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過去❶

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男爵令嬢が王子ではない男に貢いでいると言う事情は公爵家では既に知らされていた。シューダー公爵令嬢であり、第一王子の婚約者でもある、ソフィアは、その事実を知った際、間抜けな婚約者に笑いが止まらなかった。

ソフィアは男爵令嬢が望むなら、その貢いでいる男と、添い遂げさせても良いと思っていたが、その男には恋人が何人もいるようだった。

男を手玉に取る悪女のような男爵令嬢がそんな商売男に嵌り切っていることは正直以外で、敵ながら同情したものだ。

隣国からの客人は最初、公爵家で保護する手筈ではなかった。隣国の王太子妃の妹だとかで、大切な客人だからと、王家でもてなす事になっていたのだが、あの婚約者様がその客人に愛人にしてやる、とか何とか言って、彼女を怒らせてしまったのだ。

こうして、彼の後始末として、我が公爵家が客人として預かる事になった。

「本当に余計なことしかしないわね。」

ただでさえ、忙しいのに、と文句を言いたいが今更どうしようもない。隣国の王太子妃は食えないタイプだから、面倒だと思っていたら、全く違うタイプの面倒なのが来てしまった。

確かに彼女の庇護欲を唆る美貌は、愚かな第一王子でなくとも争いの種になりそうだ。

男爵令嬢に骨抜きにされている男達も、やはり浮気性の美少女好きなようで、男爵令嬢の指示という言い訳を持って、彼女を口説き始めていた。

キュリー伯爵家の嫡男マークスがその最たる例だ。彼は多分手に入らない男爵令嬢を諦めてデリアをどうにかして手に入れようと画策しているようだった。それならちゃんと婚約者を大切にしなさいよ、と言いたいところだが、彼にとって、自分で選んだ相手というのが、いいらしい。婚約者はあくまでも自分以外の誰かが選んだ人で、貴族というのに、恋愛結婚に恋をしているような気持ち悪い男だった。

彼には、自分を選ばないなんて、納得できないことだったに違いない。男爵令嬢だけでなく、留学生からも拒絶されて、彼は己を省みるどころか、理不尽な恨みを抱いたようだ。

男爵令嬢は愛する男が、デリア嬢の知り合いと知ると、彼女を穢して、傷物にしようと企んだ。勿論、自分を愛している男達を使い、力づくで彼女を支配しようとした。

ソフィアはデリア嬢の護衛を知っている。二人とも腕の立つ男で、下衆共が画策したことなんて、未遂で終わることはわかっていた。


公爵家はデリアを注視しながらも、隣国からの手紙によって、男爵令嬢の思い人が、デリアの関係者かもしれないことを掴んでいた。

……本当にそうだろうか。そんな偶然がある?

ソフィアは全てが出来過ぎであると思った。それは兄も同じ様に思ったようだ。


「男爵令嬢は思考を誘導されているのかもしれないわ。すぐに動かなくては手遅れになるかも。」


そんなことをしそうなのは、とソフィアの頭に浮かんだのは、隣国の面倒な女。


隣国の間者がどれだけ国に流れているかは憶測でしかないが、わざわざ妹を囮として送り込んだということは。




ソフィアは、どうにもならない自分の無能さを悔やんだ。多分、デリアは捨て駒で、どちらにしても最初から死ぬはずだった。「責任の追及」がデリアの姉の目的だったから。
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