上 下
6 / 11

アリスの陥落 グレイス、ミリー、アリス視点

しおりを挟む
グレイスはミリーに付き纏わられ、マーカスに話に行ったあの日から自分の世界が変わったことに気付いていた。何より婚約者とその恋人の話を聞いても、特に何も思わなくなっていた。

と言うより、ケヴィンに対して、自分が婚約者で申し訳ない、と言う気持ちがなくなって、不誠実な彼に対して怒りまで湧いてきたのだ。

兄は、グレイスの心境の変化を喜んでくれた。何せ、ケヴィンに対して気持ちがないのだから、秘密の、と態々いわなくとも、恋人を作ってくれて構わない。寧ろドンドンしてください、と思うのに、何故か自分達が被害者みたいな顔をするから腹が立つ。

被害者は第一王子ジュリアス様と、グレイスの方でしょうが!

そう言ったことを、マーカスに聞いて貰う日がグレイスの一番楽しい日。ミリーには散々悩まされたけれど、彼に会わせてくれたことだけは、彼女に感謝していた。

アリスのご友人からの嫌がらせも、最近は少なくなってきていたある日、グレイスの元に、「ロゼット公爵令嬢が婚約破棄された」との知らせが届く。

驚いてはいたが、ロゼット公爵令嬢とアクト公爵令息の仲を知っている者達は皆納得していた。


こうなってしまえば、グレイスは今よりたくさんの人に、二人の恋を邪魔する者として攻撃を受けるだろう、と思っていたが、結果は違った。

皆がグレイスに同情的になったのだ。

「第一王子を裏切ってまで恋に生きた公爵令嬢」を、皆は奇異な目で見た。

彼女は「意に沿わない婚約を強いられるも健気に愛を貫こうとする令嬢」から、「我儘で男を振り回す女狐」に成り下がった。

対してグレイスの印象は、「恋人同士を邪魔する我儘な令嬢」から、「色狂いに巻き込まれた被害者」に変わった。


何故このような印象操作が起きているのか、それは少し前に遡る。





第一王子ジュリアスにつけられた友人達は、ミリーの望む働きをしてくれた。ロゼット公爵令嬢は、アクト公爵令息に対する思いを全く隠していなかったから、証拠集めは簡単だった。アクト公爵令息に至っては、あくまでも自分は不貞をしていないと思い込んでいた為に、こちらも証拠はやまほどあった。

またどちらの公爵家も叩けば、埃もたくさん出る。それらを洗って天日干しすれば、巣食っていたダニは死滅した。



そこからはジュリアスの仕事である。言い逃れできない悪事の数々と、令嬢の不貞を突きつけられ、ロゼット公爵は、婚約破棄を受け入れた。

アクト公爵も、息子ケヴィンの後始末に追われ、ポートン侯爵家に慰謝料をいかほど用意すれば良いか、考える羽目になった。

こうなってしまえば、アリスとケヴィンがその愛を貫くことは絶望的だ。案の定、アリスは泣き喚き、自分は罠に嵌められたのだと口にした。

ロゼット公爵は自身が娘を過大評価していたことを認めないわけにはいかなくなった。

「嵌められた方が問題だ。お前は能力がない、と白状したようなものだぞ。」

公爵は、娘を自宅謹慎にして、騒ぎの鎮静化を待つことにした。

アリスは部屋で一人、考えを巡らせていた。誰が自分を恨んでいるか、候補が多すぎる。アリスは身分と地位を利用して、気に入らないご令嬢を虐めていた時がある。どれも相手側の泣き寝入りで終わっているが、彼女達に復讐をされたのだろうか。

ジュリアスがいないのに、ケヴィンだけ手に入っても仕方がない。

あくまでも自分は選ばれた側で捨てられた挙句に押し付けられるようなそんな存在ではない。

最近彼女がイライラをぶつける相手に選んでいたのは、ケヴィンの婚約者であるグレイスだ。

ケヴィンに手紙を書くのはいけないけれど、彼女に書くのは禁止されていないわよね?謝罪をしたいと手紙を出したら良いんじゃないかしら。

「良いこと思いついちゃったわ。」

侍女に便箋を持って来させるとアリスは丁寧に二通手紙を書き終えた。

「これを至急、届けてくれない?」

金にがめつい侍女は、握らせたお金で言うことを聞いてくれた。

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【短編完結】記憶なしで婚約破棄、常識的にざまあです。だってそれまずいって

鏑木 うりこ
恋愛
お慕いしておりましたのにーーー  残った記憶は強烈な悲しみだけだったけれど、私が目を開けると婚約破棄の真っ最中?! 待って待って何にも分からない!目の前の人の顔も名前も、私の腕をつかみ上げている人のことも!  うわーーうわーーどうしたらいいんだ!  メンタルつよつよ女子がふわ~り、さっくりかる~い感じの婚約破棄でざまぁしてしまった。でもメンタルつよつよなので、ザクザク切り捨てて行きます!

