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不死の獣と旅人
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むかしむかし、不死の獣がおりました。
森の奥の奥、深くて暗いところにおりました。
ひとりぼっちでおりました。
永遠にも思えるときを、ひとりぼっちでおりました。
それは黒くて醜い獣でした。
むかし、万病に効き、死者をも甦らせる薬を求める旅人がおりました。
なくした友を取り戻すために旅をしておりました。
山を越え、谷を越え、大河を渡り、海を渡り、ひとりきりで旅をしておりました。
それはそれは美しい旅人でした。
あるとき、旅人は町で森の奥の奥、深くて暗いところに不死の獣がいるのだと聞きました。
森の奥の奥、深くて暗いところまでの道のりは険しいものでした。
森には狼や毒蛇や熊がおりました。森の奥には人を喰う魔物がおりました。
崖があり、流れの急な川がありました。
森の奥の奥は崖の向こうにありました。
遠回りをして、急流をなんとか乗り越え、旅人は森の奥の奥に入りました。
うっそうとした森に、もう太陽の光は届きません。
旅人は暗い森をひとりきり、深いところまで歩いていきました。
そうして歩いていると旅人はぽっかりと開いた大きな穴のなかに落ちてしまいました。
旅人は落ちて落ちて、生臭く毛むくじゃらのものにぽすりと尻もちをつきました。
それは温かく柔らかいものでした。
旅人はたずねました。「お前は不死の獣かい?」
それがこたえました。「そう、不死の獣だよ」
旅人はさらにたずねました。「万病に危機、死者をも甦らせる薬を知らないかい?」
不死の獣がこたえました。「そんなものは聞いたことがない」
旅人ががっくりと肩を落とします。
不死の獣は旅人をあわれに思って、しばらくこの暗くて深い森の中にとどまるように言いました。
森の奥の奥、深くて暗いこの場所は人間が足を踏み入れたことのない場所でした。
もしかしたら、この暗くて深い森の中でならなにか見つかるかもしれません。
旅人は不死の獣の言うとおりに、この暗くて深い森の中にとどまることにしました。
旅人はこの暗くて深い森の中にとどまるため、すこしばかりの木を切って小屋をたてました。
暗くて深い森の中にはすこしばかりの陽の光が入るようになりました。
旅人は昼は森の中をいろいろと探しながら、夜は不死の獣に旅のはなしを聞かせてやりました。
そうして幾月かがすぎました。
不死の獣はときおり穴の中から旅人のひらいた陽の光が入る場所へ出るようになりました。
陽のあたる場所に出ても不死の獣はやはり真っ黒でした。
毛むくじゃらで角がある、醜い獣でした。
そして旅人は陽の光のような金色の髪に青い目の、美しい人間でした。
不死の獣は泣きました。
美しい母親が不死の獣を醜いからと捨てていったのを思い出したのです。
もう、ずっとずっと、どのくらいむかしなのかも分からないくらいに、むかしのことでした。
もう、美しかった母親の顔も思い出せないくらいに、むかしのことでした。
けれど「醜いからいらない」と言った母親の声を、なんどもなんども思い出しました。
旅人は不死の獣を深くて暗い森の中のこんこんと水の湧きだす泉へと連れていきました。
そこで不死の獣の体を洗ってやりました。
それから陽の光のあたる場所へ連れていきました。
そして不死の獣の毛むくじゃらを、なんどもなんども梳いてやりました。
よいにおいの香油をつけてやり、なんどもなんども梳いてやりました。
そうるともう不死の獣の毛むくじゃらは毛むくじゃらではなくなりました。
つやつやした美しい毛並みになりました。
旅人は不死の獣の角も磨いてやりました。
不死の獣はもう醜い獣ではありませんでした。
森の奥の奥、深くて暗いところにおりました。
ひとりぼっちでおりました。
永遠にも思えるときを、ひとりぼっちでおりました。
それは黒くて醜い獣でした。
むかし、万病に効き、死者をも甦らせる薬を求める旅人がおりました。
なくした友を取り戻すために旅をしておりました。
山を越え、谷を越え、大河を渡り、海を渡り、ひとりきりで旅をしておりました。
それはそれは美しい旅人でした。
あるとき、旅人は町で森の奥の奥、深くて暗いところに不死の獣がいるのだと聞きました。
森の奥の奥、深くて暗いところまでの道のりは険しいものでした。
森には狼や毒蛇や熊がおりました。森の奥には人を喰う魔物がおりました。
崖があり、流れの急な川がありました。
森の奥の奥は崖の向こうにありました。
遠回りをして、急流をなんとか乗り越え、旅人は森の奥の奥に入りました。
うっそうとした森に、もう太陽の光は届きません。
旅人は暗い森をひとりきり、深いところまで歩いていきました。
そうして歩いていると旅人はぽっかりと開いた大きな穴のなかに落ちてしまいました。
旅人は落ちて落ちて、生臭く毛むくじゃらのものにぽすりと尻もちをつきました。
それは温かく柔らかいものでした。
旅人はたずねました。「お前は不死の獣かい?」
それがこたえました。「そう、不死の獣だよ」
旅人はさらにたずねました。「万病に危機、死者をも甦らせる薬を知らないかい?」
不死の獣がこたえました。「そんなものは聞いたことがない」
旅人ががっくりと肩を落とします。
不死の獣は旅人をあわれに思って、しばらくこの暗くて深い森の中にとどまるように言いました。
森の奥の奥、深くて暗いこの場所は人間が足を踏み入れたことのない場所でした。
もしかしたら、この暗くて深い森の中でならなにか見つかるかもしれません。
旅人は不死の獣の言うとおりに、この暗くて深い森の中にとどまることにしました。
旅人はこの暗くて深い森の中にとどまるため、すこしばかりの木を切って小屋をたてました。
暗くて深い森の中にはすこしばかりの陽の光が入るようになりました。
旅人は昼は森の中をいろいろと探しながら、夜は不死の獣に旅のはなしを聞かせてやりました。
そうして幾月かがすぎました。
不死の獣はときおり穴の中から旅人のひらいた陽の光が入る場所へ出るようになりました。
陽のあたる場所に出ても不死の獣はやはり真っ黒でした。
毛むくじゃらで角がある、醜い獣でした。
そして旅人は陽の光のような金色の髪に青い目の、美しい人間でした。
不死の獣は泣きました。
美しい母親が不死の獣を醜いからと捨てていったのを思い出したのです。
もう、ずっとずっと、どのくらいむかしなのかも分からないくらいに、むかしのことでした。
もう、美しかった母親の顔も思い出せないくらいに、むかしのことでした。
けれど「醜いからいらない」と言った母親の声を、なんどもなんども思い出しました。
旅人は不死の獣を深くて暗い森の中のこんこんと水の湧きだす泉へと連れていきました。
そこで不死の獣の体を洗ってやりました。
それから陽の光のあたる場所へ連れていきました。
そして不死の獣の毛むくじゃらを、なんどもなんども梳いてやりました。
よいにおいの香油をつけてやり、なんどもなんども梳いてやりました。
そうるともう不死の獣の毛むくじゃらは毛むくじゃらではなくなりました。
つやつやした美しい毛並みになりました。
旅人は不死の獣の角も磨いてやりました。
不死の獣はもう醜い獣ではありませんでした。
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