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第三章 巻き込まれる

王子との対面

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こちらに来て慣れない環境に身体をなじませていくのは、やっぱり知った顔があるからだ。アンネちゃんが近くにいて、祖母ちゃんがいる。自分は恵まれているから、大変だとか言ってられない。妹はもっと過酷な状況にいる。

夕実なら一人でもうまく立ち回れる筈だから大丈夫と、アンネちゃんには言ったものの、やっぱり心配は心配だった。一緒に召喚されたのに、一人だけ違う場所に飛ばされたこと。聖女と崇められたこと。貴族のしきたりすら知らないのに、いきなり王族に会わされたこと。彼女はまだ高校生で、子供だ。何をするにも、親の許可が必要な歳だ。親が頼りにならないのに、兄である自分が側で守ってやれないなんて。

夕実は一人で我慢しすぎる傾向がある。それを理解してくれる人が側にいれば良いが。少しの時間一緒にいて、人の本質を見抜くのは難しい。

王宮の廊下で出会った夕実はこちらに顔を向けると、緊張の糸が切れたのか抱きついて来た。王子が近くにいなければ、抱きしめ返していただろう。離れていた間に痩せた気がする。心配が顔に出過ぎないようにちゃんと演技できているだろうか。

王子はアンネちゃんがまだ見つかっていないからか、こちらに殺気に近い何かを送ってきていて、刺激するわけにもいかず、用意していたハンカチを渡すに留める。

こちらの国の言語は、日本語で聞こえるものの、書き言葉は、日本語ではない。私は漢字で、メッセージをハンカチに書いてみた。刺繍ができればよかったが、出来なかった。

夕実は涙をハンカチで、拭ったあと、大切そうにしまった。王子がこちらを睨みながら、目の前を通過する。不敬なので、こちらは我関せずを貫いたが、確実に彼はこちらに興味を持ってしまった。

万が一にもアンネちゃんのことがわかってしまうのは避けたい。今夜屋敷に帰ったら、祖母と作戦会議をしなければならない。

アンネちゃんは、俺の背中越しに王子の近くに立っていたが気付かれることはなかった。王子の視線は夕実と、謎の男(俺)に注がれている。こんな時、俺と夕実が似てなくて良かったと思う。見るからに兄妹なら言い逃れができない。

アンネちゃんは、心配そうな夕実に、俺の肩越しに顔を見せると、あとは見つからないように俺の後ろに身を潜める。

夕実は、ホッとした顔を見せて、笑顔をはりつけて、王子の元へ帰っていく。

夕実は、会場で祖母に出会うだろう。一人じゃないと分かってほしい。安心してほしい。必ず助けるから。もう少しだけ待っていて。
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