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スカーレットの行方
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ヘイワーズ公爵家から、娘の捜索願いが出されていることについて、リリアが知ったのは、偶々だ。ライモンドと話していた時にふと思い出したのがきっかけで、純粋な好奇心から調べてみたら、まさか本当に彼女の姿形が見えなくなっていたとは。
義姉であるキャロルの元にも、友人の元にも立ち寄ってはいない。彼女はよく言えば天真爛漫で、悪く言えば、深くは考えないご令嬢だから、何か予期せぬことがあったとしても、その場の雰囲気に流されてしまったとしても、誰も驚かない。
だが、一応、公爵令嬢だし、公爵の地位にいる者が居なくなってしまう危機感から大々的な捜索が続けられた。
だが、彼女に関する証言は中々集まらず、迷宮入りを危惧する声が出始めた頃、一人のご令嬢から目撃証言があがり、新たな波紋を呼ぶことになる。
「近隣の国から招かれざる客が迷い込んでいるみたいだ。」
国王陛下の密偵によると、ある国との境に小さな村ができていて、そこで何らかの取引が行われていると言う。
その一団にスカーレット・ヘイワーズによく似た娘がいると言う。
「他人の空似ではないのか?」
「目撃したご令嬢は、スカーレット様と旧知の仲であり……仲良くはなかったようですが、彼女の仕草にとても似ていると、違和感を感じたようです。
スカーレット様ご本人を知る者が確認しましたが、よく似ているとのことでした。ただ、平民の格好をされておりましたし、殿下の仰る通り、他人の空似の可能性も勿論ございます。」
「今は誰が付いている?」
「ライズ副団長がついております。本当にヘイワーズ家のご令嬢でしたら、大変ですので。」
「彼女がどうしてその一団に居るのかわかるものは?」
ジェイムズの問いかけに、恐る恐る手が上がる。
「すみません。信用できるかわからないのですが、証言者のご令嬢が、気になることを話してまして。ただ、証言のみで、その証拠は何一つありません。」
「何だ、申してみろ。」
「キャロル・ヘイワーズ様と、アレクセイ様のご結婚の際、スカーレット様は酷く落ち込んでいらしたそうで、最初は、仲の良い姉が嫁いでいく寂しさからだと思っていたのですか、どうやら、姉の婚約者であるアレクセイ様に懸想されていたそうです。
スカーレット様は周囲に王子様と結婚すると、告げていたそうです。それはてっきりあれだけ追い回していたアレクセイ様のことだと思っていたみたいですが、ある時、やっと見つけた、とスカーレット様が呟いていた、と。
何を見つけたのか、聞いたところ、私の愛する王子様よ、と得意気にそう答えられたそうです。
因みに、一団の中にはとても、王子らしい者はいないのですが、確かにどこかの王族が逃げ込んだらしいと噂されているようです。」
「噂だけが、先行しているのか。はたまた、本当に素性を隠した王族がいるのか。その村は、今どうしているんだ。」
「怪しいものを生成したり、はないようです。」
以前の事件から薬草の取り扱いには気をつけてはいるが、いつ、同じような事に襲われるかわからない。
少しでも違和感を覚えたら、しつこいと言われようと、罵られようと、思うがままに確認しようと思っていた。
「では何の取引がある。」
「それが……」
「何だ。はっきり言え。」
「まだ確証があるわけではありませんが、副団長曰く、人身売買のようです。」
「ご令嬢は組織に狙われたのか?」
「まだわかりませんが、その可能性は低いと言わざるを得ません。彼らに人身売買を唆したのは、スカーレット様ではないかと言う疑いまでありますので。」
「彼女は今どこにいるんだ。」
ジェイムズの質問の意味を理解した上で、部下達は大きく息を吐く。
「残念ながら、まだこちらの国にいます。」
「ではまだこちらの法で裁けるのだな。」
「彼女の言う王子についても引き続き調べてくれ。フリード。ライモンドを借りても?」
「どうぞどうぞ。気の済むまで、こき使ってください。」
ニッコリと笑うフリードはこう見る限り優しいお兄さんにしか見えない。
「ジェイムズ殿下、私からも宜しいですか。」
ジェイムズがフリードを見ると、目が笑っていないように見えて、少しだけ恐怖に包まれる。
「私からもその件で少しだけ。ある証言が寄せられまして。スカーレット・ヘイワーズこそが、人身売買された可能性がある、と言うものです。ヘイワーズ公爵家としては、孤児になった子供を引き取ったとされていますが、それがそもそも間違いでは?と。
そして、そのスカーレット様が仰る王子というのも、また商品となる王子である、と。王子の出身国まではまだわかりませんが、やり方を間違うと、再起は叶わなくなるでしょうね。」
帝国の人間はそもそも信用してはならない、
それは今でも変わらない。
ただあのフリードの笑顔を見てしまうと、恐ろしいが裏を取る必要に駆られてしまう。今頃リリアとのんびりしているだろうライモンドには悪いが、彼以上に頼れる男はいないのが現状だ。
