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第六章 邪魔者(アラン視点 後半)
諸々の事情
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ディルクはアランの側近で護衛としての立場はあるものの、毎日一緒ではない。仕事によっては敢えて離れることもある。今日だって、どうしても外せない用事とやらで、アランの元を離れている。
アリサの周りから男が居なくなって、そのタイミングでディルクが居なくなることに多少の心細さはあるが、我儘も言えまいと、念の為、彼に発信装置をつけておく。彼が裏切るとは考えてはいないが、何が起こっていて、誰が何のために動いているのか知っておきたかった。
ディルクは、アンネリーゼの祖父母の元を訪ねていた。彼が騎士になったきっかけは、父親が騎士団長として働いていたからだが、彼は元々は、王宮騎士ではなく、聖騎士になりたかったと聞いている。それは聖女を守る為の仕事であり、彼は昔から聖女という存在について、人並み以上に理想を持っていた。だから、アリサが現れた時の落胆が大きかった。まるで、聖女は俗物である、と現実を見せつけてきたようなアリサは、アランを含め、度肝を抜かれてしまった。
次に現れたユミは、人間らしさでいうと、アリサと同じだが、彼女達の向かう先は異なる。彼女はアリサとは違い、謙虚であまり主張をしなかった。異世界から来た平民である彼女は恐らく、従来の聖女に近い存在であっただろう。
ディルクが聖騎士として、ユミのそばにつきたいというのなら、アランは止めはしない。彼女の周りには幾人もの近衛騎士がいるが、彼らの守護する主人は王族であり、彼女自身を守る存在ではない。
ただユミの行動を見ていると、護衛が側にいたり侍女が近くにいたりする時に若干身体が強張ることがあり、緊張するようだ。
話によると、ユミの元いた世界ではこのように丁重に扱われたことはないらしく、どれだけ気にしないようにといっても、気になるそうだ。
とは言え、せっかく聖女として招いた客人をみすみす危ない目に遭わせるわけにいかない。ディルクは聖騎士としてではなく、あくまで私の側近としての立場で、ユミにつけることにしたのだった。
「ユミ様に関する件で、少しお側を離れます。」
ディルクはそう言っていた。だから、ユミに関する何らかの事実が、アンネリーゼの祖父母の住んでいる屋敷にはある筈で、アランは発信装置から発信される、映像を見ながら頭をフル回転させていた。
屋敷の奥にある小さな花壇に、侍女と思しき女性が花の手入れをしている。声までは聞こえないものの、一心不乱に一人で集中している様子から何故か懐かしい気持ちになる。
彼女に見覚えはない。いや、もしかすると、この前まであの怪しげな男とともに王宮へ上がっていた侍女かもしれない。とは言え、アランには区別がつかないことは分かりきっていた。人にはよるが、王宮内にいる使用人全てを覚えている人などいないだろう。
王宮内の使用人の多く、または高位貴族の使用人の多くは、下位貴族の出身であることから彼ら自身が貴族としてのマナーを持っていたとしても、そこで目立つことなどはありえない。悪目立ちならともかく、良くても目立つことなどあり得ない。
「どうして、彼女がこんなに気になるのだろう。」
独り言だったはずの言葉に反応したのはアードラーだった。
「少しだけアンネリーゼ様に似ているような気がいたします。」
ハッとしてみると、確かに遠い血縁者と言われても納得するぐらいには似ている。平和すぎて忘れていたが、未だにアンネリーゼは帰っていないのだ。ユミのことばかり考えて肝心な婚約者を思わない自分の不甲斐なさと薄情さにショックを覚えた後、ディルク・ホルムについて、と侍女について考えを巡らせる。
「アンネリーゼ様が帰って来られたとして、それを可能にした者を聖女になさるのですか?」
「聖女が二人いる、というのは、前例がないからな。アリサを聖女とは認めなかったからこそ、異世界からユミを呼んだのだし、アリサは怪しいことが多すぎる。」
「それならば、災いが起きる前にアリサを処分しますか?」
