愚王は二代続かない

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第三章 嵐の前の

シシーのヒロイン具合

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シシーは資料をめくる手を止めた。中級編のヒロインとして、自分の名前が出てきた時は、まるで自分が物語の中に入ったかのように、ワクワクしたのだが、内容の殺伐さと、複雑さに読んだことを後悔した。

シシーの気に入った話といえば初級編で、シシーが出てくるまでのヒロインと勇者が魔王を倒して、帰ってくるところまで、だ。

勧善懲悪ものは、やはり安心する。悪は滅び、正しい者は栄える話。

現実では悲しいかな、悪者が生き延びることは良くあって、正しくても弱い者はどんどん、搾取され死んでいく。

正しくて強い存在には憧れる。どちらも手に入れられないものだから、より憧れは強くなる。

マミが用意した資料は初級編、中級編に比べ、上級編の分量があまりに少ない。これは未来予知が難しく、断片的にしか情報が入ってこなかったから、らしい。


シシーは上級編のヒロインをずっとあの、ティナという平民の女性だと思っていた。しかし、彼女はあくまでも、中級編のシシーに対抗する悪役と言う立ち位置で、彼女がヒロイン枠には入らないと、マミが宣言した。

「シシー様は、あのティナが、純粋にリカルドに恋をした訳じゃないって知ってるでしょう?もしかして、彼女の立場上、逆らえなくて、って言う言い訳を信じてしまってる?」

シシーはマミに諭されているような感覚に陥り、顔を赤くする。

反対しようと口を開いたシシーは、マミに止められる。

「流石、中級編のヒロインだわ。私がどうしてヒロインになれなかったか、わかった気がする。私、そういう純粋さを持ってないからな。

それか悔しいけど、シシー様をそんな風にしたのは、リカルド様のおかげ?

いや、でも二人こそ真実の愛だよね。だってこの資料の通りなら、絶対に交わらない二人なんだよ?」

マミの口から真実の愛、と発せられた瞬間、シシーの目が覚めた。

リカルドとの愛は、真実の愛なんていう都合の良い紛い物の愛ではない。そもそも愛に真実も偽りもないのだから。それでも、どんな愛でも、リカルドと育める愛と言うのは、シシーの幸せそのものだった。

「ところで、マミの当初の目的を忘れていない?」

シシーが先を促すと、すっかり忘れていたようで慌てて、追加の資料を取り出す。

それは彼女が一番詳しいシシーの未来に関するもので、シシーと言うよりは、リカルドが血眼になって追いかけている。

彼はシシーが不利益を被る前に彼らの行いを止めようとしてくれているが、たまにやり過ぎることがあり、シシーをハラハラさせている。

追加の資料にあったのは、知りたくなかった情報で、そこには魔王が復活した後の、魔王とシシーの未来予知があった。

シシーは魔王と結ばれる未来もあったらしい。これを読んでリカルドが、魔王を倒しに行くと言い出さないか、それが何より心配だ。

何せ、未だに魔王の正体が何か、わかっていないのだから、対策の取りようがない。




なので、この事実をリカルドに言わないでと言うか迷ったが、そう思う頃にはリカルドに知られていた。そして、勘違いから痛くもない腹を探られる羽目になることを、シシーはまだ知らない。

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