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魔王城
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リスの獣人は途方にくれていた。
森の中を歩いていたら、やたらと良い匂いがして、そっちにフラフラと流れていけば、魔王城の中に入っていたのである。
お母さんから、魔王城の中には、それはそれは怖い魔王様がいて、あなたなんかすぐ食べられちゃうわよ、と聞いていたから逃げたいのだけれど、さっきから同じところを走ってる気がする。
出口がわからない。
あと、それとは別に甘い良い匂いが、奥の方から漂ってくる。
まるで、こちらにおいでと誘っているように。
リスの獣人は、甘い匂いにどうしても釣られてしまう。お母さんからそろそろ独り立ちしなさい、と追い出され、行くところがなかったと言うのもある。
魔王様が実はいい人で置いてくれる、とかないかなぁ。
どうしても、お腹が空いているせいか、単純な思考になってしまう。
甘い匂いはこの先も続いている。
ドアを開けて、中の様子を伺う。
テーブルの上に、甘い匂いの正体であるお菓子が、あった。
クンクンと匂いを嗅いで確認する。
「やっぱりこれだ!」
リスは興奮して、大声をあげると同時にお菓子にかぶりついた。
「美味ひ~い」
リスは一心不乱にサクサク音をさせて、食べ進んでいく。
これは彼女がお腹を空かせているせいだ。お腹が空いてさえいなかったら、この状況の異様さに真っ先に気づいたはずである。
リスが正気に戻ったのは、全て食べ尽くした後。
「あ~、美味しかった~。」
お腹をさすって満足気なリスは、ふと、そこにどうしてお菓子があったのか、気になった。
そして、さっきまで、そこになかった影にも気になった。
まるで、リスの真後ろに馬鹿でかい何かが立っているような、暗い影が、リスには気になった。
ゆっくりと後ろを振り向くと、背の高い
見たこともない綺麗な男の人が、含みのある笑顔で立っていた。
「何をしている。」
低い、地の底が震えるような、恐ろしい声。
リスはびくっとして、周りを見渡すが、自分の他に声を発することができそうな人は1人しか見当たらない。
「え。今のあなたの声?」
男の人は不機嫌になったのか顔を歪める。
「違うの。びっくりしただけなの。」
リスは焦る。
「それで、何をしている。」
もう一度、男の人は聞いた。
「お菓子を…食べ終わったところです。」
リスはそう言い、部屋を出ようとする。
「おい、どこへ行く。」
「家に帰ります。御馳走様でした。」
リスの目の前で開いていたドアが閉まる。
「お前を返すわけに行かない。」
男の人はそう言って、リスに
「よくも全部たべてくれたな。」
と言って、睨んだ。
そこで、リスはこのお菓子は、この男の人のものであることに気がついた。
「申し訳ありませんでした。」
「…どうだった。味は。」
「美味しかったです。あまりに美味しかったので、とまらなくて…」
「そうか。」
話が終わったので、リスはドアを開けようとするが、開かない。
「あの、開けてください。」
「なんで。」
「帰りたいので。」
「なんで。」
いや、だってここ、魔王城だし。魔王につかまりたくないでしょ、誰も。
「だって、ここは…」
ふっと、意識が遠のいた。
ああ、お菓子に何か入っていたのね。
リスは、夢の中に落ちていった。
森の中を歩いていたら、やたらと良い匂いがして、そっちにフラフラと流れていけば、魔王城の中に入っていたのである。
お母さんから、魔王城の中には、それはそれは怖い魔王様がいて、あなたなんかすぐ食べられちゃうわよ、と聞いていたから逃げたいのだけれど、さっきから同じところを走ってる気がする。
出口がわからない。
あと、それとは別に甘い良い匂いが、奥の方から漂ってくる。
まるで、こちらにおいでと誘っているように。
リスの獣人は、甘い匂いにどうしても釣られてしまう。お母さんからそろそろ独り立ちしなさい、と追い出され、行くところがなかったと言うのもある。
魔王様が実はいい人で置いてくれる、とかないかなぁ。
どうしても、お腹が空いているせいか、単純な思考になってしまう。
甘い匂いはこの先も続いている。
ドアを開けて、中の様子を伺う。
テーブルの上に、甘い匂いの正体であるお菓子が、あった。
クンクンと匂いを嗅いで確認する。
「やっぱりこれだ!」
リスは興奮して、大声をあげると同時にお菓子にかぶりついた。
「美味ひ~い」
リスは一心不乱にサクサク音をさせて、食べ進んでいく。
これは彼女がお腹を空かせているせいだ。お腹が空いてさえいなかったら、この状況の異様さに真っ先に気づいたはずである。
リスが正気に戻ったのは、全て食べ尽くした後。
「あ~、美味しかった~。」
お腹をさすって満足気なリスは、ふと、そこにどうしてお菓子があったのか、気になった。
そして、さっきまで、そこになかった影にも気になった。
まるで、リスの真後ろに馬鹿でかい何かが立っているような、暗い影が、リスには気になった。
ゆっくりと後ろを振り向くと、背の高い
見たこともない綺麗な男の人が、含みのある笑顔で立っていた。
「何をしている。」
低い、地の底が震えるような、恐ろしい声。
リスはびくっとして、周りを見渡すが、自分の他に声を発することができそうな人は1人しか見当たらない。
「え。今のあなたの声?」
男の人は不機嫌になったのか顔を歪める。
「違うの。びっくりしただけなの。」
リスは焦る。
「それで、何をしている。」
もう一度、男の人は聞いた。
「お菓子を…食べ終わったところです。」
リスはそう言い、部屋を出ようとする。
「おい、どこへ行く。」
「家に帰ります。御馳走様でした。」
リスの目の前で開いていたドアが閉まる。
「お前を返すわけに行かない。」
男の人はそう言って、リスに
「よくも全部たべてくれたな。」
と言って、睨んだ。
そこで、リスはこのお菓子は、この男の人のものであることに気がついた。
「申し訳ありませんでした。」
「…どうだった。味は。」
「美味しかったです。あまりに美味しかったので、とまらなくて…」
「そうか。」
話が終わったので、リスはドアを開けようとするが、開かない。
「あの、開けてください。」
「なんで。」
「帰りたいので。」
「なんで。」
いや、だってここ、魔王城だし。魔王につかまりたくないでしょ、誰も。
「だって、ここは…」
ふっと、意識が遠のいた。
ああ、お菓子に何か入っていたのね。
リスは、夢の中に落ちていった。
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