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間違い探し マーカス視点

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ここに手紙が二通ある。筆跡は同じ。なのに、差出人は別の名が記されている。

宛先には、彼女が目の敵にしていた侯爵令嬢と、その侯爵令嬢が最近仲良くなった男爵令息の名が書かれている。

この手紙を書いた本人は、この二人に手紙のやり取りがあったことを知らなかった為に、このような工作に走ったのだった。

受け取ったマーカスは、幼馴染に言われた通りに、彼女に返事を書いた。

『貴女から受け取った手紙は、証拠として第一王子に提出することになりました。筆跡ぐらいは真似て書いてもよかったのではないですか?後、一部の文字が間違ってましたよ。』

「公爵令嬢に不敬だと訴えられても知らないわよ。」

「それなら、自白が取れるから、都合が良いじゃないか。」



第一王子の目論見としては、公爵令嬢の不貞のみが認められれば良いので、アクト公爵家がその後どう言う判断をしようと関係がない。

第一王子の婚約者を誑かしておいて責任を取らないとなれば、出世の見込みはなくなるだろうが。

ここで問題なのは、アクト公爵令息を巡り、公爵令嬢から侯爵令嬢に対する嫌がらせがあったか否かを立証する必要があったと言うことだ。


マーカスに送られて来た筆跡は、グレイスのそれとは似ても似つかない。個性的な字で書かれていた内容は、娼婦が客に書く営業用の手紙のように、まるで品のかけらも無いものだった。大方、悪意を持って邪推した結果、本人の性格が出てしまったのだろう。

こんな内容で喜ぶ男がいるのだろうか。いたとしたら、随分奇特な趣味をお持ちな人物だ。

「便箋を偽装する気もないのだから、随分と舐められていたようね。」

ミリーの言う通り、ロゼット公爵家で使われている便箋をポートン侯爵令嬢が使えると何故思ったのか。頭がいくら混乱していたとしても、あり得ない程度に彼女はやらかしていた。

これではどれだけ周りが彼女を庇っても、庇いきれなくなる程の失態だ。

マーカスは公爵令嬢から、手紙を受け取ったことを周りに告げていた。内容を見て怪訝な顔を浮かべ、近くにいた者に、これはどう言う意味か、とも聞いた。

彼らはその内容に顔を赤らめて、ロゼット公爵令嬢に関する様々な噂を教えてくれた。


ロゼット公爵令嬢は敵が多かった。グレイスだけではなく、立場の弱いと判断した令嬢をこれまでも虐めていたのだから。虐めはした方は忘れていてもされた方はずっと覚えている。

ロゼット公爵令嬢については、身分が盾になり我慢していた被害者がたくさんいた。彼女達は、未来永劫泣き寝入りをするつもりだったわけでは無い。虎視眈々と、復讐の機会を狙っていたにすぎない。

だから、誰からも祝福される婚姻はすでにこの時点で叶わなかったことなのだが、ロゼット公爵令嬢はそのことに思い至らなかった。





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