54 / 58
番外編 4
モニカとマチルダ
しおりを挟む
冒険者から聖女というお役目を与えられたものの、少しの勉強以外は楽に過ごして良いと言われ、そんなにストレスなく過ごせている。モニカは、冒険者という職業上、あまりにも先のことについて、くよくよ悩んだりすることはない。だっていつ働けなくなるか、死んでしまうか分からないのだし。
高難易度のクエストに挑戦する際には、命を落としても、訴えません、と証書を書かされるし。だから今回のことだって、自分に何かあった時には親に報償が行くように手配してもらえれば、それで自分は良いと思っていた。
ジェスと二人で組んでいた頃は探索魔法も偶に練習がてら使っていたが、メインで探索を行っていたのはジェスである。
帝国の方角から、ある一団がこちらに近づいてきているのを探知してから、ずっとジェスは城に籠っている。ジェスよりも遥かに精度の高い探索魔法の使い手が城にいるそうで、話を聞きに行っているのだが、自分の探索魔法では大まかな人数しか分からず、あまり役に立てそうにない。
あの一団の中に、聖女やら勇者やらがいるのだろうか。魔力を辿るだけでは、どんな相手かすらわからない。
ジェスは一度モニカに会いに来てからは、ほぼ毎日のように時間を見つけては様子を見に来るようになった。
モニカはジェスについて、今までなら気軽に接していたが、ついこの間、王子としての彼を見てから、気軽にとは言え、気を使うようになった。ジェスはそんな自分に苦笑しているが、仕方ないとも感じているようで好きにさせてくれている。
ジェスは第二王子だというのに婚約者もなく、放置されているように思う。なんとなくその手の話題はしてはいけない雰囲気になっていて、少し戸惑ってしまうが、本来なら婚約者っているべきなんじゃないだろうか。
とは言え、それを話す相手もいない。マミはその辺り知っているのか、聞いたところ、非常に言いづらそうにしていたが、モニカが真摯に頼めば、教えてくれた。
「ジェス殿下は本来なら、聖女と結ばれるんだよね。だから、婚約者はいないの。でも、ちょっとずつ、話が変わってきているから、その通りになるとは言えないんだけど。」
「……ん?聖女……それは仮初ではなくて、本物の、ってことよね。それなら、帝国からくる聖女って言うのが、その相手?」
「帝国の聖女も偽物だよ。」
「そうだった。え?じゃあ、誰。」
「本来ならマチルダ・クラウスが聖女になるはずだったの。けれど、未来は変わっているから、もう違う。」
「誰、それ。その人はどこにいるの?」
「ここにいる。貴女の…目の前に。」
「え?」
「私がマチルダ・クラウス。聖女になる筈がなれなくて、侍女になった。残念な元ヒロイン。」
ヒロインって何だろう?私の疑問に答えてくれるマミは、本当の名をマチルダと言うらしい。もう既にマミと覚えているから、その新しい名前に違和感しかないのだが、彼女はマチルダとして、受けるはずだった人生を話してくれる。彼女はただの侍女ではなくて、未来を予知できる能力があったらしい。
彼女は、彼女の見た未来が少しずつ変わっていて、もう彼女の力の及ばないところに現実が変わってしまっていると言う。
「だから、もうマチルダには聖女になれる未来は来ないの。」
それはジェスとマチルダの未来が来ないと言うことだ。
モニカはそれを聞いて少しだけホッとした。それはマミに対してのものかジェスに対してのものかハッキリとはわからないが、二人がくっつく未来は見たくないと思った。
高難易度のクエストに挑戦する際には、命を落としても、訴えません、と証書を書かされるし。だから今回のことだって、自分に何かあった時には親に報償が行くように手配してもらえれば、それで自分は良いと思っていた。
ジェスと二人で組んでいた頃は探索魔法も偶に練習がてら使っていたが、メインで探索を行っていたのはジェスである。
帝国の方角から、ある一団がこちらに近づいてきているのを探知してから、ずっとジェスは城に籠っている。ジェスよりも遥かに精度の高い探索魔法の使い手が城にいるそうで、話を聞きに行っているのだが、自分の探索魔法では大まかな人数しか分からず、あまり役に立てそうにない。
あの一団の中に、聖女やら勇者やらがいるのだろうか。魔力を辿るだけでは、どんな相手かすらわからない。
ジェスは一度モニカに会いに来てからは、ほぼ毎日のように時間を見つけては様子を見に来るようになった。
モニカはジェスについて、今までなら気軽に接していたが、ついこの間、王子としての彼を見てから、気軽にとは言え、気を使うようになった。ジェスはそんな自分に苦笑しているが、仕方ないとも感じているようで好きにさせてくれている。
ジェスは第二王子だというのに婚約者もなく、放置されているように思う。なんとなくその手の話題はしてはいけない雰囲気になっていて、少し戸惑ってしまうが、本来なら婚約者っているべきなんじゃないだろうか。
とは言え、それを話す相手もいない。マミはその辺り知っているのか、聞いたところ、非常に言いづらそうにしていたが、モニカが真摯に頼めば、教えてくれた。
「ジェス殿下は本来なら、聖女と結ばれるんだよね。だから、婚約者はいないの。でも、ちょっとずつ、話が変わってきているから、その通りになるとは言えないんだけど。」
「……ん?聖女……それは仮初ではなくて、本物の、ってことよね。それなら、帝国からくる聖女って言うのが、その相手?」
「帝国の聖女も偽物だよ。」
「そうだった。え?じゃあ、誰。」
「本来ならマチルダ・クラウスが聖女になるはずだったの。けれど、未来は変わっているから、もう違う。」
「誰、それ。その人はどこにいるの?」
「ここにいる。貴女の…目の前に。」
「え?」
「私がマチルダ・クラウス。聖女になる筈がなれなくて、侍女になった。残念な元ヒロイン。」
