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魔道具師と公爵令嬢

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王宮で働く侍女や女官には、あらかじめ根回しが行われていた。公爵家お抱えの魔道具師イーサンが作成した魔道具は、使用者が何も考えなくても、魔道具自らが思考して、学べる画期的なものだ。そして、教材となるのは、使用者に出会う周りの人達。

王宮で働く女性達は当然ながら、淑女教育を受けている。それも王宮仕様な為、彼女達を手本にするのは、初期段階としては悪いことではない。

元は幼きアイリスのために勝手に学べる魔道具を作ろうとしたのがきっかけだ。たった五歳の女の子に、詰めるだけ詰め込んだ王妃教育は、とうに彼女を限界まで追い詰めていた。イーサンは当時、王太后様に養われていた。とある事情で表舞台には立てなくとも、アイリスの壊れがかった心を心配するぐらいには、自由に過ごしていた。イーサンは自分とあまり歳が変わらない小さな女の子に、自分の境遇を重ねて、勝手に親近感を覚えていた。

イーサンが魔道具師になったのは、アイリスを楽にさせたいから。王妃教育が忙しくて遊べない、とイーサンに告げた彼女の顔色を正常に戻すため。

きっかけは何であれ、何かに興味を持つようになったイーサンを、王太后はじめ、周りの大人達は、喜ぶと同時に注意深く見守ってくれた。そもそもイーサンの存在自体が王宮内に少しばかり緊張をもたらすものではあったのだが、イーサンはアイリスに出会ってからは、その辺りのことに意識を回せなくなった。

イーサンの頭の中には、アイリスだけがいた。王妃教育が終わったら、イーサンと遊んでくれる可愛い女の子、アイリス。

王家は、アイリスにはたくさんの教育を受けさせる癖に、王子には何の教育もつけていなかった。

いざとなれば、「王太子のピアス」をつけてしまえば、良い。

「王太子のピアス」は、イーサンに魔道具について教えてくれた師が作ったものだ。アレは国宝のように扱われているが、本当は呪いがかけられた危ない魔道具だ。

呪いが弱く見えるために、気にも留められていないが、使った者は皆、自分の意思を理解されることすら叶わずに、朽ち果てる。

そのことを知っているのは師の他には自分だけ。イーサンは、そのことを王家に伝えるのを忘れていた。幼き頃にその危険性を口にしていれば、イーサンの今はなかったかもしれない。

幼少期からイーサンには敵が多かった。アイリスと仲良くなったから、公爵にも認識されて、公爵家に置いてもらえるようになった。

公爵にその時、どういう思惑があったかはわからないが、イーサンに対する同情ばかりでないことは理解できた。

アイリスは、公爵家では、ちゃんと愛されて甘やかされていた。アイリスの愛らしさは王宮で見る比ではない。

彼女は口にした通り、公爵家では自由に、イーサンとたくさん遊んでくれた。
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