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宝物①
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好きな人には婚約者がいた。普通ならここで諦める。でもその相手が、不幸になりそうな相手なら?大切な人を蔑ろにした挙句、傷つけて、反省もしない下衆なら?
ライモンドはこの国に初めて来た時、リリアに恋をした。だが、その時すでに、彼女にはクレイグ第一王子という婚約者がいた。
それはライモンドにとっては吉だった。いくら愚かな王子であったとしても、王子の婚約者に手を出すような者はいないだろうと思ったからだ。ありがたいことに、リリアにもクレイグにもお互いに愛情などない様だったし、いつかうまく行かなくなる。それまでに自分の側の準備を整えて迎えに行けば良いと。
小さな国で、行われる悪事は耳に入ってくるまでに思ったより時間がかかった。上手く隠されていたらしい。
この国をいらない、と言ったのは、私が欲しいものは、他にあるからだ。
帝国には十五人の皇子がいる。表向きには、全員に皇位継承権がある。あくまでも、表向きには。実際には皇妃から生まれた第二までの皇子にしか、皇帝の位は継がれない。
理由は、側妃の生んだ皇子の大半が殺されるからだ。死ぬまでの時間はそれぞれ違う。ある者は暗殺され、ある者は病で、ある者は事故で、そして残った者がいたとしても、彼らは、次代の皇帝を補佐する役目を仰せつかる。
断ることは即ち死だ。生きるためには、その役目を負わなければならない。
第十三皇子に生まれて、第一皇子のために、働いていることを後悔したことはない。寧ろ、私が育つまでその任を負っていた第八皇子に対して、憎しみまで感じたぐらい、この仕事に誇りを持っている。自分でも、一途に兄を慕いすぎていると思うこともある。彼らを慕うことで、この任務が楽になることなどないと言うのに。
自分は、一度欲しいと思ったものを諦めることができない。おかしいとは思うがそういう性質だ。どれだけ時間がかかろうと、必ず手に入れる。
ただ、私が欲しいと思ったものを、横から掻っ攫おうなんて無粋な真似は許さない。そんな不埒者には、罰を与えなければならない。
私は兄とリリア以外はどうでも良い。実の姉ヴィオラは、その中に入っていないのは、申し訳ないが。
「ジェイムズが、見つけたそうだよ。」
フリードから声がかかる。
「流石、早いな。」
「一応、目星をつけていたからね。やっぱりパーニー子爵家の所有する土地にあったそうだ。大量にね。」
「隠すのが上手かったのは、パーニー家ではないのだろう。」
「とりあえず間に合ってよかった。明日には詳細をまとめておくよ。」
「ありがとう。助かった。」
リリアは賢い女性だ。こちらが気がつくより先に色々なことを知っている。細やかな心配りが、それを可能にしている。彼女は女性しかわからない着眼点で物事を見て、判断する。彼女なら、男の嘘など、一瞬で見抜いてしまう。王妃教育を受けていただけのことはある。おそらく今の王妃より有能であることは間違いない。
有能だからこそ、守りたいと思う。本来なら知らなくて良いことすら知ってしまうのだから。まさに今がそれだ。
リリアを害するものを、リリアの目の届かないところで処分するのは、簡単だ。でも、彼女はそれを嫌がるだろうことは想像に難くない。
彼女はただ守られることを良しとしない。ただ囲われることを、享受しない。自分の居場所は自分で確保したい女性だ。
私が取るべき行動は、彼女に必死に食らいついていくことだ。リリアは、ある意味兄上に似ている。だから、より、惹かれるのだろうか。
三日後に、リリアは、前回話せなかった二人の人物を公爵家に招待している。
アーレン公爵家にいる限り、リリアの命の心配はない。一つ、懸念があるとすれば、それはダグラス卿が暴れすぎないかと言うことだけだ。
彼は頭は悪くないのだが、脳筋で、リリアのことになると見境がなくなる。
彼は一体どう言う立ち位置なんだ。父にしては若すぎるし、兄にしては些か歳を取りすぎている。リリアだけに尻尾を振る駄犬にみえるが、下手なことは言えまい。剣だけの腕なら比べる必要もないほど、彼が上だ。
彼はいつのまにかアーレン公爵家に出入りしていた私にも、兄のように、時には父のように、接してくれた。二人で腹を割って話したこともないと言うのに。他の人なら感じる下心も、彼にはない。
彼みたいな裏表のないタイプは苦手で、気持ち悪い。何を考えているかさっぱり判断がつかない。
それでも、これだけは自信を持って言える。彼も私同様、リリアを害する者は許さないだろう。そして、私と違い、その元凶を倒すだけの力を持っていると言うことだ。
今この国に、本気のダグラス卿を前に死を覚悟しない者がいたなら、それこそ、新国王に命じてやってもいいかもしれない。
因みに私は無理だ。最初から負けるとわかっている勝負はしない。
