上 下
18 / 67
第一章

18 おはようごさいます

しおりを挟む

ガインは自分の寝台で眠る、美しい番を眺めていた……

クリスが「あっちではもっと美しかった」という「あっち」の世界での価値観は分からないが、クリスは誰もが息をのむ程美しい……

髪を切る習慣のない獣人には奇妙に見える短い髪も、ガインは好ましく思っていた。

スッキリ切り揃えられた襟足には「番の証」がくっきりと刻まれている。
細く白い首筋にその「証」を確認する度、美しいクリスが、自分のモノだと実感できるのだ。

口を開けば賑やかなクリスだが、最近やたらと可愛らしい……
きっかけは、獣型の俺に暴言を吐いた後の、謝罪だった。

ヒグマ族との小競り合いを終え、狼の頭のまま館に戻ると、廊下でクリスと遭遇した。
喧嘩をしていたこともあるが、この姿を怖れるクリスを怯えさせたくなかった。
顔をそらし通り過ぎようとしたその時、クリスが突然、後ろから抱き付き、謝罪の言葉を口にした……
驚きで一瞬、現状を理解するのに時間を要したが、こちらも悪かったと思い、抱き締めて頭を撫でると、顔を真っ赤にしたクリスは、へらぁっと微妙な笑顔を残し部屋に戻って行った。

翌日から、明らかに俺を意識しているようだった。
目が合う度に乙女の様に頬を染める姿は、36歳と云うのは、嘘なんじゃないかと思う程、初々しい……

お礼をする度、頬を染めて俺の頬に口づけるクリスが愛しくて仕方がない。番だから愛しいのではなく、その人柄全てが好ましい……


クリスとの間には、サミアンが丸くなって眠っている……
クリスと出逢う前の俺は、叔父として甥っ子を可愛く思ってはいたが、深い哀しみの中にあるサミアンをどう扱っていいか、分からなかった。

クリスは、とんだ跳ねっ返りだが、サミアンに対する愛情は本物だ。
獣型になって威嚇する俺に迷わず近づき、怯えるサミアンを助け出した。
考えて出来ることではない……

威嚇をして怖がらせたサミアンも、俺を再び「父」と呼んでくれた。それもこれも、クリスの深い愛情に守られているからだろう……
サミアンを抱き上げると、クリスへの感謝と、サミアンへの愛情が急速に高まり、この二人が自分の守るべき家族だと自覚した。