ヘイワーズ公爵家から出された養子縁組の資料には詳しくは書かれていなかったが、一度疑ってしまった物は、元には戻らず、最後の公爵家との争いを始める準備をジェイムズは黙々と始めざるを得なかった。
義姉であるキャロルの元にも、友人の元にも立ち寄ってはいない。彼女はよく言えば天真爛漫で、悪く言えば、深くは考えないご令嬢だから、何か予期せぬことがあったとしても、その場の雰囲気に流されてしまったとしても、誰も驚かない。
だが、一応、公爵令嬢だし、公爵の地位にいる者が居なくなってしまう危機感から大々的な捜索が続けられた。
だが、彼女に関する証言は中々集まらず、迷宮入りを危惧する声が出始めた頃、一人のご令嬢から目撃証言があがり、新たな波紋を呼ぶことになる。
「近隣の国から招かれざる客が迷い込んでいるみたいだ。」
国王陛下の密偵によると、ある国との境に小さな村ができていて、そこで何らかの取引が行われていると言う。
その一団にスカーレット・ヘイワーズによく似た娘がいると言う。
「他人の空似ではないのか?」
「目撃したご令嬢は、スカーレット様と旧知の仲であり……仲良くはなかったようですが、彼女の仕草にとても似ていると、違和感を感じたようです。
スカーレット様ご本人を知る者が確認しましたが、よく似ているとのことでした。ただ、平民の格好をされておりましたし、殿下の仰る通り、他人の空似の可能性も勿論ございます。」
「今は誰が付いている?」
「ライズ副団長がついております。本当にヘイワーズ家のご令嬢でしたら、大変ですので。」
「彼女がどうしてその一団に居るのかわかるものは?」
ジェイムズの問いかけに、恐る恐る手が上がる。
「すみません。信用できるかわからないのですが、証言者のご令嬢が、気になることを話してまして。ただ、証言のみで、その証拠は何一つありません。」
「何だ、申してみろ。」
「キャロル・ヘイワーズ様と、アレクセイ様のご結婚の際、スカーレット様は酷く落ち込んでいらしたそうで、最初は、仲の良い姉が嫁いでいく寂しさからだと思っていたのですか、どうやら、姉の婚約者であるアレクセイ様に懸想されていたそうです。
スカーレット様は周囲に王子様と結婚すると、告げていたそうです。それはてっきりあれだけ追い回していたアレクセイ様のことだと思っていたみたいですが、ある時、やっと見つけた、とスカーレット様が呟いていた、と。
何を見つけたのか、聞いたところ、私の愛する王子様よ、と得意気にそう答えられたそうです。
因みに、一団の中にはとても、王子らしい者はいないのですが、確かにどこかの王族が逃げ込んだらしいと噂されているようです。」
「噂だけが、先行しているのか。はたまた、本当に素性を隠した王族がいるのか。その村は、今どうしているんだ。」
「怪しいものを生成したり、はないようです。」
以前の事件から薬草の取り扱いには気をつけてはいるが、いつ、同じような事に襲われるかわからない。
少しでも違和感を覚えたら、しつこいと言われようと、罵られようと、思うがままに確認しようと思っていた。
「では何の取引がある。」
「それが……」
「何だ。はっきり言え。」
「まだ確証があるわけではありませんが、副団長曰く、人身売買のようです。」
「ご令嬢は組織に狙われたのか?」
「まだわかりませんが、その可能性は低いと言わざるを得ません。彼らに人身売買を唆したのは、スカーレット様ではないかと言う疑いまでありますので。」
「彼女は今どこにいるんだ。」
ジェイムズの質問の意味を理解した上で、部下達は大きく息を吐く。
「残念ながら、まだこちらの国にいます。」
「ではまだこちらの法で裁けるのだな。」
「彼女の言う王子についても引き続き調べてくれ。フリード。ライモンドを借りても?」
「どうぞどうぞ。気の済むまで、こき使ってください。」
ニッコリと笑うフリードはこう見る限り優しいお兄さんにしか見えない。
「ジェイムズ殿下、私からも宜しいですか。」
ジェイムズがフリードを見ると、目が笑っていないように見えて、少しだけ恐怖に包まれる。
「私からもその件で少しだけ。ある証言が寄せられまして。スカーレット・ヘイワーズこそが、人身売買された可能性がある、と言うものです。ヘイワーズ公爵家としては、孤児になった子供を引き取ったとされていますが、それがそもそも間違いでは?と。
そして、そのスカーレット様が仰る王子というのも、また商品となる王子である、と。王子の出身国まではまだわかりませんが、やり方を間違うと、再起は叶わなくなるでしょうね。」
帝国の人間はそもそも信用してはならない、
それは今でも変わらない。
ただあのフリードの笑顔を見てしまうと、恐ろしいが裏を取る必要に駆られてしまう。今頃リリアとのんびりしているだろうライモンドには悪いが、彼以上に頼れる男はいないのが現状だ。
ヘイワーズ公爵家から出された養子縁組の資料には詳しくは書かれていなかったが、一度疑ってしまった物は、元には戻らず、最後の公爵家との争いを始める準備をジェイムズは黙々と始めざるを得なかった。
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