上 下
11 / 11

欲と感情 マーカス視点

しおりを挟む
ポートン侯爵令嬢の次の婚約者が男爵子息だと知って、事情を知らない者達は皆不思議に思った。


けれど、マーカスには第一王子ジュリアスやら、サリエル・ポートンが頻繁に話しかけたり、そばに居たりしていることから、彼は男爵家の者でも優秀な男なのだろう、と認められていた。

マーカス自体は何も変わっていないとは思うものの、周りはすっかり様変わりして目に見える景色も随分と変わった。

「何を考えているの?」

何より一番変わったことといえば、マーカスには到底手の届かない存在だった彼女が、側に居て、こちらに笑顔を向けていること。

「グレイス嬢のことですよ。」

グレイス嬢は前の婚約者との婚約がなくなってから随分と笑顔を見せるようになった。今頃彼女の美しさに気がついてももう遅い。マーカスは前婚約者とは違い、グレイスを決して離すことはない。

「そう言うことにしておいてあげる。」

二人が良い雰囲気だと、どこからかグレイスの兄やらジュリアスやらが邪魔をしてくる。それをグレイス嬢は独占欲という言葉で不満を現していたが、マーカスの気持ちは少し違う。

自分でも性格は悪いと思うのだけれど、自分の知らない彼女を彼らが知っているように、これから彼女の恋人に対する顔は自分しか見ることができないのだな、と言ったある種、優越感みたいなものが芽生えている。

それもこれも、ミリーのおかげだと思うと複雑な気持ちにもなる。だが、ミリーの婚約者に挨拶した際に感じたヒリヒリした殺意みたいなものは、いまだに覚えている。

あれは、ミリーに対する嫉妬なのか、それ以外にあるのか。それとも、自分から奪われたものが、全て此方にあると言う絶望からの行為なのかはわからない。

男爵家にグレイス嬢を連れて行った日は、周辺はお祭り騒ぎだった。


グレイス嬢は見るもの全てに驚きと、感嘆を繰り返していて微笑ましい。同時にあの日見た疲れた顔をこれからは彼女にさせないように気を配ろうと思った。

「結婚式の頃は、この辺り一面に紫色の小さな花が咲くんです。控えめな美しさの野草ですが、一面を埋め尽くす景色は壮大で、それだけを観に来る観光客もいるんですよ?」

お花に包まれたグレイス嬢は、大変美しいだろう。正しく花嫁の盛装に相応しい。

「本当に、男爵家に嫁いでくださるんですか。」
「ええ、勿論。私にその景色を見せてくださるのでしょう?」

幸せすぎて、これは夢かもしれないから、と何度となく繰り返した確認をグレイス嬢以外は「また、やってる」と呆れて見ている。

申し訳ないが、結婚式まで後何回かは繰り返すだろう。

「楽しみねぇ。」
グレイス嬢ののんびりした声が、辺りを平和な空気に変えていった。



終わり

読んでいただきありがとうございました。     mios
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(4件)

兎月
2023.07.08 兎月

誰の視点なのか副題に載せて下さると、把握しやすくて読みやすいかと思われます。

mios
2023.07.08 mios

ですよねー。読み易さに気をつけて書いていこうと思います。ありがとうございました!

解除
蘭丸
2023.06.21 蘭丸

初めまして😌

色々な人の視点で描かれながらも
面白く読ませて頂きました✨

ただの田舎から出て来た考え無しの
子爵令嬢が実は(笑)💕とか
公爵令嬢は爵位に物を言う頭の悪い
令嬢だった(笑)😅等々…
まさかの展開に踊らされました💕

mios
2023.06.21 mios

初めまして!感想ありがとうございます!

視点がコロコロ変わるのは仕様です。違うように書きたかったのですが、無理でした……読み難くて申し訳ないです。(笑)楽しめたようでホッとしました。

解除
かわらそば
2023.06.14 かわらそば

予想外の物語の流れに思わず読み終わった後に拍手してしまいました。
とても面白かったです。

mios
2023.06.14 mios

ありがとうございます!書いてる内に、着地点がブレて焦ったんですが、何とかなって良かったです!あたたかいご感想ありがとうございました!

