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第四章 二人の聖女(アラン視点 前半)

聖女候補

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王宮は混乱していた。新しく召喚した聖女を神官長に指名してもらい、聖女として披露するはずが、ここにきて、前聖女(自称)が、聖女の能力を有していることが発覚したのである。

ただ一言、専門家の意見が欲しかっただけだ。高名な魔法使いに見てもらい、聖女の力がない、と証明が欲しかっただけなのに、非情にも、その行動は仇となった。

聖女の能力あり、となれば、どれだけ人間性に問題があったとしても、聖女として勤めを果たしてもらわねばならない。

まだよかったことといえば、新しい聖女にも同じような能力があったらしく、より優秀な方を選べると言う点である。

それにしても、アリサと言う平民と会うのは疲れる。ユミは、同じ平民でも分を弁えているのに、アリサは違う。思い違いが甚だしい。間違いを訂正しようにも、聞く耳をもたないから更に疲れる。

王子はもう一度深呼吸をして、二人の聖女候補の待つ部屋に足を踏み入れた。

左手にユミが頭を下げて座っている。背格好がリーゼに似ているため、毎回ハッとしてしまう。未だに慣れない。

右手にいるのは、アリサだと思っていたが、様子が異なる。よくよく見れば、紛れもなくアリサと言う平民だが、牢に入れられて反省したのか随分と大人しい。

ユミと同じように、俯いて座っている。

「面をあげよ。」

ユミの茶色の瞳がこちらを見つめる。さっきまで、落ち着かなかった気持ちが、少しずつ解れていくのを感じる。

ハッとして、アリサを見ると、以前は見られなかった落ち着きと、神々しいオーラが元々は愛らしい彼女の美貌を引き立てていた。

彼女が牢に入ってから何があったのか。特に報告は上がっていないが、何だか不気味に感じて、部屋を見渡すと、影の一人が部屋を出るのがわかった。

彼女が牢に入れられて二週間で、聖女の力が発動したと言うのだろうか。影からの報告では、いつも不平を言いながら、喚いてばかりだったと聞いていたのに。

今のアリサを他の貴族なり、平民が見たなら、以前が酷過ぎたのもあって、一転彼女を擁護するようになってしまわないだろうか。


「アリサ、君は人が変わったようだね。」

あれだけうるさく纏わりついていたのだからすぐにでも化けの皮は剥がれるかと思っていたのだが、残念なことにそうはならなかった。

「あの時の私はどうかしていたのですわ。今が元々の私です。」

ニッコリと笑って、ユミにも会釈をする。

ユミも慣れないながら、アリサに向かって、カーテシーをしようとしたが、アリサから平民同士ですので、不要ですわ、と返されて、笑い合っている。

聖女が二人いると言う状況は、例を見ない。そもそも聖女がいるのが、稀なのに、それも二人も。

王国としても、どうするのが良いのか手探りで探すほかない。

アリサの背後に一人、細長い若い男性が座っていた。聞けば、彼女を鑑定した魔法使いの弟子らしい。アリサが今大人しく座っているのは、もしかしたら彼の魔法のせいなのかもしれない、とふと思う。

どこかで会ったことがあるのか、見覚えのある男に、警戒しつつ、彼女達がいなければ、婚約者を取り戻すことも叶わないのだから、早く聖女問題をやり過ごしたいと言うのが本音だ。

一人の男として、リーゼを最優先に考えてしまう自分と、王子として、聖女問題が第一と考える対外的な自分とがせめぎ合っている。

聖女問題が片付けば、見つからない公爵令嬢よりも聖女を婚約者にしようとする勢力もいるだろう。

だけど、やはり結婚相手であれば、私はリーゼと結婚をするべきだ。

だって、私は次期王として育てられた王子であり、リーゼは次期王妃として育てられた公爵令嬢だ。

それは決定事項であり、本人であっても異を唱えることはできない約束なのだから。



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