彼女が望むなら

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自身の因縁

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極限まで働いていると耳鳴りがするというのは、魔道具の製作中に何度も体験したことだ。小さな羽虫の音のように、いつまでも不快で、嫌な音。

アイリスが体験した口だけは立派な羽虫達の合唱の意味も込めて、王太子への些細な嫌がらせにそれを魔道具に込めてやった。

これまで対して働いたこともなければ、体調を崩したこともない鈍感な王太子殿下は、耳鳴りというものを体験したことはないから、想像もつかないだろう。

ずっと耳鳴りが続く空間に、皆が協力してくれた音声をある条件下で流しておく。セリフは彼に馴染みのある自身の発したことのある言葉にしておいた。

アイリスをはじめ、周りの人にぶつけた暴言の数々を、自ら体験してもらう。それがどれだけ人を傷つけるかを身をもって体験していただき、目を覚まさせる。

アイリスは、王太子の為、ではなく、周りに残された元部下の為、過ぎた復讐を望まなかった。やっぱりとことん彼女は優しい。

だけど、イーサンは違う。アイリスの為ではなく、自分の為に、彼女がされたことぐらいはあの鈍感にわからせたい、と願う。

人の話が聞けないならば、強制的に聞かせれば良い。体調の悪い者を気遣えないのなら、己が同じ立場になってみると良い。ストレス、なんて何もかんじないのであれば、全身で浴びてみれば良い。

「王太子のピアス」「王太子妃の首飾り」は、どちらもカリキュラムが終われば勝手に取れるものだ。謂わば付けている間は、決して王にも王妃にもなれない。


カリキュラムには精神の成長も、条件に含まれている。少なくとも、自主的に人の意見を聞いて、反省ができるぐらいには大人になって貰わなければならない。


魔道具の調整要員は送り込んではいるが、イーサンは自ら所用の為もあり、城に赴いて、誤作動がないか調べることにしている。

王太子妃の首飾りは十分働いているようで、彼女の心中がどうあれ、今のところ何の問題もなく、王太子妃教育は進んでいる。

カールは一時期の護衛として、王太子妃のもとにいたが、その後、侍女諸共、別の者に替えた。

長く側に置くと、下手に情が移ってこれからの計画に支障があっては困る。

イーサンは王太子に会う前に所用を済ませることにした。向かうは現王妃の元。先触れを出したというのに、侍女はイーサンを見るなり、驚いた顔をした。若い侍女だったことから、彼女はイーサンと王妃の関係性については知らないのだと結論付ける。

それでも、公爵家の遣いだとでも思っているのか丁寧な対応に、何だかむず痒さを感じ、落ち着かなくなった。

王妃が入って来た時、見知った面々のいつもの蔑み混じりの目に晒され、少し安心したぐらいだ。

彼女達は、イーサンを忘れていない。忌々しい、王太后の愛を独り占めする少年に、使用人の身でありながら、恐れを知らぬ瞳で見下す。

今まではただ恐ろしかった彼女の周りは、こうしてみるとただの勘違い女の集まりだ。

王妃に対して、礼を尽くしながら、王太后の唯一の息子には礼を尽くさない。

自分は今の王太子殿下よりは王位に相応しいと、思うが?

挑発するように、微笑むと、王妃よりも侍女達がわかりやすく怯んだ。アイリスだけでなく、イーサンも前からの因縁に決着をつけなければならない。

手始めにまずはここから。イーサンは彼女達に見せたことのない微笑みを携えて、口を開いた。



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