ヒロインって何だろう?私の疑問に答えてくれるマミは、本当の名をマチルダと言うらしい。もう既にマミと覚えているから、その新しい名前に違和感しかないのだが、彼女はマチルダとして、受けるはずだった人生を話してくれる。彼女はただの侍女ではなくて、未来を予知できる能力があったらしい。
彼女は、彼女の見た未来が少しずつ変わっていて、もう彼女の力の及ばないところに現実が変わってしまっていると言う。
「だから、もうマチルダには聖女になれる未来は来ないの。」
それはジェスとマチルダの未来が来ないと言うことだ。
モニカはそれを聞いて少しだけホッとした。それはマミに対してのものかジェスに対してのものかハッキリとはわからないが、二人がくっつく未来は見たくないと思った。
0
お気に入りに追加
107
あなたにおすすめの小説
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
私は幼い頃に死んだと思われていた侯爵令嬢でした
さこの
恋愛
幼い頃に誘拐されたマリアベル。保護してくれた男の人をお母さんと呼び、父でもあり兄でもあり家族として暮らしていた。
誘拐される以前の記憶は全くないが、ネックレスにマリアベルと名前が記されていた。
数年後にマリアベルの元に侯爵家の遣いがやってきて、自分は貴族の娘だと知る事になる。
お母さんと呼ぶ男の人と離れるのは嫌だが家に戻り家族と会う事になった。
片田舎で暮らしていたマリアベルは貴族の子女として学ぶ事になるが、不思議と読み書きは出来るし食事のマナーも悪くない。
お母さんと呼ばれていた男は何者だったのだろうか……? マリアベルは貴族社会に馴染めるのか……
っと言った感じのストーリーです。
【完結】「幼馴染が皇子様になって迎えに来てくれた」
まほりろ
恋愛
腹違いの妹を長年に渡りいじめていた罪に問われた私は、第一王子に婚約破棄され、侯爵令嬢の身分を剥奪され、塔の最上階に閉じ込められていた。
私が腹違いの妹のマダリンをいじめたという事実はない。
私が断罪され兵士に取り押さえられたときマダリンは、第一王子のワルデマー殿下に抱きしめられにやにやと笑っていた。
私は妹にはめられたのだ。
牢屋の中で絶望していた私の前に現れたのは、幼い頃私に使えていた執事見習いのレイだった。
「迎えに来ましたよ、メリセントお嬢様」
そう言って、彼はニッコリとほほ笑んだ
※他のサイトにも投稿してます。
「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」
表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
【完結】「お迎えに上がりました、お嬢様」
まほりろ
恋愛
私の名前はアリッサ・エーベルト、由緒ある侯爵家の長女で、第一王子の婚約者だ。
……と言えば聞こえがいいが、家では継母と腹違いの妹にいじめられ、父にはいないものとして扱われ、婚約者には腹違いの妹と浮気された。
挙げ句の果てに妹を虐めていた濡れ衣を着せられ、婚約を破棄され、身分を剥奪され、塔に幽閉され、現在軟禁(なんきん)生活の真っ最中。
私はきっと明日処刑される……。
死を覚悟した私の脳裏に浮かんだのは、幼い頃私に仕えていた執事見習いの男の子の顔だった。
※「幼馴染が王子様になって迎えに来てくれた」を推敲していたら、全く別の話になってしまいました。
勿体ないので、キャラクターの名前を変えて別作品として投稿します。
本作だけでもお楽しみいただけます。
※他サイトにも投稿してます。
「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」
表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
転生した平凡顔な捨て子が公爵家の姫君?平民のままがいいので逃げてもいいですか
青波明来
恋愛
覚えているのは乱立するビルと車の波そして沢山の人
これってなんだろう前世の記憶・・・・・?
気が付くと赤ん坊になっていたあたし
いったいどうなったんだろ?
っていうか・・・・・あたしを抱いて息も絶え絶えに走っているこの女性は誰?
お母さんなのかな?でも今なんて言った?
「お嬢様、申し訳ありません!!もうすぐですよ」
誰かから逃れるかのように走ることを辞めない彼女は一軒の孤児院に赤ん坊を置いた
・・・・・えっ?!どうしたの?待って!!
雨も降ってるし寒いんだけど?!
こんなところに置いてかれたら赤ん坊のあたしなんて下手すると死んじゃうし!!
奇跡的に孤児院のシスターに拾われたあたし
高熱が出て一時は大変だったみたいだけどなんとか持ち直した
そんなあたしが公爵家の娘?
なんかの間違いです!!あたしはみなしごの平凡な女の子なんです
自由気ままな平民がいいのに周りが許してくれません
なので・・・・・・逃げます!!
死ぬはずだった令嬢が乙女ゲームの舞台に突然参加するお話
みっしー
恋愛
病弱な公爵令嬢のフィリアはある日今までにないほどの高熱にうなされて自分の前世を思い出す。そして今自分がいるのは大好きだった乙女ゲームの世界だと気づく。しかし…「藍色の髪、空色の瞳、真っ白な肌……まさかっ……!」なんと彼女が転生したのはヒロインでも悪役令嬢でもない、ゲーム開始前に死んでしまう攻略対象の王子の婚約者だったのだ。でも前世で長生きできなかった分今世では長生きしたい!そんな彼女が長生きを目指して乙女ゲームの舞台に突然参加するお話です。
*番外編も含め完結いたしました!感想はいつでもありがたく読ませていただきますのでお気軽に!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる