5 / 21
第1章 夜会
(5)やはり、周囲が見えていらっしゃらないようですね
しおりを挟む
ディーデリヒ様の発言一つで貴族たちの中で拮抗していた第一王子派と第三王子派の勢力は一気に第三王子派へと傾いた。
ヘルムート殿下はそんな空気には気づいていないだろうけれど。
「それではヘルムート殿下、ご納得いただけましたか?」
「ならば誰がマヌエラを虐めたんだ」
「……不在にしていたわたしが知るはずもないことです」
「だがお前が裏で糸を引いていたのだろう」
どうしてそうなるのか。頭が痛くなってきた。
「わたしがマヌエラ様を虐める理由がありません」
「なにを言う。マヌエラの可愛らしさに嫉妬し、俺との結婚がなくなると思って焦ったのだろう」
危うく、はしたなくも「はぁ?」と声が出てしまうところだった。クラクラと目が回りそう。ディーデリヒ様の気遣わしげな視線が痛い。
「お前は婚約したものの俺に気に入られず、そこにマヌエラが現れたのだからな」
あれ? とわたしは気づいた。
時系列がおかしい。マヌエラ様が学院に編入されたのは一年前で、ヘルムート殿下とわたしの婚約が結ばれたのは一ヶ月前、それも十日前には解消されている。
「ヘルムート殿下、マヌエラ様と出会われたのはそんなに最近のことだったのですか……?」
「マヌエラとは、マヌエラが学院に編入してきたときに出会った。それがどうした」
「わたしとの婚約が結ばれたのは一ヶ月前でございますよね。マヌエラ様と出会われたあとではないのですか」
「一ヶ月前?」
わたしが北部セトレア共和国の学園の課程を修了し、帰国して試験と論文で学院の卒業を認められたのを機にヘルムート殿下との婚約は正式なものとなった。
けれど、その直後に情勢が急転し十日前に婚約は解消となったのだ。
「一ヶ月前、国王陛下の命で婚約となりましたが発表はされないまま解消となりました」
「王命だと?」
「はい。婚約については正式な発表は行っておりませんでしたし、ですので解消についてもとくに発表の必要はないとの国王陛下のご判断でございます」
「お前は王命で婚約したのか?」
引っ掛かるのはそこなの?
「えっと……そうでなくては、なぜヘルムート殿下と婚約するのですか……?」
隣でディーデリヒ様が下を向いて口許を押さえている。堪えようとはしているらしいけれど『ふっ…』とか『ククッ』とか呼気が漏れていた。
その向こうの少し離れたところでは一緒に入場した兄の背中が見える。後ろを向いている上にその肩の震えは笑いを堪えきれていないことを示していた。
わたし個人としては笑い事ではないのだけれど。
ヘルムート殿下はそんな空気には気づいていないだろうけれど。
「それではヘルムート殿下、ご納得いただけましたか?」
「ならば誰がマヌエラを虐めたんだ」
「……不在にしていたわたしが知るはずもないことです」
「だがお前が裏で糸を引いていたのだろう」
どうしてそうなるのか。頭が痛くなってきた。
「わたしがマヌエラ様を虐める理由がありません」
「なにを言う。マヌエラの可愛らしさに嫉妬し、俺との結婚がなくなると思って焦ったのだろう」
危うく、はしたなくも「はぁ?」と声が出てしまうところだった。クラクラと目が回りそう。ディーデリヒ様の気遣わしげな視線が痛い。
「お前は婚約したものの俺に気に入られず、そこにマヌエラが現れたのだからな」
あれ? とわたしは気づいた。
時系列がおかしい。マヌエラ様が学院に編入されたのは一年前で、ヘルムート殿下とわたしの婚約が結ばれたのは一ヶ月前、それも十日前には解消されている。
「ヘルムート殿下、マヌエラ様と出会われたのはそんなに最近のことだったのですか……?」
「マヌエラとは、マヌエラが学院に編入してきたときに出会った。それがどうした」
「わたしとの婚約が結ばれたのは一ヶ月前でございますよね。マヌエラ様と出会われたあとではないのですか」
「一ヶ月前?」
わたしが北部セトレア共和国の学園の課程を修了し、帰国して試験と論文で学院の卒業を認められたのを機にヘルムート殿下との婚約は正式なものとなった。
けれど、その直後に情勢が急転し十日前に婚約は解消となったのだ。
「一ヶ月前、国王陛下の命で婚約となりましたが発表はされないまま解消となりました」
「王命だと?」
「はい。婚約については正式な発表は行っておりませんでしたし、ですので解消についてもとくに発表の必要はないとの国王陛下のご判断でございます」
「お前は王命で婚約したのか?」
引っ掛かるのはそこなの?
「えっと……そうでなくては、なぜヘルムート殿下と婚約するのですか……?」
隣でディーデリヒ様が下を向いて口許を押さえている。堪えようとはしているらしいけれど『ふっ…』とか『ククッ』とか呼気が漏れていた。
その向こうの少し離れたところでは一緒に入場した兄の背中が見える。後ろを向いている上にその肩の震えは笑いを堪えきれていないことを示していた。
わたし個人としては笑い事ではないのだけれど。
61
お気に入りに追加
4,736
あなたにおすすめの小説
妹に醜くなったと婚約者を押し付けられたのに、今さら返せと言われても
亜綺羅もも
恋愛
クリスティーナ・デロリアスは妹のエルリーン・デロリアスに辛い目に遭わされ続けてきた。
両親もエルリーンに同調し、クリスティーナをぞんざいな扱いをしてきた。
ある日、エルリーンの婚約者であるヴァンニール・ルズウェアーが大火傷を負い、醜い姿となってしまったらしく、エルリーンはその事実に彼を捨てることを決める。
代わりにクリスティーナを押し付ける形で婚約を無かったことにしようとする。
そしてクリスティーナとヴァンニールは出逢い、お互いに惹かれていくのであった。
妹に全部取られたけど、幸せ確定の私は「ざまぁ」なんてしない!
石のやっさん
恋愛
マリアはドレーク伯爵家の長女で、ドリアーク伯爵家のフリードと婚約していた。
だが、パーティ会場で一方的に婚約を解消させられる。
しかも新たな婚約者は妹のロゼ。
誰が見てもそれは陥れられた物である事は明らかだった。
だが、敢えて反論もせずにそのまま受け入れた。
それはマリアにとって実にどうでも良い事だったからだ。
主人公は何も「ざまぁ」はしません(正当性の主張はしますが)ですが...二人は。
婚約破棄をすれば、本来なら、こうなるのでは、そんな感じで書いてみました。
この作品は昔の方が良いという感想があったのでそのまま残し。
これに追加して書いていきます。
新しい作品では
①主人公の感情が薄い
②視点変更で読みずらい
というご指摘がありましたので、以上2点の修正はこちらでしながら書いてみます。
見比べて見るのも面白いかも知れません。
ご迷惑をお掛けいたしました
婚約破棄でみんな幸せ!~嫌われ令嬢の円満婚約解消術~
春野こもも
恋愛
わたくしの名前はエルザ=フォーゲル、16才でございます。
6才の時に初めて顔をあわせた婚約者のレオンハルト殿下に「こんな醜女と結婚するなんて嫌だ! 僕は大きくなったら好きな人と結婚したい!」と言われてしまいました。そんな殿下に憤慨する家族と使用人。
14歳の春、学園に転入してきた男爵令嬢と2人で、人目もはばからず仲良く歩くレオンハルト殿下。再び憤慨するわたくしの愛する家族や使用人の心の安寧のために、エルザは円満な婚約解消を目指します。そのために作成したのは「婚約破棄承諾書」。殿下と男爵令嬢、お二人に愛を育んでいただくためにも、後はレオンハルト殿下の署名さえいただければみんな幸せ婚約破棄が成立します!
