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第五章 あれ、詰んでる? (夕実視点)
ディルク・ホルム
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まずは、一番会いやすいディルクから。と思ったのだけど、どう話しかけようかと思っている間に、話しかけられてしまった。
彼はゲーム内ではただの脳筋キャラだったが、現実には気さくなお兄さんキャラだった。王子のことも、手のかかる兄弟みたいに思っていて、世話焼きプラス苦労人ポジ。
アリサ関連では婚約者を守る為、敵意を剥き出しにしていたが、最近のアリサを見て、表面上はちゃんと聖女として扱っているので、まだ良い人だと思う。攻略対象の中で一番大人なのかもしれない。
二人で話していると、どこからか視線を感じ、目を向けると、ディルクがため息をついた。
「すみません。あれ、もうやめさせますから。」
視線の先には、隠れている王子様の体の一部が。少ししか見えていなくても、誰かはまるわかりだ。
「私を監視しているのでしょうか?」
「いや、どちらかと言うと、私の方かもしれません。貴女に近づく男が気になって仕方ないのですよ。」
「私が何かするとでも、思っていらっしゃるのかしら。」
「いえいえ、貴女が幸せか心配なのですよ。一方的に呼びつけたのですから。」
「それならアリサ様がいらっしゃいますし、私は力など。」
そう言うと、ディルクの瞳が、少し濁ったような、暗くなったような気がする。
「アリサ様ねー、アリサ様。」
先ほどまで、ハキハキと喋っていたのに、まるで、魂が抜けたみたい。
「ユミ様、聞いてくださいます?」
何だ何だ、急にどうした。
ディルクは綺麗な顔をこれでもかと、歪めて、疲れ切った様子で、愚痴をこぼし始めた。
ディルク・ホルムの婚約者は辺境伯の娘、ローラ・マルス。彼女は辺境伯領で日々戦いに明け暮れている為、ご令嬢なのに、腕っ節が強い。そこに、ディルク様は惚れてしまったのだが、アリサが以前に起こした騒動により、ディルクは見に覚えのない浮気の罪を着せられそうなのだと言う。
ディルクは、どうにか婚約者に、浮気の事実はないことを証明したいのだけれど。
「やってないことって、証明しようとすればするほど、言い訳にしか聞こえなくなるんですよ。アリサ様が何を言ったかもわからないし、ローラは話もきいてくれないし、最近は辺境伯領に行くたびに、領民や使用人からも、冷たい視線を感じてしまって。どうしたら良いのか、お手上げなんです。」
「それ、どうにかできるかもしれないわ。」
「え、どう言うことです。何か方法があるんですか?」
「いえ、そうね。アリサが何を言ったかは多分わかる。だから、それを聞いた上で、婚約者の方にどうやってわかって貰うか、考えましょう?」
「ユミ様、流石は真の聖女様ですね。恩に着ます。ありがとうございます。」
つむじの位置までしっかりわかるように、深く頭を下げられる。
ディルクルートを頭に思いうかべ、アリサの言ったであろう、セリフを口にすると、ディルクは顔を上げた。
「それが、アリサ様の言った言葉ですか?」
少し雰囲気が変わった。ディルクは怒っているのだと、理解した。
アリサの言った言葉は、ディルクルートで婚約者に傷つけられたディルクの心を軽くするもので、ヒロインとディルクが、障害を乗り越えていこうとするはじめの言葉だ。
まあ、言ってしまえば、婚約者を貶める言葉。婚約者の悪役令嬢の行いを悪と決めつけて、断罪する言葉だ。
彼と婚約者しか知らない言葉を使い、それを使って貶められたら、流石に二人の関係に気がつくよね。それで、ゲーム内では、悪役令嬢が怒りを露わにしてしまう。
結果、ヒロインは守られて、悪役令嬢は悪役として消えていく。
さっきのディルク様の表情から察するに、彼はその言葉を婚約者との大切な思い出として、記憶していたのだろう。だから、怒りを抑えられなかった。
