公爵令嬢は被害者です

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帝国①第二皇子

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第一皇子の朝は早い。いつ寝ているのか、はたまた寝ていないのか。常人離れした存在であると言われる皇太子と、スペアである第二皇子。昔から同じ教育を受けながら育った分身のような存在。帝国の皇子にはある特殊な決まりがある。

皇帝の血を受け継ぐものは、金髪と、深い緑色の瞳を持つ、とされている。歴代の第一皇子、第二皇子にはそれが色濃くでるのだが、第三皇子からは、瞳の色が変わったり、髪の色が違ったりする。

第三皇子以降の皇子で、その特徴を持つ者は、第一皇子を超える逸材になる可能性があると信じられており、その場合、命は助かる。第一皇子のスペアとなるが、影を纏める存在になるか。もしくは皇太子になるか。

ライモンドは第十三皇子という、比較的低い順位で生まれたが、皇帝の血を色濃く受け継いでいた。だから、彼の教育が終わった時に、それまで影を統括していた第八皇子を処理した。今後はライモンドを中心に、裏方の仕事はお願いするつもりだった。

ところが、ライモンドが恋をしたと報告があった。帝国の影ともなれば、恋なんて呑気なことをしてられないのに。

それに比べて、ただスペアでい続ける立場の自分は、生きてさえいれば、何をしていても良いらしい。

なら、愛する弟のために、立場を変わってやろうと思いたった。だが、ここで、自分の体質が思わぬ壁として立ちはだかることになった。私はここだけの話、死ねない存在だ。人間の寿命として、勿論体は朽ち果てるのだが、魂が何度死んでもここに帰ってきてしまう。

実際、私は前の世代も第二皇子だった。今の皇帝のスペアは、第三皇子だが、彼に比べて、前世の私には運がなかった。

あっという間に殺されてしまった。そして、悲しむ間もなく、私は兄の息子に転生した。奇しくも私はまた第二皇子だった。兄上もとい、父上は、私を可愛がりつつも気味悪がっていた。何せ、自分の弟しか知り得ないことを生まれたばかりの自分の息子が知っているのだから。

そういえば、ライが生まれた時、父上は、ライの元に行かなかった。ライに皇帝の血が反映されているようだと報告があがった後も、様子を一度でも見に行った形跡はなかった。

どちらにしても、ライは長く生きられない、と思ったのだろうか。

私はライを初めて見た時に強い何かを感じたのだった。その正体が何かはまだわからないが、私の命ある限り、ライを守るつもりで、ライの恋の相手に会う決意をした。

リリア・アーレンは、見る目があるご令嬢だ。うちのライモンドが一番だと言ってくれ、私に見向きもしなかった。私は嬉しくなって、ついしゃべり過ぎてしまった。ライフィーの話なんて知らなくても良いことを、ペラペラと。

ライフィーは、少しの間使っていた私の偽名だ。第二皇子は、何をしてもいいから生き延びなければならない。行ったことのない国へ行き、全力で楽しむ。旅行のようなことをしていた時の偽名だ。

竜使いというのは、勿論竜ではないし、兵器や武器でもない。それでも、竜使いが何かを自分で解こうとしている姿は胸を打つ。

戦争など縁遠そうな、あの国にあって、答えは見つかるかは謎だ。今世でまた死ねなくて、生まれ変わるなら、ライとリリアの子になりたいが、ライに嫌がられたら哀しい。

ライモンドに決闘を申し込んだのは、ライにこのスペアの地位を引き継いで貰うためだが、兄上は気づいているかな。

帝国に帰りながら、少し心配になってくる。レオにとって、皇太子の兄も、前世の兄も大切で、見捨てられたくはない相手だ。

特に父上からは、呆れられそうな気がしてならない。


帝国に徐々に近づいてくると、緊急のランプがついたり消えたりした。兄上がお呼びだ。着替える間もなく、部屋に向かうと、思ってた通り、無表情ながら、呆れた様子で、兄上が大きな声を出した。

「あのなー、物事には順序があるだろ。何で待てないんだ。」

私の言い訳を聞いた兄上は、頭をぐしゃぐしゃにしながら、あー、もう、と嘆いている。

ライモンドさえ勘違いしているが、素の兄上は面倒見のいい苦労性な男である。

私がしたいこと、やらかしたことを確認しては、サポートをするのが誰より的確で、怪我が少ない。

「兄上に任せたら大丈夫。そのスタンスはかわらないのだが、ライモンドの幸せには少しだけ絡みたくて、勝手を、してしまった。すまない。」

ふと兄上が、私に笑いかける。

「叔父様は私が頼りないとお思いか。私は愛するレオとライに恥じない皇帝になるつもりですよ?」

兄上に、叔父様と言われて、驚いた。

「私が気づかないとでも、お思いでしたか。レオン叔父様は。」

同じような名前をつけられたのですから、きっと父上にはバレていますよ。と言われて、驚いたのも束の間。

自分の能力なんて、たかがこれくらいなんだ。これで、更にライモンドに立場を譲る気持ちが固まった。

決闘をしたこともなく、剣術で勝った試しのない、貧弱な私が今世のライモンドに勝つのは無理だろう。これで、肉体と共に朽ち果てられたら、幸せだったのだが。
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