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最低のシナリオ

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「最近のシナリオは、ヒロインが王太子妃になって、はいハッピーエンド、ではないのよね。」

男爵令嬢が婚約者のいる王太子と恋に落ち、王太子の婚約者を断罪して、自分が彼女に成りかわり、王太子妃と君臨する。

それが既存のシナリオ。

だけど、最新のシナリオでは、王太子妃になってからが、メインだったりする。

侍女の企みによって、夫以外の男との間に子供ができてしまうことから話は始まる。

産んだヒロインは当然驚く。だって自分が抱かれたのは夫だと信じていたから。

普通の女性だったらそこで気鬱の病になったり、自殺を考えたりするのだろうが、そこはさすがヒロイン。

何故か平然と、赤子を可愛がってごり押しで突き進む。最終的になんだかんだあった末に、「真実の愛」は夫ではなく、子を産んだ「父親」との間にあったのだと気づくのだ。

………変なシナリオすぎない?托卵推奨してる?王太子妃の考えること、こんなやばくて良いの?

話の繋がりがおかしくて、これは夢だと自覚しているも、何かどっかで聞いた話だと思う。

最終的な「真実の愛の相手」がよく見知った顔だと言うことに気がついて、漸く目が覚めた。

そして、その頭で漸く理解した。

ああ、ここは、あの変わった乙女ゲームの世界なのだと。

友人がプレイしていた王太子妃がヒロインのドロドロした乙女?ゲーム。托卵の時点で乙女ゲームというのは烏滸がましいと思うのだけれど、どうなの?

エリカは、寝汗を拭きながら、今見た悪夢を思い出そうとした。

やけに鮮明だった夢の中で、エリカは「真実の愛の相手」の形だけの婚約者として王太子妃が産んだ子を我が子として養うという役を与えられる悲しい妻であったことを思い出す。

夢の中で、エリカは婚約者のことが大好きで、彼のためなら、と献身的に彼を支え、出自のわからない子でも、自分の子のように可愛がる。

結局、最後はヒロインと再婚したいからと勝手に離縁を言い渡され、そのことに文句も言わずに「貴方の幸せの為なら」と、慰謝料も拒否して、離縁するのよね。


……何それ、気持ち悪。


最初のハッピーエンドと二番目のハッピーエンドのヒーローが違う、という結末に当時随分と騒がれたのを覚えている。

一途に誰かを思い続けるよりも、下世話なこのシナリオは当然ながら賛否が分かれた。

……確かそこのバッドエンドは理不尽な夫の仕打ちにキレた妻が王太子と関係を持ち、彼女達を用無しと捨てるんだったわ。不貞には不貞で対抗するって頭がおかしい。いくら何でもあの王太子を誘惑したりしないわよ。気持ち悪い。

(さっきから気持ち悪いしか言ってない。)

そんなでも一部の層には案外受け入れられた。それもこれも、托卵からの略奪婚が世間でも話題になっていたからだ。確かどこかの国の女王が産んだ子が王配の弟?に似てたとかで、不倫を疑われたのよね。

王配の弟なら似てもおかしくないじゃない?って思っていたから報道に違和感しかなかったのだけど。


何だったんだっけ?何が原因で、托卵って騒がれたんだっけ?

エリカは前世に見たどこかの国のスキャンダルを頑張って思い出そうとした。何故だか思い出した方が良い気がしたのだった。所謂虫の知らせと言うもので、エリカはその背景を元にこの世界を読み解こうとしていた。
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