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第一章

19 レースのリボン

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獣人は、人間より成長が早い……
でも、この国には比較対照の人間が殆どいないから、研究されていないみたい。

狼のアルファは10歳には大人と同じ身長になり、成人年齢とされる15歳には、体つきも大人のそれになる。
ガインは11歳でアルファ性に目覚め、その頃から小さいながらも群れを率いていたという。
だから27歳なのにあんなに落ち着いているんだな……
サミアンもあっという間に大人になるのかと思うと、寂しいけど、ヒロシは成人間近でも可愛かったから、きっとサミアンが大人になって、自分より大きくなったとしても可愛いと思ってしまうのだろう……


サミアンに初めて服を着せる。
用意された服は首に布を巻くタイプのシャツだけど、ずっと獣型だったせいか、鬱陶しそうだ。
何かないかと見渡していたら、侍女の髪のリボンが目に入ったので、借りることにした。
黒レースの綺麗なリボンを首の周りで蝶結びしてあげると、楽になったのか嬉しそうにはにかんだ。

「おかあたま、ありがとうごぢゃいまちゅ!」

サミアンはプラチナブロンドのふんわりボブから覗く、白い耳をピコピコ動かした。――喰っちまいたい程、可愛いい!!

晴れた日の朝食はテラスで摂ることになっているので、いつものようにサミアンを抱き上げると……

――――重っ!   

俺の骨格が縮んだせいもあるけど、三歳児並みの幼児を抱きながら一階まで運ぶのは大変だ。
可哀想だけど、手を繋いで行くしかないかな?と思っていたらガインが声を掛けてくれた。

「俺が抱いて行こう……」

俺からサミアンを受け取ると、片腕で軽々と抱いた。

「おとうたま……」

安定感が違うのか、単純にガインの抱っこが嬉しいのか、サミアンはガインの腕の中で、ウットリしている。
甘やかし過ぎかもしれないが、やっと人型になれたんだ。
今は、ドロドロに甘やかしてあげたい……


テーブルでの食事が久しぶりのサミアンは、子供用の背の高い椅子に座り目をキラキラさせた。

「おいちとうでちゅ……」

サミアンは「サ行」が苦手なようで、全部「タ行」になるようだ。
ダメだ!俺のSっ気が疼いてしまうっ……!!

「自分のお名前、言える?」

笑顔でS発言する俺を、ガインとノイが冷めた目で見ている……
でも、どうしても聞きたいんだよー! この耳で!
一瞬キョトンとしたサミアンが、自信満々で口を開いた。

「『タミアン』でちゅ!」

めっちゃドヤ顔ーー!!!

俺はわざわざ席を立ち、サミアンを抱き締め、頭を撫でまくった。
「お利口!! サミアン、お利口さん!!」

サミアンが、フニャフニャ嬉しそうに笑うので、呆れるガインも口元を緩めて微笑んだ。


ガイン父さんは、今日も狼ヘッドで出掛けて行った。
長引いたヒグマ族との争いも、劣勢に追い込まれたヒグマ族が、和睦の申入れをしてきたらしく、あとは条件を決めて話合いで決着するようだ。
ガインは強いので怪我を負って帰ることは無かったが、戦地に向かうのを見送ることは辛かった。
これで、ひとまず安心だ。

庭でサミアンと遊んでいると、サミアンが、俺の首元を不思議そうに眺めていた。
俺の服は誰が選んでいるのか、いつもフリルが付いている。今日は、首にスカーフのような布を巻くタイプのシャツで、朝サミアンに用意された物と同じタイプだ。

「俺も苦しそうに見える?」

尋ねると、サミアンはコクンと頷いた。

ノイにお願いして、黒レースのリボンを用意して貰い、首に蝶結びを作った。

「おかあたま!おとろいでちゅ!」

サミアンが宝石のような瞳をキラキラ輝かせる。サミアンは本当に、お揃い大好きなんだなー。



そんな感じで、毎日既製服をアレンジして、お揃いにしていたら、館の使用人の様子が変わってきた……

「あれ? あの人もレースのリボン巻いてる……」

「お気付きになりましたか? 今狼族で流行っているんですよー。『クリス様とサミアン様の着こなしが、お洒落で可愛い!』と、評判になってますー」

なんだそりゃ? こっちの服ってデザインは凝ってるけど、着崩す人が居ないからかな?

でも、どんなきっかけでも「狼族に受け入れられてきたのかな?」と思ったら、チョット嬉しかった……



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