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第五章 あれ、詰んでる? (夕実視点)

王子との思い出の品 蒼視点

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夕実がアリサを連れて、アードラー家に滞在する中、俺にもやるべきことがあった。実は、それはアンネちゃんにも関することであったため、一緒に向かう。アンネちゃんの私物で王宮に置いていた物の中にこれからの計画に使えるものがあるか、確認しなくてはならない。これが、あるかどうかは賭けであり、正確ではないが、以前アンネちゃんの兄夫婦に聞いたところ、公爵家では見てもいないとのことから、王宮にあるのでは?と、思い調べてみることにした。

「アンネちゃんは、見たことはないんだよね?」

「ええ、ないと、思うのですが……何とぞ、特別意識することもなく過ごしておりましたので、はっきりせず、ごめんなさい。」

「いやいや、こちらこそ、ごめん。はっきりこう言う物、と言えたら良いんだけど。夕実の知識を具現化するに至らず。想像するしかできないんだよね。」

本来なら、アンネちゃんが昔使っていた部屋には俺達は入れない。王宮の使用人ですら入れないのだから、これは仕方ないことだ。

ただ、夕実が王子に、アンネちゃんを探す為、と称して、王子の認めた人物の立会があれば、部屋に入って良いことになっている。

王子の認める人物とは、王子自身であった。いつもなら夕実の後ろばかりくっついている印象が強い王子殿下だが、今日は夕実がいないからか、少し元気はないみたいだった。

王子の前ではアンネちゃんの名前を呼ばないようにしないと。

普段なら、アンネちゃんも王子に見つからないようになるべく姿を隠しているのだが、今回は、探すことに夢中で、王子殿下の近くで、熱心に探し物をしていた。

そう言う俺も、うっかりしていたのは、悪かったと思っている。

あろうことか、足を滑らせたアンネちゃんを支えたのは、護衛ではなく、王子殿下だった。

「失礼しましたっ!」
あわあわと、恐縮しきりのアンネちゃんと、バレるんじゃないかとヒヤヒヤの俺に、涼しい顔の王子殿下。

「大丈夫。気をつけて。」

至近距離で顔を見れば、アンネちゃんだとすぐわかりそうなものだが。

「大丈夫だったね……」
「ええ、良かったです。」

互いに胸を撫で下ろしながら、ふと疑問に思う。

もしかして、王子殿下って、ポンコツ?

「……不敬ですよ。」

しまった、声に出していたらしい。アンネちゃんは、俺にしか聞こえない小さな声で、戒めた後、ふと笑った。

「もう、私の出番が終わったと言うこと?それならば、嬉しいのだけど。」

本当にそれならどれだけ、安心できるか。

せっかく調べてくれているのだから、夕実には申し訳ないけれど、王子の心の中には、アンネちゃんの代わりに、夕実がいるような気がしてならない。

兄として、アンネちゃんだけでなく、夕実も連れて帰りたいのだけど、どうかな。


つい先日まで、一緒にいたアリサに、その代わりを押し付けたいけれど、無理があるかもしれない。

我慢ばかりして、周りに気を使うタイプの夕実や、アンネちゃんと、我儘に無邪気に振る舞うアリサ。今は少し引くことを覚えたものの、本質は変わらない。彼女が今我慢をしているのは、レオンルートを進んで、自分が幸せになりたいからだ。

自分の幸せ以外を考えているわけではない。

そもそも、アンネちゃんがタイプなら、アリサは避けて通りたいタイプに違いない。

そうなると、王子には、少し罪悪感が出てくる。だからといって、妹もアンネちゃんも、渡す気はないのだが。

「ねえ、これは違う?」
アンネちゃんが見つけた物をよく見ると、夕実の書いたよくわからない絵に似ている気がした。

「これかもしれない。何個かあれば、答え合わせができるんだけど。とりあえずそれは持っていこう。後は?」

「これ……懐かしいわ。あ、多分これは関係ないわ。」

一旦、手に取って眺めたものの、元の場所に急いで戻すアンネちゃん。

「よくわからないけれど、思い出の物なら、持っていこう。」

王子殿下は、扉の前で、部屋に入るか否かをまだ悩んでいた。行方不明とは言え、勝手に入っていいか悩んでいるのは流石紳士だな。

考えこんでいる王子がこちらをみていないうちに、アンネちゃんは、その思い出の品を、大切そうに、ハンカチで包む。

自分の物でも、ここでは他人に扮している為、窃盗だなんだと言われないように、王子殿下に断りを入れて持ち帰る。

殿下は、一瞬目を細めて、その品を見たが、持っていくのを止めたりはしなかった。

「懐かしいな。」

彼はポツリと呟いて、それきり何も言わなかった。

少しの疎外感を感じたものの、これなら何かしらの力を蓄えてそうだと意識を切り替えた。

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