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51.謁見の間
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王城に到着すると、謁見できる服装ではないという事で着替えさせられた。
オーギュストとアルフォンスは控室で待機だけど、マティス達兄弟はちょうど着替えて隣の部屋から出てきたところだった。
「こんな窮屈な服は初めてだよぅ、貴族っていつもこんな服着てるなんて可哀想だね」
まだ幼さの残る声のリアムの素直な感想に、着替えを担当した侍女達がクスクスと微笑まし気に笑っている。
それにしても、普段の冒険者スタイルも似合っていたけど、意外にも貴族スタイルもかっこよくてとても似合う。
「三人共、すごく似合ってる! かっこいいよ!」
「えへへ、ありがとう! サキもすごく似合ってて綺麗だね」
素直に賞賛してくれるリアムと違い、マティスとユーゴは照くさそうにモジモジしているのがほっこりする。
「アーサーは私が抱いて行こう」
そう言ってマティスがアーサーを抱き上げると、途端にキリッとした表情になった。
やはり眷属としてフェンリル相手だと気合が入るのだろうか。
「では謁見の間にご案内いたします」
文官らしき恰好の貴族が先導するようだ。
『面倒だがこれで色々片付けるしかあるまい。サミュエルはともかく、あやつの周りは面倒な者が多すぎる』
「そうだね……」
疲れの滲むアーサーの声に、私は複雑な思いで頷いた。
移動中に謁見の間での作法を案内の貴族に教えてもらい、大きな扉の前に到着すると、大聖堂でのお披露目の時のように名前が呼ばれた。
扉が左右に開くと、小さめの体育館くらいの広さの突き当りに王族が揃っているようだった。
中央に敷かれた赤い絨毯を踏みしめ、玉座へと近付く。
集まっている貴族達の好奇の、欲望の、嫉妬の視線を感じる。
その中にはとても強い憎悪の視線も。
萎縮しそうになるのをこらえて、できるだけ優雅に付け焼刃のカーテシーをした。
「よく来た聖女サキよ、昨日は色々と大変だったようだな。愚息に代わって謝罪しよう。顔を上げてくれ」
王様の言葉に周囲の貴族達がざわつく、きっとお披露目後の王太子のしでかした事を知らないのだろう。
顔を上げると王様の横に微笑んで私を見つめるサミュエルと、憎々し気に私を睨む王太子夫妻がいた。
反対隣りには感情の読めない王妃が座っている。
王太子がここにいるという事は、昨日の事はお咎めなしなんだろうか。
もしそうだとしたら、この王様も愚王だと言うしかない。
そんな中、一人の貴族のおじさんが私達と王様の間に出てきた。
立っている位置からして、きっと偉い貴族なのだろう。
「王様! この娘は王太子に逆らった者なのでしょう!? でしたら王室反逆罪に問われるべきではありませんか!? 本来なら極刑ですが、聖女としてお披露目した後ですので隷属か従属の契約を施した後で王太子の側室にするのはどうでしょう」
ニヤニヤと下衆な笑みを浮かべながら、とんでもない事言い出したよ、このクソ野郎!!
思わずカッとなったが、王様が軽く手を上げておっさんを黙らせた。
「ヴァロワ公爵、礼を欠いたのは王太子なのだぞ。フェンリル、そしてその主である聖女サキはこの国を、いや、世界の存亡を左右する存在なのだ。ゆえに余は今回の事を重く受け止め、ジェルマンを廃嫡することにした!」
「なんですと!? お考え直しください王様! それでは王妃となるべく努力してきた我が娘はどうなるのですか!?」
なるほど、ヴァロワ公爵は王太子妃の父親だってオーギュストが言っていたっけ。
だからアーサーの力を手に入れつつ、将来的に王妃の父という立場が欲しいのか。
それにしても王様がまともな人でよかった!
