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第一章

37 ガインの優しさ

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「誰だお前は!! いや待て、黒い狼…… お前がガインか!!」

レパーダから飛び降りたガインは、サミアンを抱く俺を庇うように、王子の前に立ちはだかった。
(足、ジーンッてしてないかな?十メートル位あったけど……)

レパーダから縄梯子が降ろされ、あと二人降りてくる。
ライヒアと……グランドルッ!?
なんか濃い~メンバーだな……

ガインは剣先を向けられたままだが、怯む様子も無く毅然と王子に言い放つ。

「我が伴侶と、息子を取り戻しに来た」

「どういうつもりだ! ここは後宮だぞ!! 他国の後宮に乗り込むなど、我が国に戦でも仕掛けるつもりかっ!?」

「そんなことは知らん。先に私の館から、伴侶と息子を連れ去ったのはお前達のほうだ。俺は取り戻しに来たまでだ」

ライヒアとグランドルも地上に降り立つとレパーダは、上空を旋回し始めた。流石にあの巨体を静止して浮かせるのは長くは持たないみたいだ。

異変を感じた兵士や、後宮の女達も集まって来て、庭園は一気に賑やかになった。

「王子! これは一体!?」
後宮の外で待たされていたのであろうグリードも、いち早く駆け付けたようだ。

「見て分からんのか!侵入者だ!早く捕らえろ!!」

王子の命令で、駆け付けた兵士達が一斉にガイン達に挑みかかる。
ガインは一歩も引かず、寧ろ後に居る俺達から距離をとるように前進し、剣を抜いた。
「ライヒア、グランドル、後々問題になる。面倒だが、刀背打ちにしてくれ!!」
「分かった!!」
ライヒアが答え、グランドルも頷いた。

後宮の外から続々と兵が増員され、敵の数はおそらく三百人を越えている。
だがその場に三つの竜巻が発生したかのように、三人の周りの兵士達が、次々となぎ倒されて行った………

(ショボくないアルファってすげぇ!!)

三人の勇姿に見惚れていた俺は、いつの間にか、後ろから近づいた王子に気が付かなかった。
だが、王子が俺を捕らえようと襲いかかった瞬間、何者かに阻止される。

「ササキ!?」

そこには、拾った長剣を手にした、ササキがいた。
「貴様、オメガの分際で!!」

王子は、ササキに斬りかかる。
ショボくてもアルファだ。力の差は歴然の筈だ。しかし、防戦一方ではあるが、ササキは意外と健闘している。
(ササキかっこいい!!)
「おい、大丈夫か!?」
「あ、グランドル! ササキを助けて!!」
「たちゅけて!!」
「ササキ?」
聞きなれない名前の響きに、首を傾げるグランドルだが、俺の視線の先に、アルファの王子と戦う、可憐なオメガの姿を確認すると、ササキの救出に向かってくれた。

「き、貴様は、バランドル元首の息子!」
「久しぶりだなルイ王子、我がガレニアの国民を連れ去って只で済むと思うなよ」

「くっ……」


「皆の者、静まれ!王のお成りである!!」
(王様? どんどん大物出てくるけど、俺の誘拐どんどん大事おおごとになってない?)

「グリード……これはどう云うことだ? ルイがこの者たちをガレニアより攫って参ったと云うのは事実か?」
「はっ……それは……」
「父上!それは違います。私共の召喚した神子をこの狼が奪ったのです」
「ルイ、お前には聞いておらん。口を挟むな!グリード、包み隠さず申せ!」
「はっ……」
(ざまあ、怒られてやんの!)

「おそれながら……召喚の儀式を行ったのは事実です。しかし現れたのは神子とは別の人間でした。一緒に召喚された筈の神子はどういうわけか王宮に現れず……ですが、神子の身柄は召喚した私共のものです!」

「そうだ!クリリンは俺の妃になるために、召喚されたのだ!!」
黙ってろって言われたのに王子は口を挟んだ。

「おい……『クリリン』って誰だ?」
いつの間にか、隣に来ていたガインが小声で尋ねてくる。
「俺の偽名……」

王子とグリードはつらつらと言い訳を続けたが、男達の言い争いを遮るように、優しく美しいエリザベートの声が響いた。

「陛下……神子の召喚は、陛下の代で禁じた筈ですわ…… 白竜様は狼族を選び、狼族の元へ神子をお遣わしになったのです。私達ルーシアの国民は黄金竜の恩恵を充分に受け取りました。なのに今、国内は荒れています。私達王家の人間が権力に胡座をかいて私欲に走った結果、貧富の差が生まれたのです。私に使役してくれているニーノも憂いています。ルイ……あなたの愚かな心掛けが、あなたの元に神子が現れない原因です」

辺りは静まり返っていた。
エリザベートの言葉は、ルーシアの人間に深く突き刺さったのだろう。
周りの兵士達もエリザベートに向け深々と頭を垂れた。

 王様は、ガインではなくグランドルに向け口を開いた。
「グランドル殿、この件はお父上のバランドル元首にも後日正式な謝罪を……」

俺は王様の態度が気に入らなかった。国同士の付き合いの方が大事なのは分かるけど、ガインに失礼だ。だが、グランドルの次の一言で王様は青ざめた。

「その必要はございません。ここにおわすお方はガレニア共和国次期元首ガイン様であらせられます。元首の奥方とご子息を攫った罪は、この場で誠意をお見せ下さい」

(次期元首!? どういう事?)
目を見開きガインに確認すると、困ったように片側だけ口角を上げた。

族長の家族と元首の家族では重みが違う。ルーシアの行為は一国を敵に回しかねないのだ。

王様は観念したように目を瞑り、ガインに一礼すると、ルイ達に向き直り、裁きを言い渡した。

「……首謀者ルイと幇助したグリードは、身分剥奪の上、国外追放を言い渡す」

「バカ王子」が只の「バカ」になっちゃうの? しかも国外追放って……

それを黙って聞いていたガインは、なぜかルイとグリードに向かい歩き出し……

バキッ!! ゴキッ!!

突然二人を殴り倒した……

(うーわ、絶対鼻折れてる……頬骨まで行ってるかも!?)

「失礼、こちらもご子息に怪我を負わせてしまったようだ……国外追放まではしなくてもよいでしょう……」

「い、いや、それでは……」
言葉とは裏腹に、王様は少しホッとして見えた。

あ、そうか、これはガインの優しさだ。王様や王妃様にとっては、どんなバカでも可愛い息子だもんね……

国のトップとしては甘いのかもしれないけど、ガインはこれだからみんなに慕われる……
上空でも、レパーダが、満足そうに旋回を速めた。

「おとうたま、かっこいいでちゅ」

俺の腕に抱かれたサミアンも鼻の穴を膨らまし、目をキラキラさせた。
(そうだね……ガインはカッコイイね!)

ガインは俺達に向き直り、手を差し出すと、眉間のシワを緩めて優しく微笑んだ。


「さあ、お前たち、館に帰るぞ!」

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