前編・後編の全2話です。残酷描写は保険です。
【小説家になろうデイリーランキング1位いただきました――2019/6/17】
虐げられていた姉はひと月後には幸せになります~全てを奪ってきた妹やそんな妹を溺愛する両親や元婚約者には負けませんが何か?~
***あかしえ
恋愛
「どうしてお姉様はそんなひどいことを仰るの?!」
妹ベディは今日も、大きなまるい瞳に涙をためて私に喧嘩を売ってきます。
「そうだぞ、リュドミラ!君は、なぜそんな冷たいことをこんなかわいいベディに言えるんだ!」
元婚約者や家族がそうやって妹を甘やかしてきたからです。
両親は反省してくれたようですが、妹の更生には至っていません!
あとひと月でこの地をはなれ結婚する私には時間がありません。
他人に迷惑をかける前に、この妹をなんとかしなくては!
「結婚!?どういうことだ!」って・・・元婚約者がうるさいのですがなにが「どういうこと」なのですか?
あなたにはもう関係のない話ですが?
妹は公爵令嬢の婚約者にまで手を出している様子!ああもうっ本当に面倒ばかり!!
ですが公爵令嬢様、あなたの所業もちょぉっと問題ありそうですね?
私、いろいろ調べさせていただいたんですよ?
あと、人の婚約者に色目を使うのやめてもらっていいですか?
・・・××しますよ?
妹ばかりを贔屓し溺愛する婚約者にウンザリなので、わたしも辺境の大公様と婚約しちゃいます
新世界のウサギさん
恋愛
わたし、リエナは今日婚約者であるローウェンとデートをする予定だった。
ところが、いつになっても彼が現れる気配は無く、待ちぼうけを喰らう羽目になる。
「私はレイナが好きなんだ!」
それなりの誠実さが売りだった彼は突如としてわたしを捨て、妹のレイナにぞっこんになっていく。
こうなったら仕方ないので、わたしも前から繋がりがあった大公様と付き合うことにします!
義妹がすぐに被害者面をしてくるので、本当に被害者にしてあげましょう!
新野乃花(大舟)
恋愛
「フランツお兄様ぁ〜、またソフィアお姉様が私の事を…」「大丈夫だよエリーゼ、僕がちゃんと注意しておくからね」…これまでにこのような会話が、幾千回も繰り返されれきた。その度にソフィアは夫であるフランツから「エリーゼは繊細なんだから、言葉や態度には気をつけてくれと、何度も言っているだろう!!」と責められていた…。そしてついにソフィアが鬱気味になっていたある日の事、ソフィアの脳裏にあるアイディアが浮かんだのだった…!
※過去に投稿していた「孤独で虐げられる気弱令嬢は次期皇帝と出会い、溺愛を受け妃となる」のIFストーリーになります!
※カクヨムにも投稿しています!
せっかく家の借金を返したのに、妹に婚約者を奪われて追放されました。でも、気にしなくていいみたいです。私には頼れる公爵様がいらっしゃいますから
甘海そら
恋愛
ヤルス伯爵家の長女、セリアには商才があった。
であれば、ヤルス家の借金を見事に返済し、いよいよ婚礼を間近にする。
だが、
「セリア。君には悪いと思っているが、私は運命の人を見つけたのだよ」
婚約者であるはずのクワイフからそう告げられる。
そのクワイフの隣には、妹であるヨカが目を細めて笑っていた。
気がつけば、セリアは全てを失っていた。
今までの功績は何故か妹のものになり、婚約者もまた妹のものとなった。
さらには、あらぬ悪名を着せられ、屋敷から追放される憂き目にも会う。
失意のどん底に陥ることになる。
ただ、そんな時だった。
セリアの目の前に、かつての親友が現れた。
大国シュリナの雄。
ユーガルド公爵家が当主、ケネス・トルゴー。
彼が仏頂面で手を差し伸べてくれば、彼女の運命は大きく変化していく。
チート過ぎるご令嬢、国外追放される
舘野寧依
恋愛
わたしはルーシエ・ローゼス公爵令嬢。
舞踏会の場で、男爵令嬢を虐めた罪とかで王太子様に婚約破棄、国外追放を命じられました。
国外追放されても別に困りませんし、この方と今後関わらなくてもいいのは嬉しい限りです! 喜んで国外追放されましょう。
……ですが、わたしの周りの方達はそうは取らなかったようで……。どうか皆様穏便にお願い致します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる