna
恋愛
ウスタリ王国の学園に留学しているルミリア・ターセンは1年間の留学が終わる卒園パーティーの場で見に覚えのない罪でウスタリ王国第2王子のマルク・ウスタリに婚約破棄を言いつけられた。
「貴方とは婚約した覚えはありませんが?」
*よくある婚約破棄ものです
*初投稿なので寛容な気持ちで見ていただけると嬉しいです
帰らなければ良かった
jun
恋愛
ファルコン騎士団のシシリー・フォードが帰宅すると、婚約者で同じファルコン騎士団の副隊長のブライアン・ハワードが、ベッドで寝ていた…女と裸で。
傷付いたシシリーと傷付けたブライアン…
何故ブライアンは溺愛していたシシリーを裏切ったのか。
*性被害、レイプなどの言葉が出てきます。
気になる方はお避け下さい。
・8/1 長編に変更しました。
・8/16 本編完結しました。
婚約破棄から~2年後~からのおめでとう
夏千冬
恋愛
第一王子アルバートに婚約破棄をされてから二年経ったある日、自分には前世があったのだと思い出したマルフィルは、己のわがままボディに絶句する。
それも王命により屋敷に軟禁状態。肉塊のニート令嬢だなんて絶対にいかん!
改心を決めたマルフィルは、手始めにダイエットをして今年行われるアルバートの生誕祝賀パーティーに出席することを目標にする。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる