婚約者がすぐにママになろうとしてくる

サミュエル 13歳 ローラ 18歳

スタート

小さい頃、庭師のおじいさんに話をするのが好きだった。お花も虫も、草も土も、おじいさんのゴツゴツの手も、全て憧れた。中庭は、お茶をしたり人の出入りはまあまああっても、幼い頃に姿を隠してくれた大きな草木のところには、人は入ってこない。

流石にあれから六年も経つと、しゃがみこんでも完全に隠れることはできなくなった。背は小さいままと思っているけれど、少しずつ人並みには成長しているらしい。

最近ローラの周りが結婚ラッシュだと、聞いた。貴族令嬢で幼い頃から婚約していた者は、互いが成人を迎えたらすぐに結婚する。私の場合は、私が成人するまで、ローラには待って貰わなくてはならない。私が十八歳で、ローラが二十三歳。仕方ないこととはいえ、二十三歳と言う年齢は貴族令嬢としては行き遅れと言われる。ローラに対してそんな言葉をかける者がいたら、そいつを私は許せないだろうが、きっとローラは美しいだろう。

ウェディングドレスを着る美しいローラと、並んだ時にやっぱり今の彼女より頭一つ、いや、二つ？分は高くなっていたい。今彼女とダンスしようとすると、少し恥ずかしいことになるから、中々思春期の男子には難しい。

また踊り終わったら、ローラは毎回私を抱きしめようとするからタチが悪い。

ローラは、所謂出るところは出て、締まるところは締まっている人なので、ギュッとされた時に目線とか、辛いんだ。わかってほしくてお願いするも、彼女はちっともわかってくれない。

彼女は察しがいいくせに、たまに鈍感すぎるところがあって、そこもまた私を虜にさせる部分なんだが、私が成人になるまでに、愛想を尽かされたらどうしよう。

聞くところによると、ローラが学園に通っていた頃にも、真実の愛とやらが流行って、熱に浮かされた人が、婚約者を捨てると言う事件があったようだ。ああ、その場にいなくてよかった。ローラに嫌われたら私はもう生きていけない。これは大袈裟ではなく、本気だ。

だってローラのいない人生なんて、きっとつまらない。

彼女の存在が、私に生きる意味を与えてくれているのに。私が、ローラの真実の愛になれる可能性ってどのくらいかな？

低いかな。とりあえず婚約者が真実の愛の相手になることもあるらしいから、それを目指そうと思う。

だって結婚はゴールじゃなくて、スタートなんだよ。婚約で終わっちゃったら、スタートすら出来ないってことになる。それは嫌だ。

ローラと手を繋いで、スタートからゴールまで二人で歩いていくんだ。そして、最後までにお姫様抱っこするの。完璧でしょ？