用事がある、と足早に去って行く彼を見送る。あとは、彼が何とかするだろうけれど。
どうしよう、またアリサがヒロインの立場から遠のいた。
彼はゲーム内ではただの脳筋キャラだったが、現実には気さくなお兄さんキャラだった。王子のことも、手のかかる兄弟みたいに思っていて、世話焼きプラス苦労人ポジ。
アリサ関連では婚約者を守る為、敵意を剥き出しにしていたが、最近のアリサを見て、表面上はちゃんと聖女として扱っているので、まだ良い人だと思う。攻略対象の中で一番大人なのかもしれない。
二人で話していると、どこからか視線を感じ、目を向けると、ディルクがため息をついた。
「すみません。あれ、もうやめさせますから。」
視線の先には、隠れている王子様の体の一部が。少ししか見えていなくても、誰かはまるわかりだ。
「私を監視しているのでしょうか?」
「いや、どちらかと言うと、私の方かもしれません。貴女に近づく男が気になって仕方ないのですよ。」
「私が何かするとでも、思っていらっしゃるのかしら。」
「いえいえ、貴女が幸せか心配なのですよ。一方的に呼びつけたのですから。」
「それならアリサ様がいらっしゃいますし、私は力など。」
そう言うと、ディルクの瞳が、少し濁ったような、暗くなったような気がする。
「アリサ様ねー、アリサ様。」
先ほどまで、ハキハキと喋っていたのに、まるで、魂が抜けたみたい。
「ユミ様、聞いてくださいます?」
何だ何だ、急にどうした。
ディルクは綺麗な顔をこれでもかと、歪めて、疲れ切った様子で、愚痴をこぼし始めた。
ディルク・ホルムの婚約者は辺境伯の娘、ローラ・マルス。彼女は辺境伯領で日々戦いに明け暮れている為、ご令嬢なのに、腕っ節が強い。そこに、ディルク様は惚れてしまったのだが、アリサが以前に起こした騒動により、ディルクは見に覚えのない浮気の罪を着せられそうなのだと言う。
ディルクは、どうにか婚約者に、浮気の事実はないことを証明したいのだけれど。
「やってないことって、証明しようとすればするほど、言い訳にしか聞こえなくなるんですよ。アリサ様が何を言ったかもわからないし、ローラは話もきいてくれないし、最近は辺境伯領に行くたびに、領民や使用人からも、冷たい視線を感じてしまって。どうしたら良いのか、お手上げなんです。」
「それ、どうにかできるかもしれないわ。」
「え、どう言うことです。何か方法があるんですか?」
「いえ、そうね。アリサが何を言ったかは多分わかる。だから、それを聞いた上で、婚約者の方にどうやってわかって貰うか、考えましょう?」
「ユミ様、流石は真の聖女様ですね。恩に着ます。ありがとうございます。」
つむじの位置までしっかりわかるように、深く頭を下げられる。
ディルクルートを頭に思いうかべ、アリサの言ったであろう、セリフを口にすると、ディルクは顔を上げた。
「それが、アリサ様の言った言葉ですか?」
少し雰囲気が変わった。ディルクは怒っているのだと、理解した。
アリサの言った言葉は、ディルクルートで婚約者に傷つけられたディルクの心を軽くするもので、ヒロインとディルクが、障害を乗り越えていこうとするはじめの言葉だ。
まあ、言ってしまえば、婚約者を貶める言葉。婚約者の悪役令嬢の行いを悪と決めつけて、断罪する言葉だ。
彼と婚約者しか知らない言葉を使い、それを使って貶められたら、流石に二人の関係に気がつくよね。それで、ゲーム内では、悪役令嬢が怒りを露わにしてしまう。
結果、ヒロインは守られて、悪役令嬢は悪役として消えていく。
さっきのディルク様の表情から察するに、彼はその言葉を婚約者との大切な思い出として、記憶していたのだろう。だから、怒りを抑えられなかった。
用事がある、と足早に去って行く彼を見送る。あとは、彼が何とかするだろうけれど。
どうしよう、またアリサがヒロインの立場から遠のいた。
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