だから、考える。本気のダグラス卿と剣を交えず、和解する方法を。……いや、多分無理だな。
それこそ、それが可能なのは、アーレン公爵かリリアしかいない。
ライモンドはこの国に初めて来た時、リリアに恋をした。だが、その時すでに、彼女にはクレイグ第一王子という婚約者がいた。
それはライモンドにとっては吉だった。いくら愚かな王子であったとしても、王子の婚約者に手を出すような者はいないだろうと思ったからだ。ありがたいことに、リリアにもクレイグにもお互いに愛情などない様だったし、いつかうまく行かなくなる。それまでに自分の側の準備を整えて迎えに行けば良いと。
小さな国で、行われる悪事は耳に入ってくるまでに思ったより時間がかかった。上手く隠されていたらしい。
この国をいらない、と言ったのは、私が欲しいものは、他にあるからだ。
帝国には十五人の皇子がいる。表向きには、全員に皇位継承権がある。あくまでも、表向きには。実際には皇妃から生まれた第二までの皇子にしか、皇帝の位は継がれない。
理由は、側妃の生んだ皇子の大半が殺されるからだ。死ぬまでの時間はそれぞれ違う。ある者は暗殺され、ある者は病で、ある者は事故で、そして残った者がいたとしても、彼らは、次代の皇帝を補佐する役目を仰せつかる。
断ることは即ち死だ。生きるためには、その役目を負わなければならない。
第十三皇子に生まれて、第一皇子のために、働いていることを後悔したことはない。寧ろ、私が育つまでその任を負っていた第八皇子に対して、憎しみまで感じたぐらい、この仕事に誇りを持っている。自分でも、一途に兄を慕いすぎていると思うこともある。彼らを慕うことで、この任務が楽になることなどないと言うのに。
自分は、一度欲しいと思ったものを諦めることができない。おかしいとは思うがそういう性質だ。どれだけ時間がかかろうと、必ず手に入れる。
ただ、私が欲しいと思ったものを、横から掻っ攫おうなんて無粋な真似は許さない。そんな不埒者には、罰を与えなければならない。
私は兄とリリア以外はどうでも良い。実の姉ヴィオラは、その中に入っていないのは、申し訳ないが。
「ジェイムズが、見つけたそうだよ。」
フリードから声がかかる。
「流石、早いな。」
「一応、目星をつけていたからね。やっぱりパーニー子爵家の所有する土地にあったそうだ。大量にね。」
「隠すのが上手かったのは、パーニー家ではないのだろう。」
「とりあえず間に合ってよかった。明日には詳細をまとめておくよ。」
「ありがとう。助かった。」
リリアは賢い女性だ。こちらが気がつくより先に色々なことを知っている。細やかな心配りが、それを可能にしている。彼女は女性しかわからない着眼点で物事を見て、判断する。彼女なら、男の嘘など、一瞬で見抜いてしまう。王妃教育を受けていただけのことはある。おそらく今の王妃より有能であることは間違いない。
有能だからこそ、守りたいと思う。本来なら知らなくて良いことすら知ってしまうのだから。まさに今がそれだ。
リリアを害するものを、リリアの目の届かないところで処分するのは、簡単だ。でも、彼女はそれを嫌がるだろうことは想像に難くない。
彼女はただ守られることを良しとしない。ただ囲われることを、享受しない。自分の居場所は自分で確保したい女性だ。
私が取るべき行動は、彼女に必死に食らいついていくことだ。リリアは、ある意味兄上に似ている。だから、より、惹かれるのだろうか。
三日後に、リリアは、前回話せなかった二人の人物を公爵家に招待している。
アーレン公爵家にいる限り、リリアの命の心配はない。一つ、懸念があるとすれば、それはダグラス卿が暴れすぎないかと言うことだけだ。
彼は頭は悪くないのだが、脳筋で、リリアのことになると見境がなくなる。
彼は一体どう言う立ち位置なんだ。父にしては若すぎるし、兄にしては些か歳を取りすぎている。リリアだけに尻尾を振る駄犬にみえるが、下手なことは言えまい。剣だけの腕なら比べる必要もないほど、彼が上だ。
彼はいつのまにかアーレン公爵家に出入りしていた私にも、兄のように、時には父のように、接してくれた。二人で腹を割って話したこともないと言うのに。他の人なら感じる下心も、彼にはない。
彼みたいな裏表のないタイプは苦手で、気持ち悪い。何を考えているかさっぱり判断がつかない。
それでも、これだけは自信を持って言える。彼も私同様、リリアを害する者は許さないだろう。そして、私と違い、その元凶を倒すだけの力を持っていると言うことだ。
今この国に、本気のダグラス卿を前に死を覚悟しない者がいたなら、それこそ、新国王に命じてやってもいいかもしれない。
因みに私は無理だ。最初から負けるとわかっている勝負はしない。
だから、考える。本気のダグラス卿と剣を交えず、和解する方法を。……いや、多分無理だな。
それこそ、それが可能なのは、アーレン公爵かリリアしかいない。
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