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六人目の証言 若い騎士 ジャン
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「王妃様の君への信頼は、素晴らしいね。」
しばらく来ないうちに大層面白いことになっている。
「いえ、私が出来ることをしているだけですので。」
ダグラス卿と同じくただの脳筋だと思っていたが、案外使えるのではないか、と考えを改める。王妃の目に、自分が胡散臭げに見えるのも、信頼されていないのも、わかっているだけに、王妃本人に近づくより、周りから攻めていこうとしただけだが。
今日の面会時に感じたのは、いつもとは違い、いや、違わないか。寧ろ顕著に見えた諦めの視線だ。
王妃は歳を取り、自分を見なくなった陛下と自分を、同様の人間だと思っているらしい。それに比べて、このジャンと言う男は王妃様自身を見る。王妃の思惑とジャンの考えは、一致することはない。それでも、それだからこそ王妃は彼を重宝するだろう。
「王妃様のお許しがあったから君に色々聞きたいのだけれど。」
「……その前に、お聞かせいただきたいことがあります。」
「何かな。」
「貴方は、姫の味方だと聞きましたが、本当ですか。」
「姫と言うのは、リリア・アーレン公爵令嬢のことでいいかな。まあ、そうだね。彼女は可愛がっている女の子だよ。そんな私がこの件を調査するなんて、公平性が失われるかい?」
「あ、いえ。そうではなく。あの……誤解させてしまったら申し訳ないのですが、あの、私もそうでして。王妃様含め、姫の味方をして下さる人が居ないのに、このままでは有耶無耶になるのではないか、と。」
「なるほど。危惧してくれたんだね。大丈夫。今は私は姫の味方だよ。」
私の言い方に怪訝な顔になる。
「今は、と言うことは、近い将来変わるかも知れないと?」
「いや、言い方が悪かったね。少なくとも、あのクレイグというガキは、許す気はないよ。私の大切なリリアを虐めた奴、全員諸共葬ってやるつもりだよ。ただ、私にも立場があるからさ。それでも、彼女を救う為なら、私の命ぐらいは、捧げてあげられるぐらいには味方だよ。」
私の命、という言葉に反応して、納得したのがわかる。騙したわけでもないのだが、今の私の命に大した価値はない。リリアに私の命を捧げる、という状況になった時には、私の命に、今以上の価値がないと、その意味すらなさないことはわかっているだろうか。
「いえ、話の腰を折ってしまい、申し訳ありませんでした。」
「そういえば、君は虐げられているリリアを見たことがあるんだってね。詳しく教えてくれる?」
「はい。何でも話します。」
彼の話には、こちらの把握している以上の出来事はなかった。彼にわざわざ話を聞いたのは、答え合わせと彼の立場をはっきりさせるためだ。彼やダグラス卿は、その実力や、本人の資質からも敵にはしたくない。
はからずも、王妃の弱点にもなる男だ。しかも、本人には二心がない、ときている。彼を味方にして、損はない。とは言え、相反する立場になった時は、最初に消さざるを得ない。理由は簡単だ。そんなことになれば、彼は真っ先に私を殺しにくるだろう。私が一番弱いことを知っているから。
ジャンの話には、真新しいことはないと思っていたのだが、意外にも彼はそうとは知らず、とんだ醜聞の目撃者になっていたらしい。
「ちょっと待って、今何と?」
「え?ヘイワーズ家の妹様が……」
「妹の方だね?第二王子の婚約者である姉のキャロル様ではなくて、妹の、スカーレット様だったか。」
「ええ、スカーレット・ヘイワーズの方です。将来的には、アレクセイ様の義妹になる方ですが、それにしてはお二人の距離が多少気になりまして。」
こと恋愛に興味の薄いヘイワーズ家の中で、唯一恋多きご令嬢として名を馳せるスカーレット・ヘイワーズ。彼女は決して勉強ができないわけではないのだが、親から甘やかされたというよりは無関心を突きつけられ、放置されていて、その反動からか突飛なことをやらかす人になっていた。
彼女の醜聞は、公爵家の力でねじ伏せていたのだろうが、まさか姉の婚約者を誑かしているなんて。
第二王子アレクセイは、下位貴族との浮気はないと断言したが、だからといって性根は変わらない。相手が高位貴族のご令嬢だと言うことで、あまりに無体なことはできないが、最低限同意さえあれば、良いのだろう。
「少し話は変わるが、アレクセイ殿下は、リリアとは何かあったのだろうか。」
「何か、とは?」
「いや、あるご令嬢が、リリアの婚約者を第二王子の方だと誤解していたんだよ。第一王子の態度が悪いのもあるけれど、そんなに仲の良い二人にも見えなくて。」
ジャンは少し考えた素振りを見せた後、ああ、と思い出したようで、話を続けた。
「そう言われてみると、リリア嬢を慰めているアレクセイ様と、キャロル様を見たことがありました。」
「ん?そこにキャロル・ヘイワーズもいたのか?」
「ええ。キャロル様とアレクセイ様がご一緒の時は、必ずリリア様もご一緒で。反対にスカーレット様とアレクセイ様がご一緒の時は、お二人だけで、お話をしていました。