拾った仔猫の中身は、私に嘘の婚約破棄を言い渡した王太子さまでした。面倒なので放置したいのですが、仔猫が気になるので救出作戦を実行します。

石河 翠
恋愛
婚約者に婚約破棄をつきつけられた公爵令嬢のマーシャ。おバカな王子の相手をせずに済むと喜んだ彼女は、家に帰る途中なんとも不細工な猫を拾う。 助けを求めてくる猫を見捨てられず、家に連れて帰ることに。まるで言葉がわかるかのように賢い猫の相手をしていると、なんと猫の中身はあの王太子だと判明する。猫と王子の入れ替わりにびっくりする主人公。 バカは傀儡にされるくらいでちょうどいいが、可愛い猫が周囲に無理難題を言われるなんてあんまりだという理由で救出作戦を実行することになるが……。 もふもふを愛するヒロインと、かまってもらえないせいでいじけ気味の面倒くさいヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACより pp7さまの作品をお借りしております。

“代わりに結婚しておいて”…と姉が手紙を残して家出しました。初夜もですか?!

みみぢあん
恋愛
ビオレータの姉は、子供の頃からソールズ伯爵クロードと婚約していた。 結婚直前に姉は、妹のビオレータに“結婚しておいて”と手紙を残して逃げ出した。 妹のビオレータは、家族と姉の婚約者クロードのために、姉が帰ってくるまでの身代わりとなることにした。 …初夜になっても姉は戻らず… ビオレータは姉の夫となったクロードを寝室で待つうちに……?!

いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!

夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。 しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。 ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。 愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。 いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。 一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ! 世界観はゆるいです! カクヨム様にも投稿しております。 ※10万文字を超えたので長編に変更しました。

婚約者を友人に奪われて~婚約破棄後の公爵令嬢~

tartan321
恋愛
成績優秀な公爵令嬢ソフィアは、婚約相手である王子のカリエスの面倒を見ていた。 ある日、級友であるリリーがソフィアの元を訪れて……。

【短編完結】地味眼鏡令嬢はとっても普通にざまぁする。

鏑木 うりこ
恋愛
 クリスティア・ノッカー!お前のようなブスは侯爵家に相応しくない!お前との婚約は破棄させてもらう!  茶色の長い髪をお下げに編んだ私、クリスティアは瓶底メガネをクイっと上げて了承致しました。  ええ、良いですよ。ただ、私の物は私の物。そこら辺はきちんとさせていただきますね?    (´・ω・`)普通……。 でも書いたから見てくれたらとても嬉しいです。次はもっと特徴だしたの書きたいです。

巻き戻される運命 ~私は王太子妃になり誰かに突き落とされ死んだ、そうしたら何故か三歳の子どもに戻っていた~

アキナヌカ
恋愛
私(わたくし)レティ・アマンド・アルメニアはこの国の第一王子と結婚した、でも彼は私のことを愛さずに仕事だけを押しつけた。そうして私は形だけの王太子妃になり、やがて側室の誰かにバルコニーから突き落とされて死んだ。でも、気がついたら私は三歳の子どもに戻っていた。

【完結】名ばかり婚約者だった王子様、実は私の事を愛していたらしい ~全て奪われ何もかも失って死に戻ってみたら~

Rohdea
恋愛
───私は名前も居場所も全てを奪われ失い、そして、死んだはず……なのに!? 公爵令嬢のドロレスは、両親から愛され幸せな生活を送っていた。 そんなドロレスのたった一つの不満は婚約者の王子様。 王家と家の約束で生まれた時から婚約が決定していたその王子、アレクサンドルは、 人前にも現れない、ドロレスと会わない、何もしてくれない名ばかり婚約者となっていた。 そんなある日、両親が事故で帰らぬ人となり、 父の弟、叔父一家が公爵家にやって来た事でドロレスの生活は一変し、最期は殺されてしまう。 ───しかし、死んだはずのドロレスが目を覚ますと、何故か殺される前の過去に戻っていた。 (残された時間は少ないけれど、今度は殺されたりなんかしない!) 過去に戻ったドロレスは、 両親が親しみを込めて呼んでくれていた愛称“ローラ”を名乗り、 未来を変えて今度は殺されたりしないよう生きていく事を決意する。 そして、そんなドロレス改め“ローラ”を助けてくれたのは、名ばかり婚約者だった王子アレクサンドル……!?

処理中です...