ファーストキスは草の味

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その気はないので黙ります

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実をいうと、毒で苦しむ彼を助けたその時にスザンヌは陛下に、後遺症を治す治療法を提案している。

だが、将来的に王子を立太子する予定がなかった陛下から、治療をするなら、スザンヌをミハイルの婚約者にする、と言われて、諦めたのだった。

「お主が婚約者になりたいというのなら、治療をしてもいいが、あれは元々王位継承権のない奴なのでな。子種がないというのは実に僥倖なのだ。これで愛する王妃に似た唯一の娘を王にできる。」

あの場で治療をしていたら、最終的にはミハイルを押し付けられていたのは自分かもしれない。

「それでしたら、口を噤みます。」

第一王子と第二王子には王位継承権はないというのは、その二人の母が王妃ではないということから、そうなったらしい。

詳しくは教えてもらえなかったが、王妃の座を狙ったどこぞの令嬢とどこかの王女が、陛下の子だと言い張ったのだという。二人は側妃にならず、亡くなっているため、何があったかはわからないが、子に罪はない、と王妃の子として育て、その間に、王女殿下の邪魔になるようなら処分する、としていたらしい。

すでに第一王子、第二王子と、子種のないように処理されている。だから、彼らの後遺症を治すなら、彼らごと、受け入れる気でないと、いけないらしい。

スザンヌにはそんな気はない。だから、口を噤んだ。本人達は知らないというのが不幸中の幸いだろうか。

第二王子は、第二王子で学園では威張り散らしているが、卒業したらその後は自分がどうなるのか知らないに違いない。

王女殿下を真面目だけが取り柄の地味女と称して嘲笑っているのを皆学園にいる人は知っている。

次期王位を継ぐ王女殿下をバカにする家臣は国に必要だろうか。学園卒業を待たずに処分される道もあるのかもしれない。

その時、彼の周りにいる側近気取りの金魚のフン達はどうするのだろう。

生徒会室ではいつものメンバーが書類と格闘している。

「ねぇ、スザンヌ。悪いんだけどアレ作ってくれない?」

「アレ?好きになったの?前は苦いって言ってたじゃない。」

「苦いけど不味いんだけど、何故かあれから無性に飲みたくなるんだもの。お願い。」

滋養強壮に聞く薬草汁を生徒会の一人が飲みたいと言い出した。スザンヌは薬草汁を飲んでいつも元気にしているのをどこかから聞いたらしい。美味しくはない、とちゃんと伝えたが、彼女達は確かに不味いけど、飲むと元気になる、というものだから、割と頻繁に作っているのだ。

生徒会室に常備している器具を使って薬草汁を作ると、皆「コレコレ!」と言い、「まずーい」と言っては笑っている。

皆の反応を楽しく見ながら、飲んでいると隣からチュッと小さくキスをされた。

婚約者になったばかりのリカルドが皆に気づかれないようにデレたのである、が。

「私、ファーストキスだったんだけど?」
「俺もだよ。」

「ファーストキスが草の味ってこういうことだったのね。」

リカルドは吹き出した。「悪くないわね。」
「うん。悪くないな。」



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