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欲と感情 マーカス視点
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ポートン侯爵令嬢の次の婚約者が男爵子息だと知って、事情を知らない者達は皆不思議に思った。
けれど、マーカスには第一王子ジュリアスやら、サリエル・ポートンが頻繁に話しかけたり、そばに居たりしていることから、彼は男爵家の者でも優秀な男なのだろう、と認められていた。
マーカス自体は何も変わっていないとは思うものの、周りはすっかり様変わりして目に見える景色も随分と変わった。
「何を考えているの?」
何より一番変わったことといえば、マーカスには到底手の届かない存在だった彼女が、側に居て、こちらに笑顔を向けていること。
「グレイス嬢のことですよ。」
グレイス嬢は前の婚約者との婚約がなくなってから随分と笑顔を見せるようになった。今頃彼女の美しさに気がついてももう遅い。マーカスは前婚約者とは違い、グレイスを決して離すことはない。
「そう言うことにしておいてあげる。」
二人が良い雰囲気だと、どこからかグレイスの兄やらジュリアスやらが邪魔をしてくる。それをグレイス嬢は独占欲という言葉で不満を現していたが、マーカスの気持ちは少し違う。
自分でも性格は悪いと思うのだけれど、自分の知らない彼女を彼らが知っているように、これから彼女の恋人に対する顔は自分しか見ることができないのだな、と言ったある種、優越感みたいなものが芽生えている。
それもこれも、ミリーのおかげだと思うと複雑な気持ちにもなる。だが、ミリーの婚約者に挨拶した際に感じたヒリヒリした殺意みたいなものは、いまだに覚えている。
あれは、ミリーに対する嫉妬なのか、それ以外にあるのか。それとも、自分から奪われたものが、全て此方にあると言う絶望からの行為なのかはわからない。
男爵家にグレイス嬢を連れて行った日は、周辺はお祭り騒ぎだった。
グレイス嬢は見るもの全てに驚きと、感嘆を繰り返していて微笑ましい。同時にあの日見た疲れた顔をこれからは彼女にさせないように気を配ろうと思った。
「結婚式の頃は、この辺り一面に紫色の小さな花が咲くんです。控えめな美しさの野草ですが、一面を埋め尽くす景色は壮大で、それだけを観に来る観光客もいるんですよ?」
お花に包まれたグレイス嬢は、大変美しいだろう。正しく花嫁の盛装に相応しい。
「本当に、男爵家に嫁いでくださるんですか。」
「ええ、勿論。私にその景色を見せてくださるのでしょう?」
幸せすぎて、これは夢かもしれないから、と何度となく繰り返した確認をグレイス嬢以外は「また、やってる」と呆れて見ている。
申し訳ないが、結婚式まで後何回かは繰り返すだろう。
「楽しみねぇ。」
グレイス嬢ののんびりした声が、辺りを平和な空気に変えていった。
終わり
読んでいただきありがとうございました。 mios
けれど、マーカスには第一王子ジュリアスやら、サリエル・ポートンが頻繁に話しかけたり、そばに居たりしていることから、彼は男爵家の者でも優秀な男なのだろう、と認められていた。
マーカス自体は何も変わっていないとは思うものの、周りはすっかり様変わりして目に見える景色も随分と変わった。
「何を考えているの?」
何より一番変わったことといえば、マーカスには到底手の届かない存在だった彼女が、側に居て、こちらに笑顔を向けていること。
「グレイス嬢のことですよ。」
グレイス嬢は前の婚約者との婚約がなくなってから随分と笑顔を見せるようになった。今頃彼女の美しさに気がついてももう遅い。マーカスは前婚約者とは違い、グレイスを決して離すことはない。
「そう言うことにしておいてあげる。」
二人が良い雰囲気だと、どこからかグレイスの兄やらジュリアスやらが邪魔をしてくる。それをグレイス嬢は独占欲という言葉で不満を現していたが、マーカスの気持ちは少し違う。
自分でも性格は悪いと思うのだけれど、自分の知らない彼女を彼らが知っているように、これから彼女の恋人に対する顔は自分しか見ることができないのだな、と言ったある種、優越感みたいなものが芽生えている。
それもこれも、ミリーのおかげだと思うと複雑な気持ちにもなる。だが、ミリーの婚約者に挨拶した際に感じたヒリヒリした殺意みたいなものは、いまだに覚えている。
あれは、ミリーに対する嫉妬なのか、それ以外にあるのか。それとも、自分から奪われたものが、全て此方にあると言う絶望からの行為なのかはわからない。
男爵家にグレイス嬢を連れて行った日は、周辺はお祭り騒ぎだった。
グレイス嬢は見るもの全てに驚きと、感嘆を繰り返していて微笑ましい。同時にあの日見た疲れた顔をこれからは彼女にさせないように気を配ろうと思った。
「結婚式の頃は、この辺り一面に紫色の小さな花が咲くんです。控えめな美しさの野草ですが、一面を埋め尽くす景色は壮大で、それだけを観に来る観光客もいるんですよ?」
お花に包まれたグレイス嬢は、大変美しいだろう。正しく花嫁の盛装に相応しい。
「本当に、男爵家に嫁いでくださるんですか。」
「ええ、勿論。私にその景色を見せてくださるのでしょう?」
幸せすぎて、これは夢かもしれないから、と何度となく繰り返した確認をグレイス嬢以外は「また、やってる」と呆れて見ている。
申し訳ないが、結婚式まで後何回かは繰り返すだろう。
「楽しみねぇ。」
グレイス嬢ののんびりした声が、辺りを平和な空気に変えていった。
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