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第一章

4 魅惑のモフモフ

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何だか色々ショックが大きくて、湯船に浸かって放心してます。

それにしてもデカイ風呂……狼の口からお湯が出ているのが、シュールだ……

生まれ変わった俺の顔は、元の顔に似ていなくもない。『俺が生粋の日本人だったらこんな感じなのかな?』くらいの微妙な似具合。どちらかと言うとクウォーターのヒロシに近いかな? ヒロシの方が可愛いけど……
一人息子のヒロシは、本当は姉の子だ。ヒロシが一歳の時に姉夫婦が事故で帰らぬ人となり、ただ一人の身内だった俺が、男手一つで育てた。

「俺まで事故で死ぬとはなぁ……」

残してきたヒロシを思うと泣きそうになるが、顔をばしゃばしゃ洗って誤魔化した。よし、俺は泣いていない!!
幸いヒロシには、将来を誓いあった相手が居る。きっと幸せになってくれるだろう。俺もここで生きるしかないなら泣いてる場合じゃない!

風呂から上がると脱衣所に新しい服が用意されていた。ノイの服装や部屋の装飾から予想された通りの貴族的デザインだが、フリルいっぱいのブラウスだって怖いほど似合ってしまうのが、この俺だ。

「くっ、似 合 わ ねぇ~!」

姿見を見て愕然とする。そうだ、今の俺って地味だった……
着せられてる感、満載……
文明開化当時の日本人って感じ?

横から覗きこむ、ノイの反応が気になる……

「とってもお似合いですー!」
ノイの真意が分からない……
こいつは平気で嘘がつける男なのだろうか?

「テラスでガイン様がお待ちです。お食事も、そちらに用意してございます」

ガインか……まだ会いたくないな……
でもここはおそらく奴の家で、家主に挨拶しないわけにもいかないだろう。
ノイの案内でテラスに向かった俺だが、扉を開けたノイの第一声に、いきなりツッコミ入れる羽目になった。

「ガイン様、奥様をお連れしました」

「奥様ぁ!?」

庭に続くテラスにはイケメンモードのガインと、警戒するように離れて伏せている白い仔犬が見えた。犬?狼なのかな?どっちでもいいけど真っ白で、めちゃめちゃ可愛い!

……だが、それより今は『奥様』だ。

「奥様って何の事?」
「番契約をしただろう?忘れたのか?」
またこいつら『何言ってるの?』って顔で見てる……
「番契約が何だか知らないけど、俺はこの世界の人間じゃない。『滝川クリス三十六歳』向こうの世界で死んで、目が覚めたら、裸で戦場に居ただけだ!」

ガインとノイが、目を見開いて驚いている……そんなに驚く事? 寧ろお前たちの方が、色々とビックリ人間だぞ!

「異世界人か!? 三十六歳には見えん! 誰に召喚されたんだ!?」

おっと『召喚』出ちゃったよ。この世界、本当にファンタジーなんだな。

「そんなの俺が知りたいよ。大体、本当に死んだのか確認もとれないし……。それより『奥様』ってどういう事? 俺、男なんだけど!!」

明らかに面倒くさそうな顔をしたガインは「そこからか……」と言って説明を始めた……

この世界は、獣の遺伝子を受け継いだ獣人により成り立っている。大きな国では、あらゆる種族が共生しているが、ここガレニア共和国では各種族が別々に、それぞれのルールで生活していて、時々異種族同士の内乱が起こるらしい。
男女の性別の他に『アルファ・ベータ・オメガ』という性別があり、オメガは男でも子供を孕める性なのだそうだ…… 狼族は特にその性質が顕著に表れ、一番強いアルファが群れのリーダーになる。生涯一人の伴侶と生活を共にする一夫一妻制だ。
番の契約は、性交中に首筋を噛むことで成立する……

「ちょっと待て!つまり、俺はお前の伴侶になったのか!?」

「そうだ、お前がフェロモンを出し、俺の本能がそれに呼応した。そうなったらどんな奴でも理性は保てない」

ガインは、悪びれもせずそう言った。
いきなり襲ったくせにー!!

「俺はオメガじゃない!ただの男が子供なんて産める訳無いじゃないか?」
「お前は紛う事無くオメガだ、男のオメガは最初の性交では孕まないが、アルファの種を腹に迎えることにより、妊娠可能な体になる」
「え?じゃあ俺は妊娠可能になってるの?」
「そう云うことだ」

最悪の上は何と表現すればいいのだろう? 俺は犯されただけじゃなく、妊娠できる体にされたのか?
それに伴侶? 俺の事、好きでも無いのに疑問に思わないの?

色々腑に落ちないでいる俺の目に、白い仔犬が飛び込んで来た。俺がうるさくしたから此処から移動したいらしく、ヨタヨタ歩く姿が絶妙に可愛い。

今、それどころじゃないけど無性にモフりてぇー!

俺は、仔犬に近付きヒョイと持ち上げ抱き締めた。

うっはっ!なんだ、このモフモフ!?
見た目以上に柔らかいフサフサした被毛に顔を擦り寄せると、柔らかい肉球でペタペタと押し戻される。仔犬は少し怯えているようだ。
「ふふっ、大丈夫、怖いことしないよ」
よく見ると、仔犬の瞳はガインと同じライトブルーだ。この子もやっぱり、狼なのかな?
俺はニコリと笑いかけ、優しく背中を撫でた……
「キュン」と小さく鼻を鳴らすと、安心したのか大人しくなり、あっという間に俺の腕の中で眠り始める。

あっ、ガイン達放置しちゃった!
恐る恐るガインとノイを見ると、またもや目を見開き驚きの表情だ。
さっきから何度も珍獣を見るような視線で見られて気分が悪い。

「――サミアンが大人しく抱かれている……」

「この子『サミアン』って言うの?」
「ああ……弟の忘れ形見なのだが、弟が亡くなってから誰にも心を開かないのだ……最近は人型をとることも無くなった……」
『人型』ってことは、この子もガインみたいに変身するのか?
やっぱりファンタジーだな……
でも、腕の中のモフモフは純粋に可愛い。『忘れ形見』と云う言葉に息子のヒロシを思い出す……亡くなった姉の分まで愛情を注ぎ込んだ自慢の息子だ。
この子にも愛情を注いでくれる人が必要なのだろう……
自分の腕の中を『安心できる場所』と認識してくれたサミアンに、急激に父性を刺激される……

「ガインの伴侶は遠慮するけど、サミアンの父ちゃんになら、なってもいいよ」

「えぇぇ!奥様ー、それは駄目ですー! 伴侶になって頂かないと!」
ノイは両手をブンブン振りながら何とか説得しようとしているが、そんなの知ったこっちゃない。
誰がレイプ魔の伴侶になるか!!

信じられないといった表情のガインは、眉間に皺を寄せると、
「チッ、勝手にしろ!」
と言ってテラスから出て行ってしまった。

また舌打ち。やっぱりあいつ嫌いだ。



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