解除

あなたにおすすめの小説

貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後

空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。 魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。 そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。 すると、キースの態度が豹変して……?

好きな人と友人が付き合い始め、しかも嫌われたのですが

月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
ナターシャは以前から恋の相談をしていた友人が、自分の想い人ディーンと秘かに付き合うようになっていてショックを受ける。しかし諦めて二人の恋を応援しようと決める。だがディーンから「二度と僕達に話しかけないでくれ」とまで言われ、嫌われていたことにまたまたショック。どうしてこんなに嫌われてしまったのか?卒業パーティーのパートナーも決まっていないし、どうしたらいいの?

婚約者に好きな人ができたらしい(※ただし事実とは異なります)

彗星
恋愛
主人公ミアと、婚約者リアムとのすれ違いもの。学園の人気者であるリアムを、婚約者を持つミアは、公爵家のご令嬢であるマリーナに「彼は私のことが好きだ」と言われる。その言葉が引っかかったことで、リアムと婚約解消した方がいいのではないかと考え始める。しかし、リアムの気持ちは、ミアが考えることとは違うらしく…。

妻と夫と元妻と

キムラましゅろう
恋愛
復縁を迫る元妻との戦いって……それって妻(わたし)の役割では? わたし、アシュリ=スタングレイの夫は王宮魔術師だ。 数多くの魔術師の御多分に漏れず、夫のシグルドも魔術バカの変人である。 しかも二十一歳という若さで既にバツイチの身。 そんな事故物件のような夫にいつの間にか絆され絡めとられて結婚していたわたし。 まぁわたしの方にもそれなりに事情がある。 なので夫がバツイチでもとくに気にする事もなく、わたしの事が好き過ぎる夫とそれなりに穏やかで幸せな生活を営んでいた。 そんな中で、国王肝入りで魔術研究チームが組まれる事になったのだとか。そしてその編成されたチームメイトの中に、夫の別れた元妻がいて……… 相も変わらずご都合主義、ノーリアリティなお話です。 不治の誤字脱字病患者の作品です。 作中に誤字脱字が有ったら「こうかな?」と脳内変換を余儀なくさせられる恐れが多々ある事をご了承下さいませ。 性描写はありませんがそれを連想させるワードが出てくる恐れがありますので、破廉恥がお嫌いな方はご自衛下さい。 小説家になろうさんでも投稿します。

王子好きすぎ拗らせ転生悪役令嬢は、王子の溺愛に気づかない

エヌ
恋愛
私の前世の記憶によると、どうやら私は悪役令嬢ポジションにいるらしい 最後はもしかしたら全財産を失ってどこかに飛ばされるかもしれない。 でも大好きな王子には、幸せになってほしいと思う。

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

【完結】夫もメイドも嘘ばかり

横居花琉
恋愛
真夜中に使用人の部屋から男女の睦み合うような声が聞こえていた。 サブリナはそのことを気に留めないようにしたが、ふと夫が浮気していたのではないかという疑念に駆られる。 そしてメイドから衝撃的なことを打ち明けられた。 夫のアランが無理矢理関係を迫ったというものだった。

【完結】身代わりの人質花嫁は敵国の王弟から愛を知る

夕香里
恋愛
不義の子としてこれまで虐げられてきたエヴェリ。 戦争回避のため、異母妹シェイラの身代わりとして自国では野蛮な国と呼ばれていた敵国の王弟セルゲイに嫁ぐことになった。 身代わりが露見しないよう、ひっそり大人しく暮らそうと決意していたのだが……。 「君を愛することはない」と初日に宣言し、これまで無関心だった夫がとある出来事によって何故か積極的に迫って来て──? 優しい夫を騙していると心苦しくなりつつも、セルゲイに甘やかされて徐々に惹かれていくエヴェリが敵国で幸せになる話。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。