彼女が望むなら

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侍女は侍女

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「だって、おかしいとは思いませんか。血筋だなんだと言うなら、王太后様や王妃様を大切にするべきでしょう。なのに、王家の血を引いていないものが、本来なら大切にしなければならない人を蔑ろにして、我が物顔で王位についている。

血筋の正しい者のみが公務を負わなければならない、なんてことはない。寧ろ、血という絶対的な後ろ盾がない者達が、身を粉にして働くべきでしょう?

歴代の王が愚かなら、その配偶者は、皆彼らを甘やかせるばかり。

このまま、私とアイリスが王位を継げば、また貴女達は彼らを甘やかし、したいことをさせるのでしょう?自分の人生を贄にして。

自己犠牲は結構ですが、それを次代に引き継がせないでください。少なくとも、私とアイリスは彼らに手を貸しませんよ。」

「それは臣下として、王家に…王命に、背くと言うこと?」

ただ睨みつけているだけの侍女とは違い、王妃はこちらの真意を見極めようとしている。

「私の臣下としての貢献は、魔道具の製作でお釣りが来るぐらいだと、自負しております。アイリスも長年の婚約者としての学びで、恩はかえしております。そちらの横暴を棚に上げ、まだ此方から搾取されるおつもりで?」

「王家の簒奪を理由に、陛下と侍女を含め、あの子達も処分してしまえば、貴方達がいくら嫌がっても自ずと王位は滑り込んでくるわよ?」

「正直に申しますと、王位にそれほどまでの魅力はないですよ。」

イーサンの言葉に、激しい剣幕で百面相を見せる侍女と違い、王妃は静かに俯いて「確かに。」と、イーサンにしか聞こえない程度の声で呟いている。

「先程貴女は王命に背いて、と仰ったが、今の陛下の発する王命にどれだけの価値があると言うのです?彼は簒奪者の息子で、また簒奪者なのですよ。ただ、勘違いしないで貰いたいのは、私が血筋など、どうでも良いと思っていることだけです。だって、簒奪者が治めてきた国ですよ?献身的な貴女達の働きで、彼らでも治めてこられた国ですよ。今更血筋に何の意味があるのです?


そこの侍女が権力がほしいなら、差し上げれば良いのですよ。」

「王妃のお立場は、他人に譲渡できるものではございません。」

そう口にしたのは王妃ではなく、侍女。先程から当然のように入り込んでくる彼女は、自分の立場を理解できないらしい。

「君はさっきから、話に割り込んでくるけれど、思惑が明るみになったところで、侍女は侍女だよ。次期国王にジェイミーを就かせるとはいえ、君が何かを得ることはないよ。もし得るとしたら、そうだね。王家を取るに足らないものに作り替えた罪人としての責任と、その罰ぐらいかな。」

罰、と聞いて顔を青くさせるのは、王の寵愛を受けた女の末路を思い出したせいかもしれない。国王陛下は、即位した時点で王族だから、便宜は図られたが、女達はそうではない。身分が貴族だろうと平民だろうと、例外はなく、残さず処分されている。

「そうね。侍女は、侍女だわ。」

ずっと俯いていた王妃が顔を上げた。その顔に躊躇いは既にない。

「貴女、簒奪の片棒を担いだからには、陛下と共に幽閉されるか、ジェイミーの側で一生を終えるか、どちらが良い?選ばせてあげるわ。」

笑みを浮かべて、微笑むイーサンに王妃は頷いて、侍女に二択を突き付ける。流れが変わったことを、きちんと理解できたようで、うってかわって、侍女は何も言わなくなってしまった。


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