「それともうひとつ報告せねばならん事がある」
ヴァロワ公爵を無視し、王様が口を開くと謁見の間はシンと静まり返った。
オーギュストとアルフォンスは控室で待機だけど、マティス達兄弟はちょうど着替えて隣の部屋から出てきたところだった。
「こんな窮屈な服は初めてだよぅ、貴族っていつもこんな服着てるなんて可哀想だね」
まだ幼さの残る声のリアムの素直な感想に、着替えを担当した侍女達がクスクスと微笑まし気に笑っている。
それにしても、普段の冒険者スタイルも似合っていたけど、意外にも貴族スタイルもかっこよくてとても似合う。
「三人共、すごく似合ってる! かっこいいよ!」
「えへへ、ありがとう! サキもすごく似合ってて綺麗だね」
素直に賞賛してくれるリアムと違い、マティスとユーゴは照くさそうにモジモジしているのがほっこりする。
「アーサーは私が抱いて行こう」
そう言ってマティスがアーサーを抱き上げると、途端にキリッとした表情になった。
やはり眷属としてフェンリル相手だと気合が入るのだろうか。
「では謁見の間にご案内いたします」
文官らしき恰好の貴族が先導するようだ。
『面倒だがこれで色々片付けるしかあるまい。サミュエルはともかく、あやつの周りは面倒な者が多すぎる』
「そうだね……」
疲れの滲むアーサーの声に、私は複雑な思いで頷いた。
移動中に謁見の間での作法を案内の貴族に教えてもらい、大きな扉の前に到着すると、大聖堂でのお披露目の時のように名前が呼ばれた。
扉が左右に開くと、小さめの体育館くらいの広さの突き当りに王族が揃っているようだった。
中央に敷かれた赤い絨毯を踏みしめ、玉座へと近付く。
集まっている貴族達の好奇の、欲望の、嫉妬の視線を感じる。
その中にはとても強い憎悪の視線も。
萎縮しそうになるのをこらえて、できるだけ優雅に付け焼刃のカーテシーをした。
「よく来た聖女サキよ、昨日は色々と大変だったようだな。愚息に代わって謝罪しよう。顔を上げてくれ」
王様の言葉に周囲の貴族達がざわつく、きっとお披露目後の王太子のしでかした事を知らないのだろう。
顔を上げると王様の横に微笑んで私を見つめるサミュエルと、憎々し気に私を睨む王太子夫妻がいた。
反対隣りには感情の読めない王妃が座っている。
王太子がここにいるという事は、昨日の事はお咎めなしなんだろうか。
もしそうだとしたら、この王様も愚王だと言うしかない。
そんな中、一人の貴族のおじさんが私達と王様の間に出てきた。
立っている位置からして、きっと偉い貴族なのだろう。
「王様! この娘は王太子に逆らった者なのでしょう!? でしたら王室反逆罪に問われるべきではありませんか!? 本来なら極刑ですが、聖女としてお披露目した後ですので隷属か従属の契約を施した後で王太子の側室にするのはどうでしょう」
ニヤニヤと下衆な笑みを浮かべながら、とんでもない事言い出したよ、このクソ野郎!!
思わずカッとなったが、王様が軽く手を上げておっさんを黙らせた。
「ヴァロワ公爵、礼を欠いたのは王太子なのだぞ。フェンリル、そしてその主である聖女サキはこの国を、いや、世界の存亡を左右する存在なのだ。ゆえに余は今回の事を重く受け止め、ジェルマンを廃嫡することにした!」
「なんですと!? お考え直しください王様! それでは王妃となるべく努力してきた我が娘はどうなるのですか!?」
なるほど、ヴァロワ公爵は王太子妃の父親だってオーギュストが言っていたっけ。
だからアーサーの力を手に入れつつ、将来的に王妃の父という立場が欲しいのか。
それにしても王様がまともな人でよかった!
「それともうひとつ報告せねばならん事がある」
ヴァロワ公爵を無視し、王様が口を開くと謁見の間はシンと静まり返った。
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