未婚の男女が、二人きりと言うのは、と何度も注意を受けていたようですが、お聞きにならず。ただ、リリア様をお誘いする時には、そう仰って、同席をお願いしていたようです。」
しばらく来ないうちに大層面白いことになっている。
「いえ、私が出来ることをしているだけですので。」
ダグラス卿と同じくただの脳筋だと思っていたが、案外使えるのではないか、と考えを改める。王妃の目に、自分が胡散臭げに見えるのも、信頼されていないのも、わかっているだけに、王妃本人に近づくより、周りから攻めていこうとしただけだが。
今日の面会時に感じたのは、いつもとは違い、いや、違わないか。寧ろ顕著に見えた諦めの視線だ。
王妃は歳を取り、自分を見なくなった陛下と自分を、同様の人間だと思っているらしい。それに比べて、このジャンと言う男は王妃様自身を見る。王妃の思惑とジャンの考えは、一致することはない。それでも、それだからこそ王妃は彼を重宝するだろう。
「王妃様のお許しがあったから君に色々聞きたいのだけれど。」
「……その前に、お聞かせいただきたいことがあります。」
「何かな。」
「貴方は、姫の味方だと聞きましたが、本当ですか。」
「姫と言うのは、リリア・アーレン公爵令嬢のことでいいかな。まあ、そうだね。彼女は可愛がっている女の子だよ。そんな私がこの件を調査するなんて、公平性が失われるかい?」
「あ、いえ。そうではなく。あの……誤解させてしまったら申し訳ないのですが、あの、私もそうでして。王妃様含め、姫の味方をして下さる人が居ないのに、このままでは有耶無耶になるのではないか、と。」
「なるほど。危惧してくれたんだね。大丈夫。今は私は姫の味方だよ。」
私の言い方に怪訝な顔になる。
「今は、と言うことは、近い将来変わるかも知れないと?」
「いや、言い方が悪かったね。少なくとも、あのクレイグというガキは、許す気はないよ。私の大切なリリアを虐めた奴、全員諸共葬ってやるつもりだよ。ただ、私にも立場があるからさ。それでも、彼女を救う為なら、私の命ぐらいは、捧げてあげられるぐらいには味方だよ。」
私の命、という言葉に反応して、納得したのがわかる。騙したわけでもないのだが、今の私の命に大した価値はない。リリアに私の命を捧げる、という状況になった時には、私の命に、今以上の価値がないと、その意味すらなさないことはわかっているだろうか。
「いえ、話の腰を折ってしまい、申し訳ありませんでした。」
「そういえば、君は虐げられているリリアを見たことがあるんだってね。詳しく教えてくれる?」
「はい。何でも話します。」
彼の話には、こちらの把握している以上の出来事はなかった。彼にわざわざ話を聞いたのは、答え合わせと彼の立場をはっきりさせるためだ。彼やダグラス卿は、その実力や、本人の資質からも敵にはしたくない。
はからずも、王妃の弱点にもなる男だ。しかも、本人には二心がない、ときている。彼を味方にして、損はない。とは言え、相反する立場になった時は、最初に消さざるを得ない。理由は簡単だ。そんなことになれば、彼は真っ先に私を殺しにくるだろう。私が一番弱いことを知っているから。
ジャンの話には、真新しいことはないと思っていたのだが、意外にも彼はそうとは知らず、とんだ醜聞の目撃者になっていたらしい。
「ちょっと待って、今何と?」
「え?ヘイワーズ家の妹様が……」
「妹の方だね?第二王子の婚約者である姉のキャロル様ではなくて、妹の、スカーレット様だったか。」
「ええ、スカーレット・ヘイワーズの方です。将来的には、アレクセイ様の義妹になる方ですが、それにしてはお二人の距離が多少気になりまして。」
こと恋愛に興味の薄いヘイワーズ家の中で、唯一恋多きご令嬢として名を馳せるスカーレット・ヘイワーズ。彼女は決して勉強ができないわけではないのだが、親から甘やかされたというよりは無関心を突きつけられ、放置されていて、その反動からか突飛なことをやらかす人になっていた。
彼女の醜聞は、公爵家の力でねじ伏せていたのだろうが、まさか姉の婚約者を誑かしているなんて。
第二王子アレクセイは、下位貴族との浮気はないと断言したが、だからといって性根は変わらない。相手が高位貴族のご令嬢だと言うことで、あまりに無体なことはできないが、最低限同意さえあれば、良いのだろう。
「少し話は変わるが、アレクセイ殿下は、リリアとは何かあったのだろうか。」
「何か、とは?」
「いや、あるご令嬢が、リリアの婚約者を第二王子の方だと誤解していたんだよ。第一王子の態度が悪いのもあるけれど、そんなに仲の良い二人にも見えなくて。」
ジャンは少し考えた素振りを見せた後、ああ、と思い出したようで、話を続けた。
「そう言われてみると、リリア嬢を慰めているアレクセイ様と、キャロル様を見たことがありました。」
「ん?そこにキャロル・ヘイワーズもいたのか?」
「ええ。キャロル様とアレクセイ様がご一緒の時は、必ずリリア様もご一緒で。反対にスカーレット様とアレクセイ様がご一緒の時は、お二人だけで、お話をしていました。
未婚の男女が、二人きりと言うのは、と何度も注意を受けていたようですが、お聞きにならず。ただ、リリア様をお誘いする時には、そう仰って、同席をお願いしていたようです。」
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