「私はそうしたいが、無理だろう。アリサを害して神が怒るかもしれない。どちらが正しい存在かを決めるのは我々ではない。神だ。」
そしてどちらが正しい聖女であれど、その誤りは許されないだろう。例え聖女と認定されなくとも、命の危機はすぐ近くにあるのだから。
アリサの周りから男が居なくなって、そのタイミングでディルクが居なくなることに多少の心細さはあるが、我儘も言えまいと、念の為、彼に発信装置をつけておく。彼が裏切るとは考えてはいないが、何が起こっていて、誰が何のために動いているのか知っておきたかった。
ディルクは、アンネリーゼの祖父母の元を訪ねていた。彼が騎士になったきっかけは、父親が騎士団長として働いていたからだが、彼は元々は、王宮騎士ではなく、聖騎士になりたかったと聞いている。それは聖女を守る為の仕事であり、彼は昔から聖女という存在について、人並み以上に理想を持っていた。だから、アリサが現れた時の落胆が大きかった。まるで、聖女は俗物である、と現実を見せつけてきたようなアリサは、アランを含め、度肝を抜かれてしまった。
次に現れたユミは、人間らしさでいうと、アリサと同じだが、彼女達の向かう先は異なる。彼女はアリサとは違い、謙虚であまり主張をしなかった。異世界から来た平民である彼女は恐らく、従来の聖女に近い存在であっただろう。
ディルクが聖騎士として、ユミのそばにつきたいというのなら、アランは止めはしない。彼女の周りには幾人もの近衛騎士がいるが、彼らの守護する主人は王族であり、彼女自身を守る存在ではない。
ただユミの行動を見ていると、護衛が側にいたり侍女が近くにいたりする時に若干身体が強張ることがあり、緊張するようだ。
話によると、ユミの元いた世界ではこのように丁重に扱われたことはないらしく、どれだけ気にしないようにといっても、気になるそうだ。
とは言え、せっかく聖女として招いた客人をみすみす危ない目に遭わせるわけにいかない。ディルクは聖騎士としてではなく、あくまで私の側近としての立場で、ユミにつけることにしたのだった。
「ユミ様に関する件で、少しお側を離れます。」
ディルクはそう言っていた。だから、ユミに関する何らかの事実が、アンネリーゼの祖父母の住んでいる屋敷にはある筈で、アランは発信装置から発信される、映像を見ながら頭をフル回転させていた。
屋敷の奥にある小さな花壇に、侍女と思しき女性が花の手入れをしている。声までは聞こえないものの、一心不乱に一人で集中している様子から何故か懐かしい気持ちになる。
彼女に見覚えはない。いや、もしかすると、この前まであの怪しげな男とともに王宮へ上がっていた侍女かもしれない。とは言え、アランには区別がつかないことは分かりきっていた。人にはよるが、王宮内にいる使用人全てを覚えている人などいないだろう。
王宮内の使用人の多く、または高位貴族の使用人の多くは、下位貴族の出身であることから彼ら自身が貴族としてのマナーを持っていたとしても、そこで目立つことなどはありえない。悪目立ちならともかく、良くても目立つことなどあり得ない。
「どうして、彼女がこんなに気になるのだろう。」
独り言だったはずの言葉に反応したのはアードラーだった。
「少しだけアンネリーゼ様に似ているような気がいたします。」
ハッとしてみると、確かに遠い血縁者と言われても納得するぐらいには似ている。平和すぎて忘れていたが、未だにアンネリーゼは帰っていないのだ。ユミのことばかり考えて肝心な婚約者を思わない自分の不甲斐なさと薄情さにショックを覚えた後、ディルク・ホルムについて、と侍女について考えを巡らせる。
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「それならば、災いが起きる前にアリサを処分しますか?」
「私はそうしたいが、無理だろう。アリサを害して神が怒るかもしれない。どちらが正しい存在かを決めるのは我々ではない。神だ。」
そしてどちらが正しい聖女であれど、その誤りは許されないだろう。例え聖女と認定されなくとも、命の危機はすぐ近くにあるのだから。
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