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第一章
25 人間狩りってヤバくない?
しおりを挟む「クリス様ー、昨日ガイン様と何かあったんですかー?」
「プーッ!!」
俺は、飲んでいたコーヒー(っぽい飲み物)を吹き出した。
「ナンデ? ナンニモナイヨ!!」
ノイがジトーッと明らかに疑いの眼差しでみつめている。
――こいつ、つまらない所で、鋭いなっ!
「きょうのおかあたま、つやつやでちゅ」
――サミアンまでっ!?
何だろう? 妖しい粉でも振り撒いてんのかな?
マーキングされて艶々してるとか恥ずかし過ぎるけど、意識して艶々させてる訳じゃないからなぁ~
昨日はミゲルが気を利かせて、サミアン達が部屋に戻らないよう画策してくれたらしい。持つべき物はデキル参謀だ。
そのミゲルを以てしてもグランドルの扱いは難しい様で、なぜか明日まで滞在が延長された。
俺には関係無いと思って、庭でサミアンと遊んでいたら、グランドルが一人でやって来た。
「よう、クリス。今日は昨日より艶々してるな?」
(やっぱり俺、粉出てるの!?)
「おかあたまに、ちかぢゅくなっ!!」
人型のサミアンが、地べたに座る俺の前で両手を広げ、グランドルから守ってくれた。
(ああっ、サミアン!よいこ!!)
サミアンをまじまじと見つめたグランドルは、ニヤリと笑い、サミアンに問いかけた。
「……名前は?」
(あっ!こいつっ、知ってるくせに!)
「『タミアン』でちゅ!」
(やっぱりドヤ顔!?)
グランドルは口もとを押さえて、笑いを堪えている。
(分かるよ……可愛いだろ?俺の子は…… お前もSなんだな……)
「可愛いな。将来オメガだったら俺のハーレムに入れてやるよ」
(お前の様な輩にはあげません!)
俺はさりげなくサミアンを膝に乗せ保護した。
「何の用だよ、早く帰れば?」
「それがお前の本性か?昨日は俺のお陰で、いつもより燃えただろ?」
「うぅぅ」
(こいつはきっと、ドSだな……)
グランドルは俺とサミアンの前に腰を下ろし、胡座をかいた。
銀色に黒が混じったような変わった色の髪が日に透ける。よく見ると縞模様になっているみたいだ。
「獅子族の総長は、獅子でなくてもなれるの?」
俺が思ったままを口にすると、グランドルは「ぷっ」と吹き出し、気を悪くした様子もなく説明してくれた。
「普通は気を遣うものなんだがな…… 俺は獅子と白虎の混血だか、実力で総長になった。世襲制は廃止されたからな」
(ふーん!ライガーってやつだな?)
「よっぽど強いんだろうね。混血はどっちの種族からも余所者扱いされただろうから……」
俺もフランスと日本のハーフだったから分かる。今は純日本人的だけどね。
「……思ったより世間知らずと云うわけではないのだな? 俺の母は、獅子しか居ないハーレムで苦労したようなのでな…… 少しお前のことが気になった」
「心配してくれたの?ありがとう! でも大丈夫、俺あまり落ち込まない方だし、ガインとサミアン居るから幸せだよ!ねっ、サミアン」
「ちあわてでちゅ!!」
サミアンの尻尾が飛び出し、高速で揺れている。
人型でフリフリも可愛すぎる~!!
サミアンをギュッと抱き締め、頬を合わせてスリスリする。
ミルクのようなお子様臭もたまらない。
二人でキャッキャウフフとしていたら、呆れ顔のグランドルにため息をつかれた。
「幸せそうでなによりだが、お前、気を付けろよ……」
最後の一言は目が真剣だったので、俺も真面目な顔で聞いた。
「何に気を付ければいいの?」
「ルーシアの人間狩りだ」
『人間狩り』?
例の逃げた神子の件かな? それにしては、表現が物騒だ。
「何も知らないって顔じゃないな?ガインと出逢ったのは五か月前と聞いたが、何か知っているのか?」
またこれか……
「ルーシアに住む狼が来た時に、行方不明の神子の話を聞いただけだよ。俺はルーシアなんて行ったこともないよ」
「そうか……」
グランドルは、ホッとしたのか表情が柔らかくなった。
本当に心配してくれているみたいだ。
「だが、油断するな。国内で神子を発見出来ないルーシアの王政府は、他国にも諜報員を送ったと報告を受けている。実際ルーシアの隣国では人間が行方不明になる事件が多発しているらしい。……ここガレニアはルーシアから離れているから、まだ諜報員は確認されていないが、神子が見つからなければ、いずれ訪れるだろう……」
「連れていかれた人間はどうなるの?」
「さあな」
「調べられる!?」
俺がその神子である可能性は高い……
俺が見つからないことで、誰かが誘拐されているとしたら……?
「なぜだ? 調べることはできるが……」
「だって誰かが俺の代わりにっ!……あっいや、万が一俺が連れて行かれたら戻って来られるのかな~って……」
――ヤバイヤバイ、俺がドラゴンと話が出来ることは秘密だった!
冷や汗だくだくの俺を、グランドルは完全に疑いの目で見ていた……
「まぁいいさ、一応ガインと相談してから調べてみよう……」
そう言って立ち上がると、パンパンと尻の埃を払い、館の方へ戻っていった。
――途中振り返り「ガインに飽きたらいつでも待ってるぞ!」と言い残して……
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