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余興
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久しぶりに開催された夜会。貴族が一堂に会するその場にはちらほらと、イーサンの魔道具を身につけた者達の姿があった。
「意外と多いのね。」
チェルティ公爵家お抱えの商会には魔道具だけでなく、普通の宝飾品も勿論ある。
魔道具のついでに売れているそうで、どうやら売り込みはうまくいっているようだ。パートナーの魔道具と対になったような宝飾品をもう片方がつければ、一人が悪目立ちすることもなくなる、とそう言い含めたようだが、アイリス達にはどちらが魔道具かは一目瞭然。
高位貴族の余興は、アイリスとイーサン、二人だけの余興になった。
「あら、彼の方。随分可愛らしい……」
アイリスの視線の先には、マリジュ公爵家の長男と、その嫁が並んで立っている。教養とかその前に随分と個性的なドレスをお召しになっている。
「センスがよくなる魔道具も必要かな。」
そう言われれば、王家にはそもそも趣味の悪いドレスは存在しない。それはマリジュ公爵家も同じだが、彼女が自ら頼んでしまったのならこういう事態もあり得るということだ。
アイリスは、魔道具の改善を頭に入れつつ、人を眺めていると、マリジュ公爵家のヴァイオレット様が、それこそ完璧な出立ちで現れた。
「もしかして……」
「あの魔道具、素晴らしいわね。彼女、すっかり別人よ。だけど、兄は後継者から外されたわ。何故かは内部の事情だから今は言えないのだけど、私が継ぐことになりそうだから、アイリス様、イーサン様、これからもよろしくお願いいたしますね。」
早口で、お礼と衝撃の事実を告げて足早に去っていく。「あの兄妹は、その方がしっくり来るのに、とは思っていたけれど、やっぱりそうなったか。」
イーサンは髪を整えただけで、人が変わったように綺麗になるから、周りから視線を向けられている。当の本人はアイリスしか見ていないから安心すべきだが、アイリスの心中は気が気ではない。
魅了魔法など、使わなくても彼は人を魅了する。本人がその意識はないものの、周りは薄々気がついている。
まさか、公爵家の婚約者を狙う恥知らずはいないだろうという話は前例を作ってしまっている。
アイリスはその苦い思い出を、ジェイミーを愛していなかった、その一言で切り捨てた。だけど、一度は選ばれなかった、という事実があるのも確か。
次こそは容赦しない。
「もし、イーサンが奪われる、なんてことになればどんなことをしてでも、それを阻止するわ。」
決意は声に出ていたようで。イーサンは、綺麗な顔を蕩けさせ、人の目も気にせずに、アイリスに触れる。
「愛してる、僕のアイリス。まだ僕の愛が信じられなくて、不安なんだね。大丈夫。すぐにわからせてあげるよ。」
蕩けた顔で微笑んでいるのに、真っ暗闇が後ろに控えているような気がするのは、何故だろう。
王太子、王太子妃の入場を告げられたと言うのに、アイリスはイーサンの腕の中に捕まったまま。魔道具の調子を見に来たのに、本末転倒だ。
イーサンの胸を押し除けて目を向ければ、彼らを操る糸は太く、完璧な振る舞いが出来ていた。
「これなら安心できるわね。」
側近として、侍るジェイドの耳にも真新しいピアス。
アレは果たして魔道具か、それとも宝飾品か。アイリスは知りたいとは思わなかった。
「意外と多いのね。」
チェルティ公爵家お抱えの商会には魔道具だけでなく、普通の宝飾品も勿論ある。
魔道具のついでに売れているそうで、どうやら売り込みはうまくいっているようだ。パートナーの魔道具と対になったような宝飾品をもう片方がつければ、一人が悪目立ちすることもなくなる、とそう言い含めたようだが、アイリス達にはどちらが魔道具かは一目瞭然。
高位貴族の余興は、アイリスとイーサン、二人だけの余興になった。
「あら、彼の方。随分可愛らしい……」
アイリスの視線の先には、マリジュ公爵家の長男と、その嫁が並んで立っている。教養とかその前に随分と個性的なドレスをお召しになっている。
「センスがよくなる魔道具も必要かな。」
そう言われれば、王家にはそもそも趣味の悪いドレスは存在しない。それはマリジュ公爵家も同じだが、彼女が自ら頼んでしまったのならこういう事態もあり得るということだ。
アイリスは、魔道具の改善を頭に入れつつ、人を眺めていると、マリジュ公爵家のヴァイオレット様が、それこそ完璧な出立ちで現れた。
「もしかして……」
「あの魔道具、素晴らしいわね。彼女、すっかり別人よ。だけど、兄は後継者から外されたわ。何故かは内部の事情だから今は言えないのだけど、私が継ぐことになりそうだから、アイリス様、イーサン様、これからもよろしくお願いいたしますね。」
早口で、お礼と衝撃の事実を告げて足早に去っていく。「あの兄妹は、その方がしっくり来るのに、とは思っていたけれど、やっぱりそうなったか。」
イーサンは髪を整えただけで、人が変わったように綺麗になるから、周りから視線を向けられている。当の本人はアイリスしか見ていないから安心すべきだが、アイリスの心中は気が気ではない。
魅了魔法など、使わなくても彼は人を魅了する。本人がその意識はないものの、周りは薄々気がついている。
まさか、公爵家の婚約者を狙う恥知らずはいないだろうという話は前例を作ってしまっている。
アイリスはその苦い思い出を、ジェイミーを愛していなかった、その一言で切り捨てた。だけど、一度は選ばれなかった、という事実があるのも確か。
次こそは容赦しない。
「もし、イーサンが奪われる、なんてことになればどんなことをしてでも、それを阻止するわ。」
決意は声に出ていたようで。イーサンは、綺麗な顔を蕩けさせ、人の目も気にせずに、アイリスに触れる。
「愛してる、僕のアイリス。まだ僕の愛が信じられなくて、不安なんだね。大丈夫。すぐにわからせてあげるよ。」
蕩けた顔で微笑んでいるのに、真っ暗闇が後ろに控えているような気がするのは、何故だろう。
王太子、王太子妃の入場を告げられたと言うのに、アイリスはイーサンの腕の中に捕まったまま。魔道具の調子を見に来たのに、本末転倒だ。
イーサンの胸を押し除けて目を向ければ、彼らを操る糸は太く、完璧な振る舞いが出来ていた。
「これなら安心できるわね。」
側近として、侍るジェイドの耳にも真新しいピアス。
アレは果たして魔道具か、それとも宝飾品か。アイリスは知りたいとは思わなかった。
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