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過去の過去と兄妹の会話

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「お前、借金は全てなかったことにしてあげるから、あの男を処分しなさい」

テーブルに置かれた薬瓶と短剣は、この家では、次期王太子妃であるロレーヌ様に忠誠を誓うと言う意味と同義だ。

彼女の言う「あの男」とは公爵家の嫡男であり先程まで自分の主人だった筈の男のことである。

ロビン公爵家には、当主よりもロレーヌ様を優先させると言う謎の掟がある。どう言う訳か当主様もロレーヌ様を娘としてではなく、逆らえない者として認識しているようである。

ロビン公爵家ではロレーヌ様が一番。それが暗黙の了解だった。

ロレーヌ様に言われたことを守れなければどうなるか。それは想像に難くない。侍従は嫡男につきながら、ロレーヌ様が自分の主人を嫌いなことは薄々感じてはいた。

何故なら自分も嫌いだから。虫ケラを見るような彼女の瞳を見て、鏡に映った自分の瞳のようだと思ったからだ。

嫡男様は絵に描いたような屑だった。彼は血の繋がった次女のデリア嬢を可愛がっていたものの、その思惑は醜悪なものだった。

彼は次女デリアを売って、金にしようと考えていた。

「ロレーヌにバレたら殺されるが、逃げ道は考えてある。アレは見た目が良いからな。頭は悪くとも美少女ならば、自分で躾けたいと金を出す変態どもに高く売れるだろう。」

公爵家の一番はロレーヌ様ではあるが、末っ子のデリア様が蔑ろにされている訳ではない。寧ろ慈しむべき存在として、彼女を可愛がる者が多かった。肝心のロレーヌ様も。

嫡男の仕末を侍従に任せる、と言ったのも、彼がデリアを護れるか試した結果だと思う。彼はデリアを守れなければ愛する人を失うし、ロレーヌに許されなくて命を狙われることになる。

そもそも断る、なんて選択肢はない。侍従はデリアを狙う嫡男を連れ出し、一思いにさっさと殺してしまおう、と考えていた。

だが、話はそう単純ではなかった。

当たり前の話だが、売り手がいると言うことは、買い手もいる。デリアを狙うゲス野郎を全て潰さなくては、嫡男がいなくなったとして、彼女への脅威はなくならない。

色々なことを考慮した結果、彼は嫡男と失踪という手段を取った。






そこまでは、シューダー公爵家が調べていた事実である。

「要はあの人自身の見誤りから始まった惨劇を、此方のせいにして脅されているってことよ。確かにあのご令嬢は亡くなって、相手の男も悲劇の死を遂げたけれど、後始末と称した八つ当たりに一々反応していたらキリがないわよ。お兄様で話にならないなら、私が直接話すわ。」

王太子から隣国の王太子妃との会話を聞かされて、シューダー公爵令嬢は、臨戦態勢になった。

兄は見た目に反して血の気の多い妹を諌めた。「それでも、奴らみたいなゴミを処理してくれるならいいんじゃないか?もう彼らはこの国では不要なんだし。」

「だとしても、よ。あの手の男達は自分が助かる為なら何でもやるんじゃないかしら。忠誠心なんてある訳ないんだから。最悪、国ごと奪われて終わりよ。」

妹のはっきりした物言いに、今度こそ王太子は言葉をなくした。
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