幸せそうに眠る、愛しいクリスとサミアンを眺めながら、初めて味わう暖かい感情を胸に、俺は眠りについた……


 ~~~~~~~~~~


「クリス……おいっ、起きろ」

ガインの声が、聞こえる……
イケメンは、声までイケメンなんだな……
よく響く……腹の奥がざわめくような色気のある低音……
でも、まだ眠いよ。もう少し……

「起きろ、クリス!大変だ!」

『大変』? こんな朝っぱらから何を言っているんだ?

薄く目を開けた俺は、目の前の見慣れない白い餅のような肌に、一気に重い瞼を引き上げた。

ガインと俺の間には、真っ白な肌に白髪に近いプラチナブロンドの三歳くらいの幼児が、桃色の可愛らしい唇をチュパチュパさせながら、眠っていた。

ガバッと身を起こした俺に、同じように身を起こしていたガインが声を掛ける。

「目が覚めたか? クリス」

「あっ……ガイン、おはよう。この子ってもしかして……」

「ああ……サミアンだ……」

うわっ!狼の姿も可愛いけど、人型もめちゃめちゃ可愛いなっ!
人間よりも成長が早いのかな? まだ二歳になったばかりなのに……

寝返りをうちながら、フニャッと笑ったサミアンが、隣に俺が居ないのに気が付き目を開ける。
真っ白な顔の中に、キレイなライトブルーの瞳が輝いた。

いつもと様子が違うことに気が付いたのか、ポヤンとしながら自分の手を眺めている。

「おはよう、サミアン」

俺が声を掛けると、完全に目が覚めたのか、上体を起こし、俺とガインをキョロキョロ見回した。

「おはようごぢゃいまちゅ、おとうたま、おかあたま……」

「おはようサミアン」

サミアンは、ガインに頭を撫でられてニコニコ笑っているが、俺は、驚きで口が開きっぱなしになった。


サミアンが「おはようごぢゃいまちゅ」って言った!!


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【本編完結済】【R18】異世界でセカンドライフ~俺様エルフに拾われました~

暁月
恋愛
大槻 沙亜耶(おおつき さあや)26歳。 現世では普通の一人暮らしの社会人OL。 男女の痴情のもつれで刺殺されてしまったが、気が付くと異世界でも死にかけの状態に。 そして、拾ってくれたハイエルフのエリュシオンにより治療のためということで寝ている間に処女を奪われていた・・・?! 『帰らずの森』と呼ばれる曰く付きの場所で生活している俺様エルフのエリュシオンに助けられ、翻弄されつつも異世界ライフを精一杯楽しく生きようとするお話です。 生活するうちに色々なことに巻き込まれ、異世界での過去の記憶も思い出していきます。 基本的に俺様エルフに美味しくいただかれています← 【2021/5/19追記】 乙女ゲームとざまぁ要素は4章まで、それ以降は主人公とゆかいな仲間達の波乱万丈な旅行から始まるお話です。 本編は完結しましたが、書ききれなかったその後のお話や番外編などを更新するかも。 宜しければ、そちらもお楽しみください(๑ ˊ͈ ᐞ ˋ͈ ) -------------------------------------- ※ムーンライトノベルスでも掲載しています。 ※R-18要素のある話には「*」がついています ※書きたいものを思うまま書いている初心者です。 ※初めての長編でつたないところが多々あると思います。温かい目で見てくださるとうれしいです。

【完結】高級男娼の俺を一週間買った男は不能でした

華抹茶
BL
男娼イルミリオは『娼館・幻夢の館』の人気ナンバーワンの高級男娼。 一年先まで予約が埋まっている人気者だが、一月の中に一週間だけ直前にしか予約が入れられない特別枠がある。その特別枠一週間分全てを予約した男がいた。 その男がやってきていざ本番!と思ったらなんとその男は不能だった。 『え?俺を抱くために買ったんじゃないの!?なんで不能なのに俺を買ったの!?』 と困惑するイルミリオ。男には訳があるらしく…。 ●9話完結です。 ●1日1話、12時の更新です。 ●設定はふわっとしています。 ●CP以外の絡みもあります。 ●リバもあります。ご注意ください。 ●R-18です。話の内容がアレなので、特にエロがある所に印とかつけてないです。

貧乏男爵令嬢のシンデレラストーリー

光子
恋愛
 私の家は、貧乏な男爵家だった。  ツギハギだらけの服、履き潰した靴、穴の空いた靴下、一日一食しか出ない食事……でも、私は優しい義両親と、笑顔の可愛い義弟に囲まれて、幸せだった。  ――――たとえ、家の為に働きに出ている勤め先で、どんな理不尽な目に合おうと、私は家族のために一生懸命働いていた。  貧乏でも、不幸だと思ったことなんて無い。  本当の両親を失い、孤独になった私を引き取ってくれた優しい義両親や義弟に囲まれて、私は幸せ。だけど……ほんの少しだけ、悔しいと……思ってしまった。  見返したい……誰か、助けて欲しい。なんて、思ってしまったの。  まさかその願いが、現実に叶うとは思いもしなかったのに――  いかにも高級で綺麗なドレスは、私だけに作られた一点もの。シンデレラのガラスの靴のような光輝く靴に、身につけるのはどれも希少で珍しい宝石達で作られたアクセサリー。  いつもと違う私の装いを見たご令嬢は、目を丸くして、体を震わせていた。 「な……なんなんですか、その格好は……!どうして、キアナが……貴女なんて、ただの、貧乏男爵令嬢だったのに―――!」  そうですね。以前までの私は、確かに貧乏男爵令嬢でした。  でも、今は違います。 「今日ここに、我が息子フィンと、エメラルド公爵令嬢キアナの婚約を発表する!」  貧乏な男爵令嬢は、エメラルド公爵令嬢、そして、この国の第二王子であるフィン殿下の婚約者になって、貴方達とは住む世界が違ってしまいました。  どうぞ、私には二度と関わらないで下さい。  そして――――罪を認め、心から反省して下さい。  私はこのまま、華麗なシンデレラストーリーを歩んでいきます。 不定期更新。 この作品は私の考えた世界の話です。魔物もいます。魔法も使います。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。

「こんな横取り女いるわけないじゃん」と笑っていた俺、転生先で横取り女の被害に遭ったけど、新しい婚約者が最高すぎた。

古森きり
恋愛
SNSで見かけるいわゆる『女性向けザマア』のマンガを見ながら「こんな典型的な横取り女いるわけないじゃん」と笑っていた俺、転生先で貧乏令嬢になったら典型的な横取り女の被害に遭う。 まあ、婚約者が前世と同じ性別なので無理~と思ってたから別にこのまま独身でいいや~と呑気に思っていた俺だが、新しい婚約者は心が男の俺も惚れちゃう超エリートイケメン。 ああ、俺……この人の子どもなら産みたい、かも。 ノベプラに読み直しナッシング書き溜め中。 小説家になろう、カクヨム、アルファポリス、ベリカフェ、魔法iらんどに掲載予定。

ましゅまろボディ わがままボディ

香月ミツほ
BL
J.GARDEN46(2019.3.3)に無料配布したものです。短いですが暇つぶしになれば嬉しいです。 異世界の商人の船に転移してそのまま仲間になります。

【完結】前代未聞の婚約破棄~なぜあなたが言うの?~【長編】

暖夢 由
恋愛
「サリー・ナシェルカ伯爵令嬢、あなたの婚約は破棄いたします!」 高らかに宣言された婚約破棄の言葉。 ドルマン侯爵主催のガーデンパーティーの庭にその声は響き渡った。 でもその婚約破棄、どうしてあなたが言うのですか? ********* 以前投稿した小説を長編版にリメイクして投稿しております。 内容も少し変わっておりますので、お楽し頂ければ嬉しいです。

BL r-18 短編つめ 無理矢理・バッドエンド多め

白川いより
BL
無理矢理、かわいそう系多いです(´・ω・)

「霊感がある」

やなぎ怜
ホラー
「わたし霊感があるんだ」――中学時代についたささいな嘘がきっかけとなり、元同級生からオカルトな相談を受けたフリーターの主人公。霊感なんてないし、オカルトなんて信じてない。それでもどこかで見たお祓いの真似ごとをしたところ、元同級生の悩みを解決してしまう。以来、ぽつぽつとその手の相談ごとを持ち込まれるようになり、いつの間にやら霊能力者として知られるように。謝礼金に目がくらみ、霊能力者の真似ごとをし続けていた主人公だったが、ある依頼でひと目見て「ヤバイ」と感じる事態に直面し――。 ※性的表現あり。習作。荒唐無稽なエロ小説です。潮吹き、小スカ/失禁、淫語あり(その他の要素はタグをご覧ください)。なぜか丸く収まってハピエン(主人公視点)に着地します。 ※他投稿サイトにも掲載。

処理中です...