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幼馴染の初恋 マーカス視点
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幼少期は天真爛漫な彼女が可愛く見えた。子爵令嬢らしくないマナーの一欠片も育てられなかった残念な令嬢だけど、それも貴族令嬢らしくなくて、可愛いとさえ思っていた。
彼女が可愛く見えなくなったのは、学園に入ってからのこと。今まで田舎にいて、彼女しか身近に女性がいない時に感じた恋心は、本物の令嬢を前にして、綺麗さっぱり霧散した。
彼女達の綺麗な所作を見ていると、スマートにこなせない自分を田舎者に見えているのかと恥じたり、幼馴染を猿にしか思えなくなってくる。見た目のよい猿に惑わされていた自分を恥ずかしく思って、世間は広いのだと自身の認識を改めた。
見た目の良い猿、もとい幼馴染のミリー・シューダーも学園に入って初めての体験に戸惑っていた。野山でかけっこばかりしている幼馴染のマーカス・ライデンしか知らない自分にはその男性はとても同じ人間だとは思えず、彼を一目見ただけで、あっさりと恋に落ちた。
その彼とは、ケヴィン・アクト公爵令息で、彼にはれっきとした婚約者がいた。ただ、婚約者とは仲が悪く、彼には婚約者とは別に秘密の恋人がいるらしく、田舎の子爵令嬢の初恋相手には些かヘビーな相手と言わざるを得ない。
子爵家と公爵家と言う身分差もあるし、好きになったからと言って、遠くから眺める程度なら、許してもらえるかもしれない。そんな風に、幼馴染を評価していたマーカスは、自分がとんでもなく甘い考えをしていたことを思い知ることになっていった。
王都に屋敷を持たない下位貴族の子息子女は、学園に設けられた寮内で生活する。そこに高位貴族はいないのかと言われるとそうでもない。
家から馬車で移動するのが面倒な人や、親元から離れてはっちゃけたい人、その他様々な理由から、一定数の高位貴族は寮を利用する。
部屋は特別な理由がない限り、二人一部屋で、男女は勿論別。ただし、高位貴族、それも王族に近い血筋になると、防犯上の観点から特別室に一人部屋をあてがわれる場合もある。
マーカスの一つ上に第一王子ジュリアスが在籍しているが寮には入っていない。なら特別室は空なのかと言うと、何らかの理由で帰れない日に使うことがあるとして、押さえられているらしい。
マーカスに色々教えてくれるのは、同室になった侯爵令息だった。彼はポートン侯爵家次男のサリエルと名乗り、ただの男爵子息でしかないマーカスにも対等に接してくれた。
彼は二年生で、マーカスと同じ歳の妹がいるらしい。
彼の妹自慢を聞いていたら、会ったこともないのに妙な親近感が湧いてくる。
「妹は少し人見知りだけど、優しい子なんだ。君にこんなこと頼むのも悪いんだけど、妹が困っていたら、助けてやってくれないかな。」
自分に何ができるわけでもないが、頷いて了承の意を示すとサリエルは、笑顔になった。
「妹は、グレイス・ポートンと言う。顔は私に似ているから見ればわかるのではないかな。本来なら妹の婚約者に頼むのだが、アレは信用できないからな。」
グレイス嬢には婚約者がいる。なら、声をかけるのでなく、適切な距離で見守ろう。
マーカスはそんな風に考えていた。
彼女が可愛く見えなくなったのは、学園に入ってからのこと。今まで田舎にいて、彼女しか身近に女性がいない時に感じた恋心は、本物の令嬢を前にして、綺麗さっぱり霧散した。
彼女達の綺麗な所作を見ていると、スマートにこなせない自分を田舎者に見えているのかと恥じたり、幼馴染を猿にしか思えなくなってくる。見た目のよい猿に惑わされていた自分を恥ずかしく思って、世間は広いのだと自身の認識を改めた。
見た目の良い猿、もとい幼馴染のミリー・シューダーも学園に入って初めての体験に戸惑っていた。野山でかけっこばかりしている幼馴染のマーカス・ライデンしか知らない自分にはその男性はとても同じ人間だとは思えず、彼を一目見ただけで、あっさりと恋に落ちた。
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子爵家と公爵家と言う身分差もあるし、好きになったからと言って、遠くから眺める程度なら、許してもらえるかもしれない。そんな風に、幼馴染を評価していたマーカスは、自分がとんでもなく甘い考えをしていたことを思い知ることになっていった。
王都に屋敷を持たない下位貴族の子息子女は、学園に設けられた寮内で生活する。そこに高位貴族はいないのかと言われるとそうでもない。
家から馬車で移動するのが面倒な人や、親元から離れてはっちゃけたい人、その他様々な理由から、一定数の高位貴族は寮を利用する。
部屋は特別な理由がない限り、二人一部屋で、男女は勿論別。ただし、高位貴族、それも王族に近い血筋になると、防犯上の観点から特別室に一人部屋をあてがわれる場合もある。
マーカスの一つ上に第一王子ジュリアスが在籍しているが寮には入っていない。なら特別室は空なのかと言うと、何らかの理由で帰れない日に使うことがあるとして、押さえられているらしい。
マーカスに色々教えてくれるのは、同室になった侯爵令息だった。彼はポートン侯爵家次男のサリエルと名乗り、ただの男爵子息でしかないマーカスにも対等に接してくれた。
彼は二年生で、マーカスと同じ歳の妹がいるらしい。
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自分に何ができるわけでもないが、頷いて了承の意を示すとサリエルは、笑顔になった。
「妹は、グレイス・ポートンと言う。顔は私に似ているから見ればわかるのではないかな。本来なら妹の婚約者に頼むのだが、アレは信用できないからな。」
グレイス嬢には婚約者がいる。なら、声をかけるのでなく、適切な距離で見守ろう。
マーカスはそんな風に考えていた。
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