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護衛騎士と伯爵令嬢

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「グリーク卿が助けてくださらなかったら今頃、大変なことになっていました。ありがとうございます。」

いつもとは異なる彼の装いに、新鮮な驚きを感じながら礼を言うと、グリーク卿ははにかんで、礼を受け取った。

彼は婚約者候補の暴走を止めなかったがそれが咎められることはなかった。実際には怒りを抑えるのに必死だったそうだが王妃様の命で、その場では何も言わずに彼女達のやりたいようにさせておくように、と言われていたようだ。

「あの場にいればわかります。あの時責められていたのはコリーナ嬢で、なのに今回の騒動の責任まで押し付けられるのは間違いです。彼の方はご自身の都合の良い方に何もかも押し付けて逃げる気でしたから。私が報告いたしましたので、もし、誰が責任をとるかと言われたら、コリーナ嬢ではなくて、私ということになります。」

「いくら何でもグリーク卿に責を取らせるなんて真似、公爵がお許しにならないと思いますよ。」

幸いにも、あの後怒り狂っていたのはエリザベス嬢だけだったと聞く。彼女の父と婚約者は、これからどうしてこの失態を取り返して行くかに思いを馳せていたようだから。

「ちょうどいい機会ですし、これを機に社交界から距離を取ろうかと思うのです。」

詳細は明らかにはならなかったものの、王家から、このご令嬢方はちょっとね、と言われたことに変わりはない。

なら熱が冷めるまで、距離を取るとしていれば、公爵令嬢からの嫌がらせも少ないだろう。

「兎に角これまで、護衛騎士として、守っていただき、ありがとうございました。」

「えー、とその件なのですが、今回のことで、コリーナ嬢は殿下の婚約者候補からもう完璧に外れましたよね?」
「ええ。今回失格になったご令嬢は皆資格を失うと言われたわ。」

「なら、私が婚約者の座に立候補してもよろしいでしょうか。」

グリーク卿は伯爵位を持っている近衛騎士で、真面目で優しく将来有望。コリーナとは少し歳の差はあるものの、話しやすく、人柄も良い。

「え?」
「あの日からコリーナ嬢の姿が頭に焼き付いて離れませんでした。まずはお試しでもよいので、お付き合いから初めて見て貰えませんでしょうか。」

「わ、私でよろしいのですか?今回王家から叱責されケチがついた傷物でしてよ?あの中では一番のちんちくりんでしたし、殿下にも嫌われていました。私などよりも、グリーク卿でしたら引く手数多でしょうに。」

「いえ、恨みつらみなど嘆きたいことはたくさんあったでしょうに、いつでも前向きで、出来ることから取り組もうとする姿勢が素晴らしいと……いつも感心していたのです。」

「そう言われると、純粋に嬉しいですわ。私、勉強ばかり、と殿下に言われたように、あまり他の楽しいことをしてこなかったので、だから、他のご令嬢のようには振る舞えなかったのですわ。だから、押し付けるにはちょうど良い、と思われたのかもしれません。」

コリーナは今回のことで反省したのだ。もう少し世間を知っていれば回避出来たことがあるのかもしれなかった。

考えるのをやめたのはその方が楽だったから。

「グリーク卿の申し出は大変嬉しく思います。ただ流されるだけではまた間違いが起こると大変なので、まずはお友達から始めませんか?怖がらずにまずは貴方を知っていきたいのです。」

グリーク卿はこんな顔もできるのだと思うほどの穏やかな顔をして、了承してくれた。
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