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何も知らなかった伯爵令嬢②
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「貴女達の代は不作だと言われていたのよ。勉強はできるのよ。でも我が強い。我が強いのは悪いことばかりではないけれど、我が強い者達を諌めて、宥めて纏められる人間が必要だったの。ヨハンはあんな愚か者に育ってしまったけど、婚約者を決めたらどうにかなると、思ってしまったのよね。まさか、婚約者候補達も同じように愚かだとは気が付かなかった。
今回、エリザベス嬢が提案したこととはいえ、皆がその提案に乗って決めてしまったことで、彼女達は脱落したわ。彼女達は、自らが望んでその立場を放棄したけれど、だからといって全てを許す気はないの。愚息とそこまで婚約したくなかったなら、別のやり方があった筈よ。
だから、その点では貴女も同罪よ。貴女もジャンケンで決めるのに同意したのだから、見合った罰を受けて貰うわ。」
王妃様を前に、コリーナはお茶の味がわからないほど緊張していた。高くて良いお茶であることはわかるものの、内容はやはりあのジャンケンの日のことだった。あれはやはり不敬罪にあたり、参加したご令嬢は皆罰せられると言う。
提案したエリザベス嬢、恋人がいながら、候補者に名乗りを上げた家には更なる罰が、与えられるらしい。
「勿論、これまで愚息が迷惑をかけたことについては、こちらも謝罪の用意があるわ。罰をと願うならそれに見合った罰を与えることもできるわ。」
「私達は全員脱落、ではなくて、失格というわけですね。貴族としての、この国を導く存在として。」
「ええ。今後どうなって行くかは別として、今の段階では、失格ということになるわ。それを理解して自ら家を出たご令嬢もいるわ。彼女のように平民になれというわけではないの。そこまで強制するつもりもない。だけど、あの場にいた人達は、愚息も含めてこれから厳しい目で見られることを覚悟しておいて。」
「でしたら、今度の夜会では……」
「ええ、今回の婚約者選定は失敗したと伝えて、再教育をお願いする形になるわ。勿論ヨハンも王子教育のやり直しね。幸い陛下もまだ若く、次の代になるまでまだ時間があるわ。それでもどうにもならなければ、困るのは貴女達よ。どうするかはきちんと考えてね。」
「はい。大変申し訳ありませんでした。」
王妃様はここまで厳しい顔をしていたが、お茶を一口飲んで落ち着くと、身を乗り出して、コリーナに顔を近づけた。
「それで、貴女に今日来て貰った本題なんだけれどね。貴女、この前面白いパンを作ったのですってね。」
「え?あ、はい。あの薬草を使って作ったパンですか?少し苦くて美味しくないと思っていたのですけれど、マリアさんにヒントを貰って。」
「マリアさんは今回とても良い働きをしてくれたわ。彼女、今回のご褒美として、貴女と新しいパンを作りたいんですって。」
「あの、マリアさんって一体何者なんですか。」
「あの子は、平民よ。私のパン好き友達なの。」
王妃様は、優しい表情で昔話をしてくれた。
「マリアさんはね、私の親友の娘なの。私が王妃になる勇気がなくて逃げ出した時に助けになってくれた大切な親友の娘。彼女は貴族だったのだけど、貴族の生活が合わなくて平民になったわ。それからマリアさんを産んで、病で亡くなった。彼女がパン屋で働き出してから、時間を見つけてはお忍びでパンを買いに行っているの。でもね、最近あまり行けてなくて、どうせなら近くで見守れないかしら、と思ったのよ。」
「あの薬草を使ったパンは、パンを作ろうと思ったわけではなくて、偶然の産物なんです。」
「でもあれは、平民の為に作ったものではないの?」
「薬草なんて、身近にないからあまり重要ではない、と言われまして、それならばパンでも作れば認めてもらえるかしらと。」
今回、エリザベス嬢が提案したこととはいえ、皆がその提案に乗って決めてしまったことで、彼女達は脱落したわ。彼女達は、自らが望んでその立場を放棄したけれど、だからといって全てを許す気はないの。愚息とそこまで婚約したくなかったなら、別のやり方があった筈よ。
だから、その点では貴女も同罪よ。貴女もジャンケンで決めるのに同意したのだから、見合った罰を受けて貰うわ。」
王妃様を前に、コリーナはお茶の味がわからないほど緊張していた。高くて良いお茶であることはわかるものの、内容はやはりあのジャンケンの日のことだった。あれはやはり不敬罪にあたり、参加したご令嬢は皆罰せられると言う。
提案したエリザベス嬢、恋人がいながら、候補者に名乗りを上げた家には更なる罰が、与えられるらしい。
「勿論、これまで愚息が迷惑をかけたことについては、こちらも謝罪の用意があるわ。罰をと願うならそれに見合った罰を与えることもできるわ。」
「私達は全員脱落、ではなくて、失格というわけですね。貴族としての、この国を導く存在として。」
「ええ。今後どうなって行くかは別として、今の段階では、失格ということになるわ。それを理解して自ら家を出たご令嬢もいるわ。彼女のように平民になれというわけではないの。そこまで強制するつもりもない。だけど、あの場にいた人達は、愚息も含めてこれから厳しい目で見られることを覚悟しておいて。」
「でしたら、今度の夜会では……」
「ええ、今回の婚約者選定は失敗したと伝えて、再教育をお願いする形になるわ。勿論ヨハンも王子教育のやり直しね。幸い陛下もまだ若く、次の代になるまでまだ時間があるわ。それでもどうにもならなければ、困るのは貴女達よ。どうするかはきちんと考えてね。」
「はい。大変申し訳ありませんでした。」
王妃様はここまで厳しい顔をしていたが、お茶を一口飲んで落ち着くと、身を乗り出して、コリーナに顔を近づけた。
「それで、貴女に今日来て貰った本題なんだけれどね。貴女、この前面白いパンを作ったのですってね。」
「え?あ、はい。あの薬草を使って作ったパンですか?少し苦くて美味しくないと思っていたのですけれど、マリアさんにヒントを貰って。」
「マリアさんは今回とても良い働きをしてくれたわ。彼女、今回のご褒美として、貴女と新しいパンを作りたいんですって。」
「あの、マリアさんって一体何者なんですか。」
「あの子は、平民よ。私のパン好き友達なの。」
王妃様は、優しい表情で昔話をしてくれた。
「マリアさんはね、私の親友の娘なの。私が王妃になる勇気がなくて逃げ出した時に助けになってくれた大切な親友の娘。彼女は貴族だったのだけど、貴族の生活が合わなくて平民になったわ。それからマリアさんを産んで、病で亡くなった。彼女がパン屋で働き出してから、時間を見つけてはお忍びでパンを買いに行っているの。でもね、最近あまり行けてなくて、どうせなら近くで見守れないかしら、と思ったのよ。」
「あの薬草を使ったパンは、パンを作ろうと思ったわけではなくて、偶然の産物なんです。」
「でもあれは、平民の為に作ったものではないの?」
「薬草なんて、身近にないからあまり重要ではない、と言われまして、それならばパンでも作れば認めてもらえるかしらと。」
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